
第23回季刊刑事弁護新人賞(主催:刑事弁護フォーラム、現代人文社、協賛:株式会社TKC)の授賞式が、2月28日、(株)TKC東京本社の法廷教室で開催された。授賞式では、最優秀賞の鈴木雄希さん、優秀賞の田中祥之さんと深谷直史さんにそれぞれ賞金と副賞(フクロウの置物)が贈呈された。授賞式後、記念セミナーで、元裁判官の藤井敏明・日本大学大学院法務研究科教授が「保釈実務」について講演した。
受賞者のプロフィールはつぎのとおりである。
・鈴木雄希(すずき・ゆうき)さん 千葉県出身。2022年、早稲田大学大学院法務研究科卒業。2023年、弁護士登録(76期・千葉県弁護士会)。現在、東葛総合法律事務所に所属。
・田中祥之(たなか・よしゆき)さん 東京都出身。2010年、岡山大学大学院法務研究科修了。2021年、弁護士登録(74期・第二東京弁護士会)。現在、日野・子どもと家族法律事務所に所属。
・深谷直史(ふかや・なおふみ)さん 埼玉県出身。2020年、慶應義塾大学法科大学院卒業。2022年、弁護士登録(74期・埼玉弁護士会)。現在、埼玉総合法律事務所に所属。
今回の新人賞には、全国から11名の応募があった。内訳は、新潟県弁護士会1名、埼玉弁護士会1名、千葉県弁護士会1名、東京弁護士会2名、第二東京弁護士会1名、神奈川県弁護士会1名、愛知県弁護士会2名、滋賀弁護士会1名、兵庫県護士会1名である。
授賞式では、選考委員の一人である城使洸司弁護士(大阪弁護士会)が、今回の受賞作について、つぎのように述べた。
「今回、はじめて選考委員を務めましたが、新人賞のイメージから、知識や経験は浅くても熱心に弁護活動してこういう成果が出たというレポートが多いのだろうと勝手に思っていましたが、3人の受賞者のレポートを読んで、なんとスマートな弁護活動をしているのだろうと思いました。しかし、それぞれの弁護士は、きびしい環境の中で、有罪にしてはいけない、刑務所に送ってはいけない——目の前の依頼者をなんとかしたいという思いが強くあった。こういう刑事弁護活動を拝見して、私自身、身が引き締まるような思いをさせられた。今後とも刑事弁護を続けてより成果をあげていただきたい」。
このあと、それぞれの受賞者から挨拶があった。
鈴木さんの事件は、万引き事件の前刑執行猶予期間中にまた万引きをしたものである。依頼者は再犯を重ねてきており、高齢かつ支援者もいない状況であった。綿密につくったケースセオリーを着実に実践して、再度の執行猶予判決を獲得した。鈴木さんは、弁護活動を以下にように振り返った。
「情状証人など支援者になってくれる人が誰もいないというもので、初回接見でたいへんな事件だと思った。被疑者は、『自分でもわかっているのに、どうしてもギャンブルと万引きがやめられません。こんなことは絶対にしたくありません。どうか刑務所に入らないようにしていただけませんか』と訴えてきた。この言葉が強く印象に残った。このままでは刑務所に入って出てきても万引きを繰り返すだけだ。本人と一緒に再犯しない環境を整える必要があると考え、そのためのケースセオリーをつくった。環境調整では、福祉や行政の人を含めて被告人のために動くチームのようなものをつくり、そのリーダー役となることができた。再度の執行猶予判決がとれたのは、この熱意があったからこそで、そのことが裁判官に伝わったのだと思う。いまでは第一の情状証人は弁護人だと肝に銘じている」。
田中さんの事件は、大麻所持事件で一度は自白したが公訴事実を争い無罪判決を得た。田中さんは、刑事弁護の実践とその知の蓄積について語った。
「今回の事件では、特別な理論や新しい方法を提示したのではなく、研修で学んだことを事件の中で実践したに過ぎません。刑事弁護は経験やひらめきで語られることがありますが、証拠の見方やケースセオリーの構築といった判断は、これまで積み重ねられてきた実務の知見と議論の蓄積に支えられています。刑事法学の理論は研究者の不断の努力によって着実に深化している一方、実務では平野龍一が「絶望的」と評した当時から大きな変化がないと感じる場面もあります。だからこそ弁護人は理屈に基づいた弁護実践を徹底し、その判断を言語化し共有可能な知として蓄積していく必要があります。研修は、その知の蓄積を支え更新していく重要な場です。刑事弁護を属人的な名人芸にとどめず、知の営みとして次世代へ継承していくことが求められています」。
深谷さんの事件は電車内の痴漢冤罪事件である。被害者の供述や防犯カメラ映像など証拠を丹念に検討してケースセオリーを作り、無罪を勝ち取った。深谷さんは、弁護実践における先輩弁護士の助言について述べた。
「先輩弁護士からいただいたアンパンマンの話が心の底に残っていた。作者のやなせたかしさんは、厳しい戦争体験を生き抜いた世代です。やなせさんの、「逆転しない正義があるとすれば、それは、飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ。」という思いから、アンパンマンは生まれたそうです。困っている人を助けるために飛んでいき、寄り添い続ける、我々弁護士の仕事もアンパンマンと同じなのではないか。
この事件は、朝一で事務所に、弁護士を探しても探しても見つからなかったという依頼者の妻からの電話がきっかけでした。その日、先輩と一緒に他の共同受任事件の顧客との打合せがあったのですが、アンパンマンの考えに従うことにして、その打合せを振り切ってすぐに接見に飛んでいったことがはじまりです。選評で基本に忠実にやった刑事弁護と評価されているように、ロースクールや研修所で学んだことを忠実に実践しただけです。このような成果を得たことで自信をもつことができました。また、私の才能は、先輩に頼れるということです。埼玉会は、いろいろな先生に相談できる環境があります。これからも頼らせてください」。
いずれのレポートも、季刊刑事弁護125号(2026年1月20日発売)に掲載されている。また、これまでの受賞作は、本サイトの「季刊刑事弁護新人賞」のコーナーで見ることができる。
第24回季刊刑事弁護新人賞作品の応募も始まっており、応募要項は同ページに掲載されている。
(2026年03月06日公開)