刑事弁護の情報と知が集まるポータルサイト

武内謙治九州大学教授に聞く 第1回

「特定少年」の実名報道について考える


実名報道する2022年4月9日付全国紙。

最高検察庁の起訴時の「事件広報」の基本的な考え方

 去る4月9日付の全国5紙は、甲府市内の夫婦殺人放火事件で、起訴された19歳の少年を実名で報道した。「特定少年」である18・19歳少年の実名報道を可能とする改正少年法1)が4月1日に施行されてから、実際に名前が報道された初めてのケースとなった。これは、前日に甲府地検が19歳の特定少年を起訴し、実名を公表したことを受けたものである。

 これより先、最高検察庁は改正少年法施行前の2月8日、「少年法等の一部を改正する法律の施行に伴う事件広報について」と題する「事務連絡」を全国の高等検察庁と地方検察庁宛てに出している。甲府地検がした実名を含めた事件広報は、これに従ってなされたものと思われる。

 「事務連絡」でとくに実名広報する基本的考え方で注目される点は、つぎの2点である(全文は、別紙を参照)。

 ①「犯罪が重大で、地域社会に与える影響も深刻であるような事案については、特定少年の健全育成や更生を考慮しても、なお社会の正当な関心に応えるという観点から氏名等を公表すること」を検討する。その典型例として裁判員制度対象事件をあげる。

 ②「それ以外の事案についても、公表を求める社会の要請が高く、被告人の健全育成・更生に与える影響が比較的小さい場合などには、個別の判断により氏名等を公表すること」を検討すること。

 少年法に詳しい武内謙治九州大学教授に、最高検の実名広報についての考え方、実名や顔写真などの報道を禁止する少年法61条の目的、その例外規定としての同法68条について聞いた。

——まず、最高検の考え方についてお聞きする前に、少年法61条2)の推知報道禁止についてお聞きします。この規定は、どういう目的から立法化されたのでしょうか。

武内 少年法61条の規定趣旨は、沿革として明確でないところがあり、法的性格については争いもあります。しかし、少年時時の非行で少年審判や刑事裁判を受けた者が社会に復帰することやその後の社会生活を阻害しないようにすることを目的としていると理解されています。

 少年法61条は、旧少年法(大正少年法)74条を沿革としていますが、この両者には小さくない違いがあります。旧少年法74条の規定は、「少年審判所ノ審判ニ付セラレタル事項又ハ少年ニ対スル刑事事件ニ付予審又ハ公判ニ付セラレタル事項」として、「事項」を新聞紙その他の出版物に掲載することを禁じていました。その趣旨は、少年自身の心理状態や自尊心、将来の教養改善への悪影響を予防するということもさることながら、模倣犯を防止するということにありました。少年非行の手口には思いもよらない新奇なものが少なくない一方で、少年はこうした情報に敏感で影響を受けやすくもあるため、それに関係する情報の規制が必要になると考えられたのです。これに違反する行為に対する罰則が置かれていたことも、こうした考えと関係していたと考えられます。少年審判や刑事公判に付されたという「事項」を報道することは、犯罪の手口を広めることに手を貸すことであるとも考えられるからです。

 それに対し、現行少年法の61条は、「事項」ではなく「人」に着目した規定になっています。旧少年法と明らかに文言が違っていることから、「人」の保護、つまり人権や権利の保障により強い関心を向けているものになっているということができます。罰則がなくなったのは、日本国憲法で保障された表現の自由、報道の自由の価値に配慮した結果であると考えられますが、そもそも旧少年法で重んじられた模倣犯の防止が現行法では後景に退いていることに注意する必要があります。

——今度の少年法改正でできた推知報道禁止の例外規定(少年法68条3))は、どういう経緯で立法化されたのでしょうか。

武内 この規定に関し、国会では、「十八歳以上の少年について推知報道を一律に禁止することは、責任ある主体としての立場に照らし、また、刑事司法に対する被害者を含む国民の理解、信頼の確保の観点からも、適当でない」とされ、「逆送され、公判請求された場合には、公開の法廷で刑事責任を追及される立場となることに鑑み……その時点から推知報道の禁止を解除することとし」た、と説明されています。

 そもそも、今般の改正法は、18歳・19歳の者が「責任ある主体として積極的な社会参加を期待される立場」になったとの認識から少年法に第5章(特定少年の特例)を設ける一方で、「成長途上にあり、可塑性を有する」存在であることから、特定少年を少年法上の「少年」とする措置を維持し、「健全育成」という法目的(少年法1条)を及ぼす存在としています。前者の観点は、検察官により公判請求がなされた事件という類型と、後者の観点は、最高検の「事務連絡」による個別具体的な考慮とつながりをもっているのかもしれません。

 しかし、そうであるとしても、そもそも「被害者を含む国民の理解、信頼の確保の観点」が推知報道禁止規定の不適用とどうつながるのかははっきりせず、立法として非常に分かりにくいです。「公開の法廷で刑事責任を追及される立場となること」は、特定少年ではない少年の場合でも同じです。法廷における匿名措置が、推知報道禁止規定の適用とは独立したものとして、とられることもありえます。こうしたことを考えても、やはり制度の根拠づけが非常に分かりにくいです。

——最高検の「事務連絡」では、実名広報する場合の検討事項として「犯罪が重大で、地域社会に与える影響も深刻であるような事案」といっていますが、「犯罪が重大」とはどんなことでしょうか。また、「地域社会に与える影響も深刻」というときの、影響とはどんなことでしょうか。

武内 「犯罪が重大」である場合や、「地域社会に与える影響も深刻」であるという場合として具体的にどのようなことが想定されているのかは、分かりません。推測になりますが、「典型例」から推測するに、裁判員裁判の対象事件となるような、罪名や法定刑からみて「重大」である事件ということではないでしょうか。実際どうであるかは別として、「地域社会に与える影響」もそうした事件では「深刻」であるはずである、と理解されているのではないでしょうか。

——例外の典型例として裁判員裁判対象事件をあげていますが、起訴されて裁判員裁判で55条移送が判断されれば、少年審判に戻されることがあります。この55条移送とはどういうことですか。

武内 刑事裁判所は、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、事件を家庭裁判所に移送しなければならないものとされています(少年法55条)。これが55条移送(家庭裁判所移送)です。裁判実務でとられている考え方にしたがえば、家庭裁判所は、保護処分が対応することができない場合(保護可能性がない場合)、または保護処分で対応することがふさわしくない場合(保護許容性がない場合)に事件を検察官に送致します。その事件を検察官が起訴した後に刑事公判で審理したところ、保護処分により対応することができたり、保護処分で対応することがふさわしかったりすることがあります。この場合に、55条移送決定が行われます。

 この制度の適用は、裁判員裁判でも、そしてまた、特定少年による事件でも、排除されていません。

——そうなった場合、実名報道されたことは、取り返しがつかなくなると思いますが、その点、先生はどういうお考えをお持ちですか。

武内 これまでも、裁判員裁判で55条移送決定がなされた例が存在します。公訴提起を受けて報道機関が実名報道や推知報道を行ったところ、その後に刑事裁判所が55条移送決定を行い、事件が家庭裁判所に移され、その家庭裁判所が保護処分を決定するという事態は生じえます。

 また、刑事公判手続の前の段階で検察が氏名を公表したり、報道機関が実名報道や推知報道を行ったりすることが、それだけ「犯罪が重大」なのだというある種の予断や先入観を裁判員に与えてしまい、55条移送の判断を行わせにくくするように作用しないかも危惧されます。一方で氏名を公表し、他方でそのことを引き合いに出して55条移送がふさわしくないという主張を行うようなことは、許されるべきではありません。

*マスメディアの実名報道については、次回に報告する。

◎著者プロフィール
武内謙治(たけうち・けんじ) 
 1971年生まれ。九州大学大学院法学研究院教授。専攻:少年法学、刑事政策学、刑事法学。主な著作に、『刑事政策学』(日本評論社、20195年)、『少年法講義』 (日本評論社、2015年)、『少年事件の裁判員裁判』(現代人文社、2014年)などがある。
 https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K000143/index.html

注/用語解説   [ + ]

(2022年09月01日公開) 


こちらの記事もおすすめ