漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第4回 髙橋宗吾弁護士に聞く(3)

先輩から受け継ぎ、若手が変えていく刑事弁護

地域や世代の差を無くし、いろいろな人を巻き込む


刑事弁護のノウハウの共有と社会への発信

 K-Ben Next Gen(ケージェネ)でも活動されていますよね。実はYoutubeのチャンネル登録もしているんです。

 ありがとうございます。

 暇をみつけては見ていますが、髙橋先生は「参加してほしい」と言われて参加したんですか。

 私は立ち上げメンバーの一人です。一番最初にこの話が出たのは、山本衛、中原潤一、赤木竜太郎と僕の4人で話しているときだったと思います。別の仕事でこの4人がたまたま一緒になって、話をする機会が多く、LINEのようなグループがあるんですが、その中で、こういう活動の卵のようなものが生まれてきました。

 それで、周囲にいた頼れる仲間を何人か誘おうということで、現在は7人で運営しています。

 Youtubeは我々が情報発信のためのコンテンツの一つとして捉えていて、これだけが活動のメインというわけではありません。ただ、刑事裁判や司法業界のことをもっとオープンにしたい、社会に情報発信をしていきたいということを僕自身は強く思っているので、自分の中では、これから力を入れていきたい活動の一つです。

 身体拘束の問題や、自白や調書で裁判を終わらせたがる捜査機関の在り方など、日々感じている理不尽に対して、私たちが現場で一人でやるだけでは変わっていかない部分を、社会に発信することで変えていきたいという気持ちがあります。ケージェネは、それを実現するための団体ということで立ち上げました。

 若手弁護士や司法修習生向けに、法廷技術や刑事弁護関係の知識を提供するオンラインサロンも会員数が増えてきました。また、同じ目的でやっているzoom研修も、地方の弁護士会から研修の依頼を受注したりと、結構充実してきています。

 これから、この活動をどうやって業界に、そして一般社会に浸透させていこうかと、今は考えています。

 オンラインサロンは、若手の先生が結構メンバーになったりしているんですか。

 今は、70人くらいの会員がいます。運営メンバーからの定期投稿で刑事弁護の基礎知識や最新情報を発信しています。それと併せて、会員の皆さんからは、日々の弁護活動の中でのちょっとした疑問を気軽に投稿してもらい、それに運営メンバーや、知見を持っている他の会員ができる限り即レスするという形で運用しています。

 会員のみなさんからの質問はとても活発で、運営メンバーとしてもとても勉強になっています。身近に、ちょっとした質問をすぐにできる先輩がいない若手弁護士には、ぜひ一回覗いてみてほしいです。きっと、思っているより気軽な質問が飛び交っていて安心できると思います。

 ケージェネのそもそもの活動理念の一つに、刑事弁護における地域・世代の差を極力なくして、体力のある若手の弁護士が中心となり、全国どこでもハイクオリティの刑事弁護を提供できるようにしたいということがあります。

 普段なかなか会えず情報交換がしにくい地方の若手弁護士などを巻き込んで、もっともっと大きなコミュニティにしていきたいと思っています。ただ、そのための広報をもっとしていきたいとは思いつつ、やはり我々は広報のプロではないのでなかなか苦労していますね。

 確かに、弁護士が少ない地域でこそ見てほしい気がします。

 本当にそうです。東京で一緒に事件をやっている仲間たちが見たら、「そんなの隣にいる同期に聞くからいいよ」という内容もあるかもしれません。でも、オンラインサロンではそんな気軽な質問もたくさんあって、だからこそ、このコミュニティには意味があるなと実感できているところです。

 Youtube、研修、オンラインサロンのほかに、何かありますか。

 まだ全然形になっていませんが、今の刑事司法の仕組みを具体的に変えていく活動を展開していこうという話もしています。どんな活動かはまだお話しできないのですが、オンラインサロンやYoutubeでコミュニティがもっと広がっていったら、必ず実現できると思っています。

 どんな活動なのか、今から楽しみにしています。刑事弁護で、一般の人に興味を持ってもらうのは難しいですね。

 一番難しいところです。Youtubeの視聴回数は、キャッチーな内容の方が増えるかもしれない。発信力をつけるためにはそういう動画も必要かもしれない。でも、やっぱり刑事弁護に関する経験や意識の高さには自信を持っている団体なので、それを崩さないようにしたいと思っています。

 刑事事件のニュースの解説などは、一般の方にも多く見てもらえているような気はします。

 解説ですか。

 そうです。「この裁判の裏側で、どんなことが起きているか」ということをリアルタイムで出していくのは、需要もあり、また意義もあると思っています。その中身も、同業の仲間たちから後ろ指をさされるようなものであってはならないと思っているので、スピード感と内容の充実、そのバランスをとらないといけないですね。

 難しいですね。同業の人の目もありますが、信頼が大事ですね。

 メンバー内でもいろいろと議論をしています。「周りの目を気にしていたら前に進めない」という意見もあれば、今のケージェネの活動の基礎になっているのは運営メンバーが個々の事件で蓄積してきた成果や経験だから、そこへの信頼に揺らぎが生じるのは良くないという意見もあり、喧々諤々です。

 あとは、刑事弁護業界が今まで目をつぶってきた「ビジネスっぽい視点」も隠さずに出しています。

 「ビジネスっぽい視点」って、具体的にどういうことですか。

 今まで、先輩方が後進指導のためや全国への法廷技術普及のために提供してくれていた研修やメーリングリストなどはほとんどが無料でしたが、ケージェネのオンラインサロンは明確に月会費をいただいて、それに対するサービス提供を意識しています。

 ボランタリーで提供できるもの、広げていけるものには限界もあるというのが私たちの考えですので、少なくともケージェネの活動は、一つのビジネスとしてきちんと確立していきたいです。

 そうなると、一人でやるのは無理ですね。

 そのとおりです。メンバーみんなで理念の部分は共有しつつ、少しずつ、少しずつ大きくしていきたいという感じです。

 若い世代だからこそできる感じですね。

 そう思います。そこはケージェネの強みだと思うので、今のうちにできることをやらなければという気はしています。我々もいつまで若手と呼んでもらえるかはわからないので……。

(つづく)

(2021年09月06日公開) 


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