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東京TSネット・コラム一緒に考える<障害のある人の刑事弁護>

一緒に考える〈障害のある人の刑事弁護〉第2回

刑事手続と「合理的配慮」

野原郭利 弁護士

1 障害のある人の抱える刑事裁判での困難

 前回のコラムでは、刑事手続の中で、多くの障害のある人に出会うことがあることについてお話しました。こうした人たちは、刑事手続の中でも、その他の人が刑事手続を経験する場合と比べて、多くの困難に直面しています。

 例えば、障害のある方の中には、五感の感覚が過敏な方がいます。留置施設の中では、常に収容されている人の様子を観察できるように、照明をあまり落とさないこともあります。感覚過敏の場合、照明を当てられ続けたら、留置期間が非常に辛いものになってしまいます。あるいは、精神の障害を抱えている場合に、留置前に服用できていた薬が処方されなくなったら、精神症状は当然悪化してしまいます。

 刑事裁判でも、法律の教科書に書かれたような難しい専門用語で質問を受けたらどうでしょうか。知的能力に障害がある場合、難しい言葉の理解が難しく、ときには自分がどのような状況に置かれているか理解することさえ、難しくなってしまうかもしれません。

 これらは、留置されていたり、刑事裁判にかけられてしまっていたりする立場である以上、仕方がないことなのでしょうか。むしろ、それぞれの障害に応じた適切な配慮がなされなければ、その人が本当の意味で裁判を受けたりする権利が保障されたとは言えないのではないでしょうか。

 実は、障害のある人を取り巻く法制度の中では、刑事手続において、捜査機関等が障害を踏まえた「合理的な配慮」をしなければならないことを義務づけているのです。今回のコラムでは、このことについてみていきましょう。

2 条約で認められた障害のある人の権利

 障害のある人に関する法制度は、近年大きく変わってきました。最初のきっかけは、2006年12月に国連総会本会議で採択され、日本が2007年9月に署名した「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)でした。障害者権利条約は、障害のある人に関する初めての国際的な約束となっています。

 同条約の目的は、「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有」の促進・保護・確保とされています(1条)。歴史上、本来は当然に認められるはずの障害のある人の人権が十分に認められてこなかったことを踏まえて、人権がきちんと保障されることを目指したものといえます。

 この条約では、差別禁止を一般原則において定めていて(3条(b))、合理的配慮を提供しないことを含むあらゆる形態の差別を禁止しています。

 合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的人権を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」とされています(2条)。つまり、障害のある人が直面している不平等な状態を除去するために、障害に応じた措置や取り扱いを行うことです。この3条の規定では、差別の禁止を求めている場面に限定はありません。

 ですから、刑事手続においても,先ほど指摘したような裁判や処遇の場面で、障害に対する合理的配慮を求めていくことが必要となります。

 加えて、条約の13条では、障害のある人が司法手続を利用する効果的な機会を確保することを求めています。刑事手続においては、単純に裁判を受けられれば良いという訳ではありません。障害を踏まえた上で、その人自身の防御権がきちんと確保されなければならないのです。

3 刑事手続と差別の禁止に関する法律

 障害者権利条約の批准によって、障害のある人の差別禁止に関する法制度の整備が促進されました。特に障害者基本法、障害者差別解消法、発達障害者支援法の3つが重要な法律です。それらを簡単に紹介します。

⑴ 障害者基本法

 まず、障害者基本法は、障害者の自立及び社会参加の支援等の施策に関する基本原則を定めて、国や地方公共団体の責務を明らかにした法律です。

 障害者基本法2条、4条では、次のような定めがあります。

障害者基本法2条(定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 ⑴ 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
 ⑵ 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

障害者基本法4条(差別の禁止)
 1 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
 2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
 3 国は、第1項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

 これらの中では、障害の考え方として、障害は生まれ持った動かしがたいものという考えではなく、社会的障壁によってもたらされていること(障害の「社会モデル」と言われる考え方です。)を前提に、社会的障壁を除去するための必要かつ合理的配慮を提供しなければならないという理念が示されています。

⑵ 障害者差別解消法

 このような障害者基本法における差別禁止の考えを、より具体的に定めたものが、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)です。

 この法律は、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」を目的としています(障害者差別解消法1条)。

 その上で、差別の禁止について、次のように定めています。

障害者差別解消法7条(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
 1 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
 2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

 ここで定められている「行政機関等」は、国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人のことです(2条3号)。これらの行政機関等は、障害のある人に対して、不当な差別的取扱いをすることが禁止される上、合理的配慮を提供する義務を負っていることが明示されています。「行政機関等」の中には、当然、警察署や検察庁、拘置所等が含まれます。法律上、これらの機関は、刑事手続において障害のある人に合理的配慮を行わなければならないことになります。

⑶ 発達障害者支援法

 発達障害者支援法は、「発達障害者の自立及び社会参加のためその生活全般にわたる支援を図り、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」(発達障害者支援法1条)を目的として定められた法律です。

発達障害者支援法12条の2(司法手続における配慮)
 国及び地方公共団体は、発達障害者が、刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となった場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人となった場合において、発達障害者がその権利を円滑に行使できるようにするため、個々の発達障害者の特性に応じた意思疎通の手段の確保のための配慮その他の適切な配慮をするものとする。

 障害者差別解消法の中では、「行政機関等」について、合理的配慮を求める規定はありましたが、司法機関については定めがありませんでした。しかし、発達障害者支援法では、司法手続における配慮という形で明記されていることから、裁判所についても、当然にこれらの配慮の義務を負う対象となっているものとみるべきです。

4 おわりに

 障害のある人と刑事手続の中で出会ったとき、本人が抱える困難をそのままにすることはできないはずです。本人の抱える障害は、捜査機関や司法機関の合理的配慮によって、解消できるものかもしれません。そのとき、ここでお話した法律を用いることで、合理的配慮を求め、実現していくことも、弁護人の大切な活動の一つであるはずです。

 次回以降、具体的な場面での合理的配慮等についてもご紹介していけたらと思います。

(2022年05月10日公開) 


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