連載 和歌山カレー事件

和歌山カレー事件
刑事裁判のヒ素鑑定の誤りを見抜いた民事裁判
第4回

林真須美頭髪に3価無機ヒ素を検出したとされる山内鑑定は「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」(下)

河合潤 京都大学名誉教授

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10 1984年「陸水」の論文

 山内助教授が,まさに林頭髪鑑定方法そのものを用いて,温泉水や河川水や土呂久鉱山坑内水などの「陸水」のヒ素分析を行ったところ〔山内ら,陸水中砒素の化学形態,日本公衛誌,31, 357 (1984).この論文は日本公衆衛生学会のWebページには総目次が掲載されているのみなので,論文自体のコピーの入手にはかなり手間取る〕,「井戸水と市販のミネラルウォーター(鉱泉水)をNaOHで分解しないで測定《直接法》すると,それぞれの検水からAs(III)とAs(V)が検出された.たとえば青森県三戸地区の井戸水では,As(III)とAs(V)を足した無機砒素濃度は平均0.58nℊAs/㎖であった.しかし,同一の検体をNaOHで分解して測定《NaOH分解法》すると無機砒素濃度は平均12.0nℊAs/㎖と約20倍に増加した.ミネラルウォーターもNaOHで分解して測定すると,無機砒素濃度は約10倍に増加した(表6《省略》).さらに, 土呂久鉱山周辺の湧水中無機砒素濃度も同様な傾向が示された(表2《省略》).」(p.361右) と報告されている.

 分析手順によって同一検体の無機ヒ素濃度値が10倍にも20倍にも変動する分析方法は,鑑定には使えない.1984年のこの「陸水」の論文を境にして,山内助教授は「超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計」で行うヒ素分析では3価無機ヒ素を分析項目から除外して,総無機ヒ素のみを検査項目とした.「陸水」の論文までは3価無機ヒ素が検査項目にあった.

 「陸水」論文までの3価無機ヒ素を分析するためのpH3.5が,「パーマコロジー」の論文からは,「DMAAとTMAを測定するため」のpHになった……

(2023年07月28日公開)


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