違法な逮捕・勾留で死亡した16歳少女の遺族が提訴(神戸地裁)、明石署の違法捜査と助長した神戸地検の驚くべき対応

粟野仁雄 ジャーナリスト


「とんでもない取調べと勾留が少女の命を奪いました」と語る向井義博弁護士(2026年7月30日、大阪市北区にて。撮影/粟野仁雄)

 大川原化工機事件や東京五輪をめぐる贈収賄事件で高齢者の「人質司法」がクローズアップされる中、今度は兵庫県警に逮捕され長期勾留された16歳の少女が死亡した。

 2026年6月16日、遺族は、「るな」さん(16歳、仮名)が死亡したのは「違法な取調べや勾留」が原因だとして国と県に約1億900万円の損害賠償を求めて神戸地裁に提訴した。少女を死に追いやった捜査の実態には言葉もない。

 今回は、兵庫県警の取調べの違法を問うものであるが、弁護士は逮捕や勾留を決定した裁判官の責任についても追及するという。

 訴状によると、母親が運営する兵庫県の障害者福祉施設で働いていたるなさんは2025年2月15日、施設が主催したバレンタインイベントで、重度の知的障害がある23歳の女性利用者のSさんが他の参加者に嚙みつこうとしたため、顎に手を添えて制止した。Sさんにけがもなかった。

 ところが、その場面を目撃していたという別の利用者の30代のKさんが4月1日に、「虐待ではないか」と自らが住む加古川市の福祉部障がい者支援課に相談した。Sさんが明石市に住むため、同市が連絡した明石市障害福祉課が4月9日にSさんの両親に連絡。同課の職員が4月10日に自宅を訪れて事情を話すと、両親が明石署に被害届を出した。

暴行の被疑事実で逮捕、釈放後に死亡

 ところが、イベントから4か月後の2025年6月17日午前7時ごろ、るなさんは明石警察署の署員に任意同行を求められ、30代の男性スタッフYさんとともに「Sさんの顎付近を複数回、手の平で押さえつけた」という暴行の被疑事実で逮捕された。大勢の警官が早朝に少女の自宅を訪れたが、母は外出していた。母が「戻るので待ってください」と連絡すると、捜査員は「わかりました」と言ったが、母が帰るとすでに、るなさんは任意同行で連行されていた。るなさんは被疑事実を否認し、7月4日に釈放された。結局、神戸地検は2人を不起訴にした。不起訴理由は明らかにしていない。

 るなさんは、親との面会は完全に禁止され、18日間の勾留生活で急性ストレス障害(ASD)、摂食障害などに陥った。釈放後も一向に改善されず、神戸大学医学部附属病院などへの通院や入院、訪問診療などで治療を受けたが、そのまま12月14日に低栄養状態で死亡してしまう。身長148センチ、体重37.5キロだった身体は、釈放された翌日に計測すると27.7キロになっていた。身体拘束後、10キロも「激痩せ」し、さらに精神不安となったるなさんは急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されていた。

病床のるなさん(2025年12月5日撮影、弁護団提供)

 るなさんの弁護人だった向井義博弁護士(大阪弁護士会)によれば、幼いころから母の姿を見て育ったるなさんは、「お母さんのようになりたい」と、高校進学を選ばずに障害者支援の人生を選択し、小さな体で頑張っていたという。

 傷心の母親や姉ら遺族は、「取調べで無理やり自白を迫られた。違法な逮捕と勾留がなければ、摂食障害で死亡することはなかった」「真実を明らかにして謝ってほしい」と訴え、記者会見でも母親は「真実を教えてほしいです。本日の提訴は事実を明らかにするためのものです。もし過ちがあったのであれば、それを認め、糾していただきたいです」と話していた。これに対し、兵庫県警も神戸地検もコメントを拒否している。

1人だけの聴取

 向井弁護士は「明石署は現場にいた職員や利用者34人(Kさん以外)にまったく聞き取りをせず、知的障害のある1人の目撃証言のみで逮捕したのです。こんな杜撰な捜査はありません」と指摘する。「現場はオープンスペースで、虐待のようなことがあれば、みんなすぐわかる。4か月も経って、るなさんもYさんも誰もそんなことは覚えていない。他の人からもきちっと聞き取りをして、現場をしっかり見れば逮捕などとても必要ではないことはすぐわかるはず」と怒りを隠せない。

 イベントでガトーショコラを作る合間にるなさんが撮影していた楽しそうな写真を、母は警察に持参して説明していたという。現行犯以外で暴行の被疑事実によって身体拘束するようなケースはめったにない。「4カ月前の暴行の被疑事実で逮捕・勾留され、勾留延長もされた。るなさんは16歳です。百歩譲って身体拘束の必要があったとしても、『勾留に代わる観護措置』で少年鑑別所のはず。保護処分が原則である少年法の趣旨からも逸脱している」と向井弁護士は指摘する。釈放後、家裁に送致した形跡もない。

 「慕っていたお母さんとも引き離されてしまったことで、るなさんは精神不安に陥った。完全な面会禁止にしたことなど異常であり、まったく必要はない。一度、私が実情を訴えた裁判官は2度目の勾留延長を却下しましたが、検察の準抗告を合議体が認めてしまった」。

 「罪証隠滅のおそれ」や「逃亡のおそれ」などありえない。

 神戸地検は、神戸地裁に対し勾留請求と接見等禁止を要求。2度の勾留延長が認められた。小野警察署の留置場に移されたるなさんは肉親に会えないまま逮捕から17日目の2025年7月3日、留置場で倒れ嘔吐し、北播磨総合医療センターに救急搬送された。ストレス性胃腸炎と診断されたが、その日のうちに小野署の留置場に戻されている。

 「身体拘束中にるなさんは摂食障害になり、食べようとして吐き出してしまったりしていた。食事ができていないことに対しての健康管理上の大きな問題点が多々ある」(向井弁護士)。

噓を吹き込む取調べ

 釈放されてから亡くなるまで5か月ほど経過しているので、国賠訴訟ではまず、死亡と逮捕・勾留との因果関係がポイントになる。向井弁護士は「逮捕されるまでのるなさんには、そうした精神障害や、摂食障害のような持病どころか、強いダイエット志向もまったくなかった。元々が細身でそんなことは必要なかったですから。明るい性格で、お菓子作りが大好きでイベントのときも、ガトーショコラを作るということですごく張り切っていたんです」。

 Sさんは大勢が集まると落ち着きがなくなって暴れたりわめいたりすることが多かった。この日も、自分の指を嚙んだり、わめいたり、他の人に嚙みつこうとしたため、るなさんが「あかんよ」といってお菓子を与えるなどして落ち着かせた。その際、顎に手を添えていただけだった。るなさんの母はそのときは施設にいなかったが、戻ってきて娘と買い物に出た。夕方ごろ、職員がSさんとKさんを自宅に車で送った。それだけのことだ。

 無実を主張し続けたるなさんの「被疑者ノート」に取調べの様子が書かれている。

「本当はやったんだろう。正直に言え」
「27日にバイバイできると思ってんの?」
「今すなおに言え。27日に帰されへん。その方がお母さんは心配」
「心わって話せ」
「いつまでがんばるん?」
「少年(院)に行きたいんか?」

 また、「今言ったら楽になるぞ Yは言ったぞ」と、共犯とされたYさんが自供したとうそを伝えていた。青木惠子さんの東住吉事件もそうだが、警察がよく使う手だ。

 るなさんが「ママに会いたい」「本当にいつもありがとう。ごめんね。どんな事あってもずっと世界一番自慢。大好きママ」と書き綴っているノートは涙で文字がにじんでいた。

悲劇産む「目撃者証言」

 警察が獲得したとする目撃者証言が、取り返しの付かない冤罪被害を生むことは、最近では昨年、前川彰司さんが再審無罪となった「福井女子中学生殺人事件」(1986年発生)に顕著である。「血の付いた前川(彰司さん)を見た」などと証言していた遊び仲間がいた。しかし、覚醒剤取締法違反など「脛に傷」がある仲間は捜査員から「前川を見たと言えば軽くしてやる」などと餌をぶら下げられて、噓の証言をしていた。

 この事件は、最初にKさんが加古川市役所に「申告」したことが嚆矢だった。

 「障害支援区分はKさんは比較的軽く、Sさんは重かったんです」(向井弁護士)。Sさんは言葉によるコミュニケーションが取れず、明石署も聴取はできなかったはずだという。

 だがKさんはその後、事態の深刻さに青くなったのか、るなさんの母親宛てに「あごをおさえてたと言ってしまったが じっさいはあごに手をそえていた。オーバーに言ってしまった」「自分が言ったことのふりかえりをすると、ぎゃくたいではないと思った。オーバーに言ってしまってすみませんでした」などとする手紙を送ったのである。

 向井弁護士は「Kさんにはるなさんを陥れようとかいう魂胆はなかったのではないかと思います。ただ、施設に対してはなんらかの不満があったのかもしれません。Sさんを落ち着かせようとKさんがスマホ動画を見せたら、『動画見せたりするのは支援ではない』などといわれたりしていました。Kさんには知的障害があり、研修で教わったことと異なると『それは違う、間違っている』と思い込む可能性があります」と打ち明ける。

伏せる不起訴理由

 それはともかく、悲劇の原因は明石署と神戸地検の対応に尽きる。明石署は逮捕前、家宅捜索もしていないし、関係者からの資料収集もしていない。こんな杜撰な捜査があるだろうか。

 ただただ、るなさんを連行し拘束したのだ。憲法33条と刑事訴訟法199条に規定されている逮捕の際の「令状主義」が形骸化している。

 知的障害者が関連した兵庫県の有名な冤罪事件に1974年の「甲山事件」がある。西宮市の知的障害者施設・甲山学園のトイレ浄化槽で園児2人が溺死しているのが発見された。兵庫県警は事故説を退け、保母として学園に勤務していた山田悦子さん(当時22歳)が突き落としたとして殺人罪で逮捕した。裁判では、「差戻し」が繰り返されるなど紆余曲折をたどって1999年に無罪が確定した。兵庫県警は知的障害者の証言などを根拠にしていたが、裁判では無罪判決はあったが有罪判決は一度もなかった。

 今回の訴状は、「捜査機関が通常の人権感覚を持っていれば16歳の少女を18日間もの身体拘束を行い、家族と途絶させ、孤独、不安、恐怖の極みに叩き落とす人権侵害を行う必要などどこにもなかった。違法で杜撰な捜査に徹して16歳の少女は命を落とした」「16歳の少女は、まさに人質司法の最も悲惨な犠牲者。少女の母もその違法性を問う」としている。

 神戸地検には弁護人が不起訴理由告知書の交付を求めたが、担当検事がこれを拒否した。

 向井弁護士は「家裁送致もされていないので『嫌疑なし』か『嫌疑不十分』しかないのに、それも明らかにしない」と不信感を見せる。あぜんとするしかない明石署の「犯罪的捜査」を追認していた同地検、いったい、何を守りたいのか。

 なお、第1回口頭弁論は、神戸地裁で10月21日に行われる。

◎著者プロフィール
粟野仁雄(あわの・まさお) 
 1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部卒。共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『瓦礫の中の群像 阪神大震災』(東京経済)、『アスベスト禍』(集英社新書)、『「この人、痴漢!」と言われたら』(中公新書ラクレ)、『検察に殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)など多数。近著に『袴田巖と世界一の姉——冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い』(花伝社)、『狙われたトップメーカー——冤罪・大川原化工機事件の傷跡』(同社)。神戸市在住。

(2026年09月04日公開)


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