漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(1)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


つらいことと逃げずに向き合う

 少年法改正のニュースで、ネットのニュースサイトのコメントなどを見ると、「厳罰にしろ」「そんな悪いことやってるやつは、罰を与えなきゃ理解しないんだ」みたいなのがずらーっと並んでて、これを見ると毎回へこみます。

 確かに、ひどいですね。

 以前、重大事件の付添人をやったときは、「こんな悪いやつを弁護する弁護士なんているんだ」「同じ目に遭ったらいい」みたいな書き込みがネットであって、「そんなことを言わなくても」とちょっとショックを受けことがありました。

 まあ、ネットでコメントを書くだけの仕事をしてるぐらいに思っていたほうがいいかもしれません。確かに少年に対する世間の風当たりって、すごい強くなってると感じます。「少年法があるからダメなんだ」みたいな極論になっちゃったりしてますから。

 あと、よく言われてると思うんですが、「被害者の身になってみろ」みたいなことについては、どう思いますか。

 私自身は犯罪被害者支援の仕事にも多く携わっています。被害者から見えた世界っていうのはありますし、物事はできるだけ両面から見たいという想いがあります。被害者の気持ちも、当事者ではない以上完全に理解することなどできませんが、自分なりに理解したいという気持ちをもって接してきました。

 他方、どんな少年にも、その後の人生はあります。

 仮に人を殺してしまった少年がいたとして、少年が死刑になったとしても、被害者の方は納得なんてできないと思います。成人だって、人を一人殺したところで、今の法律制度では死刑にならないわけです。

 無期懲役の運用も厳しくなってはいますが、いずれ社会に出て来ることになります。

 殺人をした少年は刑期を終えれば、社会で生きていかなければならない。だとしたら、どういうふうに、その後の人生を送らせるべきなのかは考えなければならない。

 少し極端な話をしましたが、その他の犯罪をした少年たちも、これからの人生があるわけです。

 少年を支援する立場の人間としては、少しでも少年が自分の心と向き合って、より良い形で生を全うできるように、いい人生にできないのかと考えます(「いい人生」って言われたら、被害者の方は多分納得しないかもしれませんが……)。

 実際に生き直すことができたとして、私たちに直接的な恩恵はあるのでしょうか。

 巡り巡って再犯を防ぐことにつながると私は思うのですが、そこはなかなか伝わりにくい気がします。ニュースを見て、被害者側に共感することで「厳しい罰を頼む」みたいになってしまって、そこが歯がゆいと思います。

 少年法改正の議論でも、被害者のご遺族の方で「少年法は残すべきだ」と言ってくださった方もいます。自分にひたすら向き合わされる少年院のほうが、単純に刑罰を淡々と受けていればいい刑務所に比べたら、少年にとってつらいというか、厳しい面はあります。

 つらいことに向き合うことで少年の更生が図られるのだから、「少年法はラクじゃないんだ。甘くないんだ。むしろ厳しいんだ」っておっしゃっている人もいるんです。

 それはとてもいい言葉ですね。何か少年が守られてるってイメージが、今の少年法には強すぎるんだと思うんですよ。

 別に、守ってはいないんですけどね……。

 私も「自分を見つめろ」って言われたら、ちょっと嫌だなって思います。反省に必要なプロセスとはいえ、自分のやったことを見つめるのは、きついですから。

 私たち大人でさえ、自分と向き合うのはつらいのに、不遇感を抱え、自己肯定感が低い少年となると、なおさらです。

 「どうせ頑張ったって、自分はみんなのようにできないし」と思っている少年も多いので、そういう中で否定的な自己と向き合うのは、相当きついんじゃないかと思います。

 最近「一般の大人(社会人)も自己肯定感が低い」と話題になっていますが、環境が環境だったら、よりつらいですよね。自分に自信が持てない中で「自分のやったことを反省しろ」みたいな感じで言われたら……。

 私たちが最初に「反省しろ」って言うと、大体嫌われるんですよ。嫌われると、反省という段階に入っていかないから、最初は雑談を結構します。

 たわいもない話をしながら、徐々に徐々に信頼関係をつくっていく。「あっ、この人は話を聞いてくれる大人かもしれない」と少しでも思ってもらえたらいいな、という感じです。

 味方って思ってもらえないと、やってること全部がパァになっちゃいますもんね。

 そうなんです。少年たちは周囲の大人を信用できずに育ってきている人が多いので、大人のちょっとした振る舞いに敏感です。

 「口先だけ『僕の味方だ』って言っているけど、結局、何もしてくれないじゃないか」とか、「また来るからね」って言って、2週間来なかったら、「この人、あんまり信用出来なさそうだな」って、すごくこちらの態度と反応を見ています。

(つづく)

(2021年10月29日公開) 


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