漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(2)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


少年事件と一般の刑事事件との違い

 一般の刑事事件もやられるんですか。

 あまり多くはないですけど、やっています。

 少年事件と一般の刑事事件で、明確に違うところはありますか。

 少年事件は、あくまでも教育的な手続だということじゃないでしょうか。

 法律の制度趣旨でいうと、刑事裁判は罪を犯した被告人に対して、どういう刑罰が適切なのかを決めていく手続で、刑罰法規なんです。一方、少年法はそもそも基本理念が「少年の健全育成」で、少年法の処分は刑罰ではありません。

 少年審判では、刑事裁判で審理の対象になるような犯罪を「非行事実」と言うのですが、非行事実の重さを判断するとき、例えば、その辺で刃物を振り回したけど、誰にも当たらなかったという事案と、実際に誰かを傷付けてしまった事案があったとしたら、後者のほうが重いわけです。

 では、後者のほうが重いから、必ず処分も重くなるのかというと、そうではありません。基本的に、少年の最終的な処分を決めるには、非行事実とその少年の要保護性(保護を要する程度)で判断すると言われています。

 少年本人の問題性や資質の問題、家庭環境など取り巻く社会環境によって、どの程度の保護が必要になるのかで判断します。

 単純に同じ罪名の非行をした少年でも、まわりがすごくバックアップしてくれて、行く学校があり、これからも両親がしっかりと教育するケースと、帰る家もなく、育ててくれる人もいないケースでは、要保護性の度合いが変わってきます。

 先ほど「少年法は甘くない」と言いましたが、非行事実自体が小さくても、要保護性が大きいと厳しい処分になります。帰る家がなかったら、また犯罪をしてしまう可能性が高いので、どこかの施設でしっかり育ててあげなきゃいけないよね、となるわけです。

 刑事裁判であれば、まず、やった犯罪の大きさ(犯情事実)で量刑の枠がある程度決まり、生育歴とか、反省とか、環境とか、一般情状事実で最終的な量刑が決定されることが多いです。

 でも、少年の場合はそうはなっていません。そうすると、帰る家がない子は、要保護性が高くなり、同じことをしても施設へ行く可能性も高くなってしまいかねません。

 でも、考えてみれば、少年は生育歴の影響を大きく受けるので、どこまでを少年本人の責任だと評価すべきか、はたしてそこには大人の責任がなかったのか、というところはむずかしいですよね。

 世論的には本人の責任なんでしょうけど、きちんとした環境が用意されていなかったことって、問題じゃないですか。だから、環境を用意するのであれば、どういう環境なら、少年が変わっていけるのか、要保護性を下げていけるのかを社会が考えてあげることが大事だと思います。

 そういう意味で、アプローチが成年の刑事事件とは全く違いますね。

付添人がやっている仕事とは

 少年の生育歴がすごく関わってくるというお話でしたが、付添人の活動の中で生育歴って、どうやって調べるんですか。

 少年が逮捕されると、大人と同じように、警察署で取調べをしばらく受けます。

 大人の場合は、そこで検察官に事件が送られて、検察官が裁判をするかしないかを決めていきますが、少年の場合は、検察官に事件が送られるところまでは一緒ですが、検察官は事件を捜査し終わった後、家庭裁判所に事件を送ります。

 家庭裁判所に事件が来ると、ほとんどの事件で調査が必要となり、家庭裁判所が調査官に調査を依頼します。最近、調査官が作る調査票の内容が変わってしまい、薄くなってしまいましたが、もともとはすごく丁寧な生育歴に関する調査票が出てきていました。

 調査官が保護者に母子手帳を出させて、分娩(ぶんべん)がどうだったのか。そのあと、予防接種をきちんと受けさせているのか、保育や発育に問題がなかったのか。幼稚園や小学校でどうだったのかなど、その子の人生史みたいなものをまとめていくんです。

 そして、学校からの情報も入れて、複合的な形で作っていくのですが、少年がどのあたりから問題行動を起こし始めたのか。環境面では、どこに問題がありそうだったのかなどを見ていくのです。

 じゃあ、調査官が調べたものを見て判断したり、考えたりするんですか。

 調査票自体は審判の直前にしか出来ません。生育歴は私たちも付添人としての意見書を作成するのに必要な情報ですから、私たちも直接少年に聞きます。

 調査票が細かく作成されており、私たちが聞いたこととかぶることも多いので、最終の意見書には、生育歴のところは調査票に任せ、私たちは私たちの主張に必要な範囲で生育歴を補充するようにしています。

 また、調査官が調査していない人、例えば、少年のお母さんの内縁の夫とか、少年の職場の人など、調査官がアプローチしていない人等の追加情報があれば、私たちが積極的に情報発信したりしています。

 結構、調査官と連携してるんですね。

 そうですね、基本的に、刑事裁判みたいな対立構造ではないので。

 少年審判でも、犯罪について争う部分があれば、そこについては当然争います。例えば3件ある事件のうち、2件はやったけど1件はやってないというケースであれば、2件をやったことは事実なので、2件については処分が出ることになります。

 そうすると、少なくとも2件の事件を踏まえたうえで、少年にどういう処分が望ましいのか。保護観察なのか、少年院送致なのかなどを考える必要があるので、そこについては1件争うのと同時並行で、処分としての見通しも考えていくことになります。

(つづく)

(2021年11月05日公開) 


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