連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第12回——事例報告⑪ 収賄・地方公務員法違反被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第12回——事例報告⑪ 収賄・地方公務員法違反被疑事件

取調べ対応のスタンダード

高瀬雅之(大阪弁護士会)


はじめに

 私は、これまで、それなりの数の刑事事件を担当してきたと自負している。捜査弁護も多く担当しており、取調べ対応にあたっては、黙秘権行使を原則として助言することを徹底してきた。この黙秘権行使を実現するために、具体的な助言方法をどうするか、捜査官の違法不当な言動を確認した場合などにはいかなる対応を採るべきか、など取調べ対応の在り方も考え続けてきたつもりである。

 ただ、私はRAISの会員というわけではない。取調べ拒否については、その取組み事例が増えていることは認識していたが、現実に実践したことはなかった。それは、取調べ対応について、出頭したうえでの黙秘権行使を原則的な方針とし、取調べ拒否は二次的な方針と位置付けていたことが大きかったと思う。

 今回は、そんな私が初めて実践した取調べ拒否の事例を報告する。

事案の概要

 本件は、収賄、地方公務員法違反の事案である。

 町会議員のA氏は、議会において、会社の事業に関し、税金の導入等の同社に不利な提案や発言をしないなどの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、現金の振込入金を受け、もって職務に関して賄賂を収受したとされる収賄被疑事件で逮捕勾留された。

 その後、A氏は、町役場の職員らに対し、町民2名の氏名、家族構成等の住民基本台帳に記録された情報を教示してほしい旨依頼し、もって公務員が職務上知りえた秘密を漏らす行為をそそのかしたとされる地方公務員法違反被疑事件で逮捕勾留された。

弁護実践の内容

1 取調べ拒否の方針決定まで

 私は、収賄事件の逮捕当日、A氏の私選弁護人に選任された。初回接見では、事実関係に争いがあることを確認し、完全黙秘方針を指示した。併せて、警察官の取調べについても全面可視化を申し入れることにした。なお、このとき私が指示した完全黙秘方針とは、取調室に出頭して黙秘権を行使するものである。このときは、取調べ拒否の方法は頭にはあったが、あえて指示せず、取調室での黙秘権行使が難しければ検討する考えであった。

 勾留決定直後、接見で取調べ状況等を確認した。検察官の弁解録取では、A氏は黙秘をすることができていたが、裁判官の勾留質問では、A氏は事実は間違っている旨発言し、その記載がある勾留質問調書に署名指印していた(勾留質問でのことは、私の説明不足による失敗だと思っている)。

 勾留2日目、A氏は、黙秘を継続できていたが、警察官は、A氏に対し、「黙秘してもあなたにとって不利になることがある」「心証も悪くなる」「なんぼ黙秘したって、どないもならん」「◯◯社に要求するからこういうことになってしもたな」「今までに市会議員△△を有罪にした。この件も絶対に有罪にする自信を持って取り組んでいる」「絶対負けへんで」などと申し向けていたことを接見で確認した。これらの言動に対しては、直ちに担当検事と県警本部長宛てに抗議書を送った。それとともに、まずは翌日に予定されていた検事調べの出頭を拒否する方針に切り替えた。

 検事調べは、A氏が行かない旨を告げると、実施されることはなかった。A氏によると、房から出るよう呼ばれたこともなかったということだった。

 その後、本件では、警察の取調べも含めて全て取調べ拒否の方針を採ることにした。

2 A氏への説明、取調べ拒否の通告

 当初から、A氏には取調べ拒否という方針があることは説明していた。RAISの書式を基にした本人作成の通告書も、日付を空欄にして事前に取り付けていた。それでも、初めから取調べ拒否方針を採らなかったのは、取調べ拒否に対しての不利益がありえるのではないかと考えていたのと、取調室における黙秘権行使のための入念な想定問答も含む助言が、出頭させられた際の仮定的なものになってしまうことで、70代と高齢のA氏を混乱させるかもしれないと考えたためである。

 その後、警察の取調べも含めて全て取調べ拒否の方針を採るに際しては、A氏には、まず房から出ないこと、強制的に連れて行かれる場合には物理的な抵抗をしないことなどを説明した。そして、取調室内では、「黙秘します。取調べを止めてください」とだけ言うように説明した。これらの説明は、RAISの取調べ拒否実践マニュアルのとおりに行ったつもりである。

 取調べ拒否の通告書についてもRAISの書式とマニュアルを基に作成し、捜査担当の県警本部、A氏が留置されている警察署の留置管理課と担当検察官にそれぞれFAXした。

弁護実践の結果

1 捜査機関の対応

 取調べ拒否の通告書をFAX後、当日のうちに留置管理課の課長から電話があった。

 (本当かどうかはさておき)「当署では、これまで無理に取調べに連れて行くことはしていない。A氏に関しても無理にすることはないが、職務上、捜査担当が取調べを実施するという場合本人に通知することになっているので、その点だけ了承いただきたい」とのことだった。

 その後は、本当に留置管理の職員が取調べの呼び出しには来るもののA氏が拒否したらすぐに引き下がるということが続いた。そして、勾留20日目の満期まで取調べが実施されることは一度もなかった。A氏は、勾留満期日に収賄の罪で起訴されることになったが、当然ながら、開示証拠には、取調べ拒否方針後の供述調書などA氏の供述関係の証拠は一切存在しなかった。

2 その後

 A氏は、収賄の罪で起訴後、地方公務員法違反の被疑事実で逮捕勾留されることになった。この逮捕勾留の際には、収賄事件での実績もあったため、最初から迷うことなく、取調べ拒否の方針を採ることにした。

 例によって、取調べ拒否の通告書を県警本部、留置管理課、検察官にそれぞれFAXした。取調べ拒否方針を徹底するため、勾留請求があった場合には勾留質問の機会も放棄するとの内容のA氏作成の通知書も裁判所にFAXした。結果として、A氏は、検察官の弁解録取手続のため検察庁に連れ出されることはなく、勾留質問のため裁判所に連れ出されることもなかった。

 そして、地方公務員法違反事件についても、勾留満期までに一度も取調べが実施されることはなかった。取調べに出頭するようしつこく言われることもなかったようである。

 A氏は地方公務員法違反の罪でも起訴されたが、この件においても当然ながら、供述調書などA氏の供述関係の証拠は一切存在しなかった。

最後に

 本件では、取調べ拒否の方針を採った結果、A氏の完全な黙秘を実現することができた。取調べ拒否後、A氏が雑談などとして情報提供をしてしまったこともない。まさに完黙といえる理想の黙秘権行使である。A氏が取調べに無理に連れ出されたことはなく、取調室で説得と称する不当な罵詈雑言に晒され続けることもなかった。A氏の取調べ対応の負担も最小限のものとなった。

 そして、A氏が勾留されている警察署はそれなりに遠方にあったが、弁護人接見の回数は、上述の2つの事件の逮捕勾留期間を通算した44日間で、合計10回余り(そのうち後半の地方公務員法違反被疑事件については3回)にとどまった。これは、緊急事態があれば必ず接見要請を入れてもらうというA氏との約束の下で接見頻度を減らしたことによる。取調べに出頭したうえでの黙秘権行使方針の場合、連日接見が基本となることを考えると、格段に少ない接見回数といえる。弁護活動上も非常に合理的だったと感じている。本件は、特別な活動をしたわけではないが、一つの成功事例であることは間違いない。

 本件を経て、取調べ対応のスタンダードは、どうあるべきかを考えさせられた。現在でも取調べ拒否についても事実上の不利益がありうるのではないかと検討することはある。本件後、取調べ拒否を指示しても依頼者が房から強制的に連れ出されるなど一筋縄でいかなかった事例も経験した。

 取調べ対応としてどのような方針をとるべきか。最終的には、個別の事案における種々の事情から決すべきであるとの考えは今でも変わらない。しかし、取調べ対応のスタンダードは、原則出頭したうえでの黙秘権行使ではなく原則取調べ拒否であり、取調べ拒否を二次的な方針と位置付けることは発想が逆であって誤りであったと認めざるをえないかと感じている。

(『季刊刑事弁護』125号〔2026年〕を転載)

(2026年01月20日公開)


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