漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第6回 金杉美和弁護士に聞く(2)

常に依頼者のために

一人の人間としてガチでぶつかる


 責任能力事案での大失敗

 否認事件と情状事件で、どちらかに比重を置いたりしていますか。

 京都の場合、刑事だけで食べていく弁護士はほとんどいません。刑事事件の数自体がそもそも少ないこともありますし、組関係の抗争がたくさんあるわけでもありません。なかには、私選で組の事件を受けている人もいますけど、それでも、それだけで食べていけるわけではありません。

 今は責任能力関係の事件がすごく集まってきます。責任能力事案の場合、裁判員裁判で2人目を選任するときに、「2人目の弁護士、どうですか」と声をかけてもらうことが多いので、他の弁護士から「ヘルプ、お願いします」みたいな形で声がかかります。だから、責任能力を争っているという意味では、争いのある事案ですけど、事実を認めていないということではありません。

 それは「責任能力といったら金杉先生」みたいな感じですか。

 いや、そうだといいんですけど、京都の裁判員裁判の責任能力の件数は、かなり多くやっている方だと思います。

 先程の質問と少しカブってしまいますが、刑事弁護をやっていて後悔していること、失敗したと思っていることはありますか。

 それこそ、今、偉そうに言いましたけど、私も責任能力の事案で大失敗したことがあります。

 というのは、まさに妄想型統合失調症というか、妄想がとてもある人が放火殺人で2人——お父さんとお母さんが亡くなっています。介護をしつつ、80代のお父さんとお母さんがいる家に火をつけてしまったという事案です。

 きちっと打ち合わせ、擦り合わせをしないまま、裁判員裁判の冒頭陳述となりました。

 冒頭陳述は私ではなく、相弁護人がやったのですが、相弁護人が「○○さんは妄想の世界で生きていました」とやり、被告人は心を閉ざしてしまいました。「自分が言っていたことは妄想だと、弁護人は思っているんだ」と。で、被告人質問で、「もういいですわ。しゃべりませんわ」と言って黙秘してしまいました。

 結局、裁判官が結構癖のある人だったので、自分で訴訟を指揮し、右陪席がガンガン補充尋問というか聞いたため、ようやく話をしてくれましたが、本当に恥ずかしい失敗でした。

 なかなか難しいですね。

 どこの時点で「あなたは病気ですよ」と言うかは本当に難しいです。

 犯行に至るまでは、自分がそういった病気の自覚はないわけですよね?

 被告人は通院しているので、病識はありませんが、薬を飲まないといけないことはわかっていました。

 ただ、本当に統合失調症の人に多いのですけど、家族や本人に正しい知識がなくて、それが妄想なのかどうかが正しく理解されていないことが多いです。

 そうすると、家族も対応を間違ってしまって、「盗聴器が仕掛けられてる」と言っても、「あんた、何、バカなこと言ってるの。総理大臣でもあるまいし、一般の民家に盗聴器を仕掛けるわけないでしょう」みたいな扱いを、普通にしてしまいます。そこで相手にされないという経験を積み重ねているので、「どうせ言ってもムダだろう」と思ってしまうのです。

 そこで弁護人のスタートとしては、「いや、でも、盗聴器が仕掛けられている中で生活するっていうのは、ホントに大変でしたね。気が休まらないですよね」というところから入ります。そうしないと、妄想の中身を話してくれません。

 だから、そういうところから入って、妄想をどんどん聞き出していきます。「でも、それは全部、あなたの中だけで起こっていることなんですよ」ということをどこで言うのか、あるいは言わないのかという問題もあります。

 特に裁判員裁判の場合、できれば法廷で妄想の中身を語ってほしいので、できるだけ「間違ってるよ」とか、「それ、妄想だからね」と言わないようにします。裁判員裁判の責任能力の事案は、そこが難しいです。

 そういう場合、医学の知識も必要になってきますよね?

 私もすごく尊敬している精神科医の先生がいて、いつも意見を伺ったりしています。

(つづく)

(2022年08月01日公開) 


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