連載 和歌山カレー事件

和歌山カレー事件
刑事裁判のヒ素鑑定の誤りを見抜いた民事裁判
第2回

林真須美頭髪鑑定は,鑑定人が「自ら測定を行ったものではない」「その正確性に疑問があるというべきである」「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」(上)

河合潤 京都大学工学研究科教授

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1 カレーヒ素事件の頭髪鑑定

 聖マリアンナ医科大学山内博助教授(鑑定当時)は,1998年12月に,㋑4mm幅のX線ビームを用いた放射光蛍光X線分析によって,林真須美の1本の頭髪の切断端から48〜52mmの区間(以下ではこれを「48ミリ」と呼ぶ)に局在するヒ素を検出した(図表3).また,㋺聖マリアンナ医科大学機器分析室の原子吸光分析装置を使って,林頭髪の「右側−前頭部」を分析し,頭髪1グラム当たりに換算して0.090マイクログラムの「無機の3価砒素」すなわち亜ヒ酸の付着を検出した.山内助教授は,これら2つの鑑定結果を,鑑定報告書として和歌山県警察本部長宛てに提出した(1999.3.29 甲63).

図表3.1本の林真須美頭髪の48ミリメートルの位置にヒ素が付着していることを示す放射光蛍光X線分析鑑定結果(山内鑑定書甲63)

 連載第2回の今回は,山内助教授が,㋑放射光と㋺原子吸光という2種の分析化学的方法で,林真須美の頭髪を鑑定したことに対する大阪地裁民事裁判田口治美判決(2022)の意味を解説する.主に㋑を扱い,㋺については短く触れるだけになる.㋑放射光鑑定は,山内助教授が行なったものではなく,東京理科大学中井泉教授が,つくば市にある高エネルギー加速器研……

(2023年04月17日公開)


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