ゴーン事件弁護士事務所の 捜索差押えと押収拒絶

拒絶権をめぐる弁護士と検察の攻防


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3 検察は裏側のドアから侵入

後藤 その日は、結局、入口の鍵を壊したのでしょうか。

小佐々 事務所には2カ所入口がありますが、事務所では正面の入口ドアしか使っていなくて、その前で検察側とやりとりしていたのですが、裏側にもドアがもう1カ所あります。それはサムターンカバーで覆われていて、内側から鍵を開けたり閉めたりできないのですが、外側には鍵穴があり、その鍵を借りてきたのだと思います。そちらのドアの鍵を開けて入ってきました。

大出 気がつかないうちにそういうことをされてしまったということですか。

小佐々 実態としてはそうでした。明示的に、検察官だと名乗った検察官が2人いて、われわれはそのときは3人だったと思いますが、正面入口ドアの所でずっとやりとりをしていて、検察は「もう開けますよ」とずっと言っていたのですが、こちらもずっと「それは拒絶します」というやりとりをしていたら、裏側の別のドアがなぜか開いて、検察官がわっと入って、われわれがこっちで押し問答している後ろの正面入口のドアから検察官が出てきました。

大出 鍵を誰から借りてきたかという確認はできていますか。

小佐々 明示的に確認はとっていません。1回目の捜索差押えのときには、鍵屋は来ていなかったので、2回目のときも鍵屋がいないのに施錠しているドアが開いたということは、鍵を使って開けたんだろうと推測したからです。

大出 報告書では壊した部分があるという指摘もありますが、そうではないのですね。ただ、瞬間的には壊されたかなと思ったということでしょうか。

小佐々 そう思いました。検察は十何人もいるので、あとで確認できた鍵屋を見れば鍵屋だとわかりますが、そこにいる人たちがどういう人なのかは、全員名乗るわけではないのでわからなかったので、そのときは何かしらの方法で、本来の鍵を使わない方法で開けられたのだと思いました。

大出 それで正面入口ドアも開けられることになったわけですね。

小佐々 そうですね。内側からなら普通に開けられるからです。

大出 その段階でも、直ちに捜索に入ったのではなくて、そこでまた、あらためて押し問答することになった。

小佐々 そうです。そこで、「あなた方が入っているのは不法侵入だから、110番しますよ」と言ったら、検察は、「どうぞ、すればいいじゃないですか」と返答をしました。実際にはそれはしなかったのですが、さらにこちらが「やめてください、出ていってください」と言ったのですが、検察は「とりあえず、廊下にいるのもなんなので、ちょっと会議室とかに入らせてください」と言いました。こちらも「出ていけ」という手前、「ここに入ってください」とも言えず、ずっと廊下で押し問答をしていました。そのときに出たのが、先ほどの折衷説です。

4 面会簿原本の押収の経緯

後藤 最終的には、その日はどうなったのですか。

小佐々 面会簿原本だけを押収して帰りました。

弘中 それは、こちらのほうも「任意で出します」と言っていたものです。

大出 ただ、向こうは受取りをいったんは拒否したわけですね。

小佐々 それについて言うと、最初に入口の所で問答があったんです。私のほうでざっと捜索差押令状を確認して、「これは押収拒絶の対象なんだ」と言っても、検察は「それは違うだろう」と言ったわけです。それで、こちらは事務所の中に入って、私のほうで提出することができるもの(面会簿原本)をとりまとめて、「これを持って帰ってください」と言ったら、検察は、最終的には持って帰りましたが、そのときは受け取りませんということで、捜索をさせてくれという話がずっと続きました。

弘中 押収の成果があった、という形にしたかったんだと思います。

小佐々 検察官が入ってきてからも、また渡しますと言ったら、「これがどこにあったのか、どこから押収したのかを特定したいので、これが保管されていた場所を教えてください」ということで、最終的には事務所の中を検察官がうろうろする状態になり、やむなく保管場所を示したら押収となりました。

 報告書には書かなかったのですが、こちらは「捜索差押目録に入れるのではなくて、任意提出にしたい」と言ったのですが、その点については議論になりませんでした。結局、検察は、「手続上できるかもしれないけれど、それはしません。これは押収する形にします」というので、こちらもそれは最後の最後だったので、そこでは任意提出についての争いはせず、そこは捜索差押目録に入ったということです。

大出 捜索している過程の中で、中身について拒否したけれども、確認をされたとか、確認することを求められたとか、具体的に何か問題になるようなことはありましたか。

弘中 ゴーンさんに貸与していたパソコンの中のデータを見せろと言ったことがありました。

小佐々 貸与パソコンの中にも裁判所に提出したインターネットログなどのデータがあるんですが、同じものを、今この目の前で弁護士が操作し、それを抽出して、DVD等に焼いたものを今ここで預かりたいと検察官は言ってきました。

大出 それは裁判所に出しているので、秘密性はないという議論はあったのですか。

小佐々 検察はそのように言っていましたが、物(ぶつ)としてはパソコン一体なので、その中のデータ一個一個についてではなく、パソコン自体が押収拒絶できるものなのだから、こちらには協力する義務もなく、また協力する気もないというやりとりにはなりました。

(2020年05月06日公開) 

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