連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第12回

情報検索行動の取得——キーワード令状

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 スマートフォンの普及とともに、検索(サーチ)エンジンはすっかり身近な存在になっています。以前は自宅や職場でのパソコンを使った検索でしたが、今やどこでも調べたい言葉を入力するだけで大量の情報を調べることができるようになりました。日々膨大な“検索”語がサーチエンジンに入力されています。これまで様々な検索エンジンが市場に提供されてきましたが、現在最も普及しているものはGoogle Searchであることは論をまたないでしょう((Google Searchの市場占有率は世界的には85%以上ということです。詳細は、総務省『令和4年 情報通信に関する現状報告の概要』第2部第6節「国内外におけるサービス・アプリケーションの動向」参照。))。検索する行動を「ググる」という動詞で表現するほど市民生活に欠かせないツールとなっています。

 こうしたネット利用者による検索行動がネットを舞台とした経済市場に密接に関わっていることはこれまでも報じられてきた通りですが((デジタル市場競争会議「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」特に87頁以下の「検索エンジンのデフォルト設定の問題」の項を参照。))、自身の検索行動が誰かに監視されているとは疑わないと思います。ところが近年、米国では、Google Searchに一定の時間的範囲で特定の検索語を入力した人物が犯人である可能性が高いとして、Google社に利用者情報を提供させる捜査手法が取られていることがわかってきました。

 今回は前回ご紹介した特定のエリアに存在していた移動体端末情報を取得する「ジオフェンス令状」に引き続いて、データ駆動型捜査手法の新しいものである特定の検索語を入力して……

(2023年05月24日公開)


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