連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第1回

はじめに~連載にあたって

指宿信 成城大学教授


1  加速化する司法へのITの導入

 ご承知のように、この国では民事司法へのIT(情報技術)の導入が加速しています。書面の電子提出やオンライン上での管理、法廷のオンライン化等が2025年には実現する見通しです。こうした民事での導入に続いて、政府は刑事司法でもITを積極的に利用していこうとしています。2022年3月、法務省内に設けられた検討会の報告書が公表され((https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji07_00011.html 『刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 取りまとめ報告書』参照。))、令状の請求・発付・執行や捜査・公判手続のオンライン化等が今後提案されていく見通しです。司法分野のIT化は法曹界のトレンドとなったと言えるでしょう。

 こうしたIT化の流れに呼応して、この度、本ウェブ上で表記の連載をさせていただくことになりました。いうまでもなく、ITも様々な技術の一つですからその利用は必ずしも社会に幸福をもたらすものばかりではありません。科学技術が人を傷つける武器や兵器の開発に寄与してきた歴史(そしてこんにちの現実)を指摘するまでもないでしょう。ITが現代社会にもたらしている不安や懸念の多くは、プライバシーの侵害や個人情報の不適切な利用にあることは言うまでもありません。

 そこで、本連載では刑事司法の諸段階―刑事司法を捜査段階から裁判過程、更には行刑段階まで広く捉えています―におけるIT利用について、プラスとマイナスの両方の側面に目配りし、できるだけ広い視点からITに関わる課題や問題点を指摘することにしました。

2 ITのプラスの側面 <……

(2022年05月30日公開)


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