連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第16回

電子データの強制的取得方法(上)

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 2022年7月に始まった法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下、「部会」という)において、刑事手続の諸段階でのIT利用・導入が検討されていることは周知のとおりです。本連載の契機もこうした立法動向でした。しかし、検討内容が技術的・専門的に過ぎるのか、刑事司法関係者だけに関わる問題であって直接市民に関係がないと見られているのか、メディアにおいてもあまり注目されていないように思われます。

 そうした中、この部会で新たな強制処分の導入案が示されていることは法曹関係者でもほとんど知られていないのではないでしょうか。それが、電磁的記録(本稿では“データ”と呼ぶこともあります)を強制的に提出させる「提供命令」というものです。

 今回は、法制審で提案されているこの新たな処分の内容ならびに部会での議論の経緯を批判的に紹介するとともに、比較法的観点から提案内容について検討を加えようと思います。

2 データに対する新たな強制処分(提供命令)の提案

 今回法制審議会に出された諮問事項は「情報通信技術の進展及び普及の状況等に鑑み、左記の事項に関して刑事法の見直しをする」ことでした。具体的には(1)刑事手続において取り扱う書類について、電子的方法により作成・管理・利用すること、(2)刑事手続において対面で行われる捜査・公判等の手続について、映像・音声の送受信により行うことの2つが趣旨とされ、これらに続く3点目が上記(1)及び(2)の「実施を妨げる行為その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること」というものです。

 この3点目の具体的方策として、2022……

(2023年10月02日公開)


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