
警察庁は、佐賀県警科学捜査研究所(科捜研)の元技術職員によるDNA型鑑定記録改ざんについて、昨年10月から佐賀県警に対して特別監察を実施していたが、その最終報告を、6月4日、公表した。
特別監察の趣旨は、つぎの2点である。①佐賀県警察のDNA型鑑定に係る不適切な取扱い事案に関して、業務上の問題点を把握したうえで、再発防止策を検討することによって、佐賀県警察に対して必要な指導を行うこと、②特別監察の報告書を他の都道府県警察に対しても通知し、この種事案の発生の絶無を期すこと。
監察の実施項目としては、①DNA型鑑定の実施体制とその実施状況、②不適切事案の原因分析とそれを踏まえた再発防止策、である。①については、「捜査・公判への影響の有無」と「鑑定の実施状況(不適切な取扱いがある場合はその内容を含む)」の確認を行ったという。
それによると、元技術職員が2013年5月以降、1人で担当したDNA型などの鑑定は計643件あり、そのすべて確認したが、「捜査、公判への影響は確認されなかった」と結論付けている。佐賀県警による当初の調査結果では不適切な鑑定は130件とされていたが、最終報告は、新たに110件の鑑定を不適切と認定し、計239件に上ったとしている。
この最終報告に対して、藤田義彦(藤田法科学研究所長・元大学教授)さんが、佐賀県弁護士会(会長:永尾竹則)に提出した意見書(6月19日付)が、このほど公表された。
意見書は、警察庁の最終報告の項目に従って分析している。冒頭で、特別監察が行った鑑定件数について 、その正確性に疑問を呈している。また、不祥事の原因として、監察結果では多くは元技術職員の個人的資質に問題があったとしているが、意見書では、同県警科捜研における、犯人に結びつく迅速で良好なデータを求める捜査部門からの強い圧力や鑑定数と比較して技術職員数の慢性的な不足など職務体制に原因があると断じている。
結論として、つぎのように指摘している。「捜査への影響、再鑑定不可能、DNA型不検出、警察庁も含めた組織的責任に対して十分な検証が実施されたとはいえず、さらに第三者による調査・検証が不可欠である」。
藤田さんは、意見書を提出した後、この事件の背景について、つぎのように述べた。
「私の論文『DNA型鑑定における精度管理——誤鑑定の防止策』(『犯罪学雑誌』第77巻第5号〔2011年〕131〜146頁)は、平成22年度司法研究員(3名の判事)の研究報告をまとめた『科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方』(法曹会、2013年)において数多く引用されている。警察庁、科警研および各科捜研が、判事も参考にしている本論文で提唱した精度管理の手法を真摯に受け止め、忠実に実施していれば、今回の鑑定不正事案は発生しなかった。2012年の和歌山県警と今回の佐賀県警の事案は、いずれも主任相当の役職にあり、鑑定に精通した技術職員による不正であったことから、警察組織に対する不信感や絶望感が背景にあったのではないか。足利事件では、当時のDNA型鑑定によって有罪判決が言い渡された一方、その後の再鑑定により再審無罪となった。この経緯を教訓とするならば、科学捜査、特にDNA型鑑定は、真実の追究と冤罪絶無の最後の砦として機能しなければならない。そうでなければ、法治国家として国民の信頼を得ることは困難であり、早急に法科学鑑定部門を警察以外の行政機関、あるいは独立行政法人に設置し、外部認証評価を得て、公正性・客観性・正確性を担保しなければならない」。
警察庁は、佐賀県議会や佐賀県弁護士会(6月5日、「警察庁による佐賀県警察科学捜査研究所のDNA型鑑定不正行為に関する特別監察最終報告を受けての会長声明」を公表)などが要求している第三者機関による検証について一顧だにしていない。日本の捜査機関は、袴田事件や大川原化工機事件においても第三者機関による原因究明を一貫して拒否している。このままでは、同様な不祥事や冤罪が再発するとも限らない。
【佐賀県警DNA型鑑定不正の動き】は以下を参照(編集部)
・佐賀県警DNA型鑑定不正/警察庁が中間報告の2回目公表。科捜研の元所長補佐・藤田義彦さんが、意見書で「最終報告は、正確で詳細な監察結果」「公正性・客観性を担保するには第三者機関の検証」を切望
・科捜研の元所長補佐・藤田義彦さんが、警察庁の特別監察「中間報告」に対する意見書で、「冤罪の検証に実績のある専門家の意見を求めるべき」だと表明
・科捜研の元所長補佐・藤田義彦さんが、佐賀県弁護士会に対する意見書で、「第三者委員会の設置と再検証」を求める
(2026年06月25日公開)