——審議会で、村木さんはどういう思いや意見を話されたんですか。
村木 やっぱり、強調したかったのは取調べの録音・録画の必要性です。事件のときに一番実感としてすごいなと思ったことがあります。例えば、厚生労働省の関係者が私を入れて10人ぐらい証言に立ったり、調書を取られたりしているんです。
みなさんもういい大人ですよ。40代、50代で中央官庁に勤めてそれなりに社会的な経験がある。その10人のうち、私がやっということの証拠になる、検事側が採用したい調書、つまり「村木さんがこういうことをしているのを見ました」という調書にサインした人が5人いるわけです。それを拒否してサインしなかった人も5人です。
「村木さんはやってないはずです」と言ってくれた人はいたんですが、検事が調書作るとどうなるかっていうと、その多くは、「村木さんがやったのを直接自分は見ていません」という調書になるんです。
ちょうどその後、PCなりすまし事件1)があって、4人が逮捕されましたよね。取調べた警察は全部違います。この事件でも、自白したのは2人、自白しなかったのは2人で、ちょうど割合は半々です。私の事件もそうでしたけど、全く知らない状況の中で事件に巻き込まれて取調べを受けると、やっていない人のうちの半分はやったと言ってしまうことがあるということがすごくよく分かりました。だから、取調べにはすごいリスクがあります。
それで、取調べ過程を録音・録画をして、あとで検証できるようにしないと駄目だとつくづく思ったんです。法廷で証人が、検事から「おまえのやっているNPO活動をやれなくしてやる」とか、「もし、今、こう言えば、保釈金安くしてやる」とか、「2晩でも3晩でも泊まっていけ」だとか、あるいは、「課長がやってないって言うんだったら、そのすぐ下のポストの室長のおまえがやったっていうことでいいんだな」とか、脅しや利益誘導をしていたこと、「検事に言われてやむなく調書にサインした」と証言しました。ところが、その取調べ検事が証人として出ると、「僕たちはそんなことはしていません」というしらじらしいウソをつくんです。
——今言われたようなことは、明らかに脅しです。そういうことを取調べで言うことは違法なんですが、すべて密室の中だから外からは分からないし、取調べ状況を明らかにするために、取調べた捜査官を法廷に呼び出して、「どういう取調べをしたんですか」と尋問しても、法廷ではみんながみんな「そんなことは言ってません。きちんと紳士的にやりました」というんですね。
村木 私の事件では、弁護士さんたちが抗議文を出したり、取調べのときのメモを、検事さんたち全員が捨てていたので、裁判所の心象が極めて悪くなったということもあって、多くの調書が不採用になりました。取調べ検事は、みんなウソをつくことにほんとにびっくりしました。究極の水掛け論を裁判でやるんですから、裁判官はいったい何を基準にどっちが言ってることを正しいと判断するんだろうか。ほんとに一歩間違うとものすごい茶番ですよ。これでは駄目だって思ったので、一番こだわったのは取調べの録音・録画です。あんな水掛け論ではなくて、どういう取調べをして、どういうプロセスの中で出てきた証言であり、調書なのかをあとから検証できないところが、今の裁判の一番の問題だと思います。
また、取調べのウエートを下げると客観証拠のウエートが上がってくるんで、そのときに、私のときもそうでしたが、検察は消極証拠をできるだけ隠そうと露骨で、証明書偽造の事件なのに、証明書を作ったときに保存したフロッピーもデータも出てこないんです。それを平気でいる裁判って不思議ではないですか。
——刑事裁判の中で、今までそのような水掛け論を一杯やってきました。裁判官は、警察・検察はウソをつかないと思っているので、弁護側の言い分はいつも通らなくて負けてしまいます。
村木 取調べの検事は、フロッピーディスクは「ない」とうそを言い続けたんです。例の改ざんした検事ではなくてです。みんなで一緒にウソをついているんです。それって、すごく怖いことだと思います。客観証拠が弁護側にもちゃんと手に入るためには全面的証拠開示と、その前提として証拠の保管がきちんとなされないとダメです。証拠の改ざんができてしまうなんて最悪ですよね。その意味で証拠保管・開示がもう一つ大事なことです。
それと、長期勾留です。この事件では共犯が4人とされていましたが、認めた3人はもう即刻保釈で、否認した私だけが164日も勾留されていましたから。
——黙秘や否認をしているといつまでも勾留がつづきます。それが人質司法といわれるゆえんですね。国際人権委員会からも何度も改善提案がなされているところです。本当に不当な実務です。
村木 嫌がらせ以外の何物でもないですね。だから、この3つはとにかく強く言っていくんだということで、審議会には臨みました。
可視化に対する反対論
——村木さんのご経験からの発言で、「あ、そういう実態があるのか」と裁判所も少しは認識を改める機会になったんでしょうか。裁判所は警察、検察は悪いことはしないと完全に信じてるので、特別な事情がない限り、彼らを疑うことはないですね。そういう迫真の意見が、この会議ではどのように扱われたのか、もしくはどのような結果になったのかをお教えいただけますか。
村木 私自身はできるだけリアルに話をしたいと思っていました。国民もそんなにひどい調書ができあがっていると思っていないから、審議会での発言が報道されることで、すこしでも国民の意識に変化があることを期待して、言い続けるのが自分の使命だろうと思っていた。さすがにあのときは、私が「発言したい」って挙手すると、「時間がないから」と拒否されることはなかったですね。それなりの主張はさせてもらったと思いました。ただ、ほんとうに反対も強かったんです。しかし、取調べの録音・録画についてゼロ回答はないだろうと確信しておりました。
注/用語解説 [ + ]
(2018年09月24日公開)