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連載 裁判所書記官が見た刑事弁護

裁判所書記官が見た刑事法廷 第1回

判決チェック

中村圭一 元裁判所書記官

 民事事件の判決については、「判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする」(民訴法252条)という規定があるのに対して、刑事事件では、同様の規定がないことをご存じでしょうか? ですから、刑事事件においては、判決書の原本が出来上がっていなくても、手元のメモ等に基づいて判決を言い渡すことができます。最高裁においても、「判決書は必ずしも判決宣告時に作成されていることを要しない」(最判昭25年11月17日刑集4巻11号2328頁、LEX/DB24001128)と判断されています。

 とはいうものの、事前に判決書を作成しないまま判決に臨む裁判官はほとんどいないのが現状です。裁判官といえども、繁忙な状況の中、全く判決書の原稿に誤字脱字等のミスがないものを作成することは難しいといえます。

 そこで、裁判所書記官の重要な仕事の一つに、判決チェックがあります。書記官は、判決宣告の遅くとも数日前には、裁判官から判決書の原稿を受け取り、書記官が事前チェックを行うことになります。現在は、「判決点検票」のような詳細な書式が作成されており(各裁判所によって異なります)、それに基づいてチェックすることがほとんどだと思います。それ以外にも、誤字脱字等の形式面のチェックのみならず、内容的に矛盾した記載がないかなどについてもチェックを行います。

 ところが、そのような厳重なチェックを行うにも関わらず、2021年、ある地方裁判所の管内において、懲役刑に執行猶予が付けられない事案に対して執行猶予を付してしまったという事務過誤が立て続けに2件発生してしまいました。「適条表」なども作成して、場合によっては、主任書記官等もダブルチェックしているはずなのに……です。非常に嘆かわしいことですが、裁判所でもそのようなミスをしてしまうということを前提に考えていた方がいいのかもしれません。

 もし、このように誤った主文を朗読した場合、その場で裁判官が言い直しをすることができれば、言い直しをした主文が正しいものとして効力を生じます。そのため、裁判所や検察官だけではなく、弁護人としても、主文の内容が正しいものなのかどうかについて目を光らせておくことが望ましいと言えます。

 というのも、一見、執行猶予が付くのだからいいではないかとお思いかもしれませんが、後に間違いが発覚した場合は、上訴等により正しい判決に正すしか方法がなく、かえって被告人の不利益となってしまうからです。

(2022年04月25日公開) 


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