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『オアシス・インタビュー』第3回

〈自敬の念〉の欠落が誤鑑定を生む

指紋鑑定にも第三者機関を


“自敬の念”の欠如

——なぜ、その“自敬の念”は欠如するのでしょうか。

齋藤  先ほど述べましたが、警察の特権意識は、警察職員の構成区分の呼称に現れています。それは、警察組織を運営している職員は、警察官の他に警察行政職員と警察技術職員で構成されていますが、警察行政職員、警察技術職員は「一般職員」という呼称で区分されています。

 その呼称基準は、「警察官」が「特別職員」という意識に対し、単に「警察官以外の職員=一般的な職員」という意味です。だから、会計課長である行政職員でも所属長という幹部職員でありながら「一般職員」なのです。警察官以外の職員の呼称を自分たちの身分で区分しており、いわゆる同僚の人格をも尊重していないのです。同僚に対する人格も配慮していないのですから、被疑者として逮捕した者に対して、無罪を証明するための捜査などしてくれないことは容易に想像できます。

 さらに、裏付け捜査を十分にすれば、誤認逮捕を捜査機関自らが証明することにもなりかねません。捜査機関によって不都合な捜査をしないためには、不作為の証拠隠滅が考えられ、これが一番厄介で非常に不合理です。このように、絶対的な捜査権を持つことによって生み出される特権意識が“自敬の念”の欠落を起こしているものと考えられます。

 したがって、性善説に支えられる嘱託鑑定制度の盲点は、この“自敬の念”の欠落がもたらしていると考えられ、これが冤罪の実態と思います。

——警察組織には、その“自敬の念”を欠落してしまう構造上の問題がありそうですね。それをどう解決したらよいでしょうか。

齋藤  この“自敬の念”の欠落を充足させるには、まず、捜査機関といえども、冤罪が確定したら、その原因を究明する第三者の組織を立ち上げることです。次に争いのある事件は、中立の鑑定人が鑑定する組織を設置すること。そして、最後に、裁判所の管理下に鑑識資料を一元的に管理する組織を設置することです。

 このように、捜査機関には事件捜査にあたり常に国民が注視していることを念頭に置かせ、性善説、性悪説に関わらず、採取、分析鑑定すべての経過が公開できるシステムを作ることが急務に思います。

——鑑定結果は、事件関係者の人生を左右することになりますし、場合によってはその人の生命をも絶つ結果になりますね。

齋藤 そうです。そのことはいつも肝に命じて、この仕事をしています。この仕事に50年以上携わっていますが、指紋が一致しているか一致していないかの判断に迷うことは、今でもあります。最大の敵は自分です。腹が括れないとできません。鑑定書に自分の名前を書いて、判を押すのですから。息子の健吾と2人でイエス・ノーを繰り返えしながら鑑定作業をやっています。迷っているときは、無理して結論を出さないことです。今日、結論を出すのではなく、明日にまわす。あるいは1週間後に、また検討する。そういうことの繰り返しです。

——最後に、若い人へ望んでいることはありますか。

齋藤 飛行機事故や列車事故の事故原因の究明は物理的な命の救助になりますが、冤罪原因の究明は法律的な命の救助です。冤罪原因の究明や鑑定不正が起きないようにするためにはどうしたらよいのか、どうしたら客観的に鑑定できるか、その制度的保障をどうするかを考えることです。

 これまで述べてきたように、現在の鑑定制度は、捜査機関の鑑定の検証が単式構造になっているために不完全になっています。これをチェックできるよう複式構造にすることが求められています。言ってみれば、家計簿レベルで人権が裁かれているのが現実であり、これを会社経理の複式簿記のように経過が明らかにできるようにすべきだと思います。それが次世代を担う若い人の課題です。 (了)

用語解説

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