強盗致傷被疑事件
1 事案の概要
本件の被疑事実は依頼者が友人5人と共謀し、もめ事になった相手から金品を奪おうとし、友人らのうち1名が相手を金属バットで殴り、依頼者を含む複数人で胸を踏みつけ、腰や頭を蹴る、首を締めるなどの暴行を加え、現金やバイクを奪い、鼻骨骨折や骨盤打撲などのけがを負わせたというものである。
依頼者は、現場にいたものの、暴行行為および金品を奪う行為には一切関与していないとして否認した。なお、依頼者は逮捕された時点で少年だった。
2 選任
勾留決定日翌日に被疑者国選として受任した。強盗致傷被疑事件であり、裁判員裁判対象事件であったことから、直ちに事務所の先輩である三宅千晶弁護士に2人目の弁護人になることを依頼し2名体制で弁護活動を開始した。
3 取調べ拒否の弁護実践
⑴ 取調べ対応方針
初回接見の際に依頼者から事情を聴取したところ、依頼者が取調べで供述することにより得られるメリットは全くないと判断した。したがって、黙秘をする方針にしたうえで、依頼者に対しては取調べ自体を拒否する方針を提案した。
⑵ 依頼者に説明した内容
依頼者は、同室の被留置者に取調べを拒否している者はおらず、留置の担当者から取調べに行くことを求められた際に拒否を貫ける自信がないと述べていた。そこで、以下のことを説明した。
① この事件で黙秘をすることが重要であること。
② 黙秘をしても取調べが直ちに終わらず取調室で供述を求められ続けることが多々あり、取調べに行くこと自体が負担となること。
③ 警察官や検察官は、法律上取調べを受ける義務があると言ってくることがあるが、それは捜査機関の一方的な解釈に過ぎず、取調べを拒否することは黙秘権の行使としてできること。
④ 留置担当の警察官などが取調べのため居室から連れ出そうとしたら「行かない」と明確に意思表示をすること。
⑤ 取調べ拒否を理由に不利益な扱いを受けた場合には弁護人が直ちに抗議すること。
⑥ もし強制的に連れていかれそうでも身体的・物理的抵抗はしないこと。
⑦ 取調室に連れて行かれたとしても「黙秘権を行使します。取調べをやめてください」と言い、それ以外は一切言葉を発しないこと。
⑧ 取調べを拒否する意思があることは依頼者名義の通告書と弁護人名義の通告書に記載して提出すること。
⑶ 通告書の提出とその後の経過
依頼者名義の取調べを拒否する旨の通告書を弁護人名義の通告書とともに、担当検察官、取扱い警察署の署長・刑事課長・担当警察官、留置先警察署の署長・警務課長宛てにFAXで送付した。
通告書送付の翌日、検察官から取調べの呼び出しがあったが、依頼者は留置担当者に対し「取調べを拒否するため房から出ません」と告げて居室から出ることを拒否した。留置担当者は「取調べは義務であるから行かなければならない」と説得したものの、最終的に連れていかれることはなかった。
しかし、同日の昼食時、他の被留置者にはパンなど通常の分量の食事が提供され、さらに飲み物も牛乳またはジュースなどが提供されていたにもかかわらず、依頼者に対しては極めて少量のおにぎり1個および白湯のみが提供された。留置担当者に理由を尋ねると「君の食事は検察庁に行っている。取調べに行かなかったから君に通常の食事が提供できない」旨述べた。
同日の接見でこの事実を把握したことから、即日弁護人名義で抗議書を提出した。抗議書では、取調べ拒否を理由に食事制限を行う行為は黙秘権を侵害するものであること、そのうえで、食事制限および食事制限による黙秘権侵害は国賠法上違法な行為となることを述べ、厳重に抗議した。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「法」という)186条1項2号は「食事」を被留置者に支給する旨を定めているのであり、「食事」とは被留置者にとり社会通念上必要な量および栄養素を含むものであることが求められるものと解釈すべきであるところ、十分な量の食事を提供しないことは、被留置者の生命・身体の維持に必要な活動を行うことを法律上許容された限度を超えて制限することになるとの説明を行った。
⑷ その後の取調べ
その後も警察官から3回ほど取調べのため呼び出しがあったが、依頼者は取調べを拒否した。留置担当者から拒否の理由を聞かれることがあったが、「黙秘するから取調べに行かない」と返答したところそれ以上の「説得」を受けることはなかった。
⑸ 結果
勾留満期に処分保留釈放となり、その後傷害保護事件(後述)として家裁送致された。
傷害被疑事件
1 事案の概要
依頼者が友人ら4名と共謀のうえ、通行人に因縁をつけて突き飛ばし、足蹴り、飛び蹴り、踏みつけ、顔面殴打をするなどの暴行により傷害を負わせたという被疑事実で逮捕された。
2 取調べ拒否の弁護実践
⑴ 通告書の提出
逮捕当日に接見し、供述をすることのメリットのない事案であると判断し、引き続き取調べを拒否することを依頼者に提案した。
担当検察官、取扱い警察署、留置先警察署は上述の強盗致傷被疑事件のときと同一であったが、改めて依頼者名義の取調べを拒否する旨の通告書を弁護人名義の通告書とともに、担当検察官、取扱い警察署の署長・刑事課長・担当警察官、留置先警察署の署長・警務課長宛てにFAXで送付した。
⑵ 捜査機関の対応
検察官から1度、警察官から2度取調べに呼ばれたが、依頼者が取調べを拒否する旨を告げると、前件のときと異なり「説得」を受けることなく拒否することができた。
⑶ 結果
勾留満期日に2件目の傷害保護事件として家庭裁判所に送致された。
少年審判
1 家裁送致の対象となった事件
前述の強盗致傷被疑事件は強盗致傷ではなく傷害保護事件として送致された(以下、「第1事件」という)。2回目に逮捕された傷害被疑事件はそのまま傷害保護事件として家裁送致された(以下、「第2事件」という)。
2 選任
家裁送致当日に国選付添人として選任され活動を始めた。
3 審判での活動
選任当日に家庭裁判所で証拠を閲覧したところ、弁護人に選任される以前に作成されたものを除き依頼者の供述調書は存在しなかった。依頼者と面会のうえで、第1事件については暴行には一切関与しておらず他の共犯者とされる者との間で共謀もしていないと主張し、第2事件については暴行態様を一部争う方針とした。
共犯者とされる者2名の供述調書には依頼者が暴行を行った旨の記載があったが、依頼者の認識と異なっていたため、両名の証人尋問を求め実施した。尋問の結果、共犯者とされた者らは「依頼者が暴行したかどうかははっきりしない」「捜査段階では推測を交えて話した」と証言した他、多数の供述の変遷があることが明らかになった。その結果、裁判所は第1事件について非行事実を認めず、第2事件についても依頼者の供述する範囲に限定して非行事実を認定し、保護観察処分とした。
まとめ
強盗致傷被疑事件、傷害被疑事件のいずれについても取調べを拒否することができた。2件目の傷害被疑事件においては留置担当者が「説得」することもなくなった。本件の実践を通じ、黙秘権を行使するためには取調べ自体を拒否する対応をすることが有効であると改めて認識した。
本件で依頼者が釈放された際に、「取調べを拒否して昼食を減らされたことで心が折れそうになったが、すぐに抗議してくれたことが支えになって拒否を続けられた」との言葉を受けた。上述したいわゆる「兵糧攻め」のような不利益取扱いに対して即時に抗議し是正を求めたことが、依頼者の取調べ拒否の意思を守り、結果黙秘権を守ることにつながったと考えている。本件を通じ、取調べ拒否の弁護実践とは、依頼者が取調べを拒否できる「環境」を構築し維持する不断の活動であることを痛感した。
(『季刊刑事弁護』125号〔2026年〕を転載)
(2026年01月20日公開)
