はじめに
韓国刑事法の現況や立法、判例、学界の動向等を、比較法制的観点から日本の読者の方々に紹介することになった。このような文章を『刑事弁護OASIS』に連載する試みは、大変意義深いと思う。連載の第一弾として、韓国における司法改革の沿革とともに、2000年代以後に断行された刑事訴訟法および特別法上の主要な改革立法の内容を紹介する。
1 韓国における司法改革の沿革
⑴ 司法改革の道程
韓国における司法改革に関する立法を通史的に見るためには、1945年光復(植民地統治からの解放)直後の米軍政期から断行された植民地立法の克服と英米式人権保障的な刑事手続の導入過程、そして1950年代中盤まで行われた大韓民国憲法をはじめとする韓国の自主的な基本法令の編纂作業などに遡らなければならない。ここでは、紙面の制限や議論の実益などを考慮して、長年の軍事政権が幕を下ろして1993年に発足した金泳三政権期から推進されてきた司法改革の道程を簡単に紹介しておく。
「文民政府」と銘打って発足した金泳三政権(1993〜1998年)では、司法改革を推進する機構として、司法制度発展委員会(1993年)とグローバル化推進委員会(1995年)が構成された。その活動の実質的な成果としては、従前は年間200人台であった司法試験合格者数を段階的に1,000人まで増員したことが挙げられる。
「国民政府」と呼ばれた金大中政権(1998〜2003年)では、司法改革推進委員会(1999年)が設置され、陪審制・参審制やロースクール制度の導入など、韓国の中・長期的な司法改革の主要方針などが検討・提示された。この改革の流れは、政権を継承した盧武鉉政権に引き継がれた。
「参与政府」と命名された盧武鉉政権(2003〜2008年)では、2003年10月に大法院傘下の司法改革委員会(2003年)が設置された。この委員会は、一年余りの活動を通じて策定した「司法改革建議文」を大統領に提出した。そして、これを実践するための後続推進機構として、2005年1月に大統領直属の司法制度改革推進委員会((司法制度改革推進委員会の構成、研究調査内容、活動内容などの詳細な事項は、사법제도개혁추진위원회『사법 선진화를 위한 개혁: 사법제도개혁추진위원회 백서 (상)·(하)』(2006년) を参照。))が発足した。推進委員会の立法案によって、2007年の刑事訴訟法全面改正、国民参与裁判の導入、そして新たな法曹養成制度としてのロースクール制度の導入を核心とする司法改革三法が成立した((2007年刑事訴訟法の全面的な改正の趣旨と内容などを確認することのできる解説書として、법원행정처『형사소송법 개정법률 해설』(2007년)がある。また、国民参与裁判を導入した立法に対する解説書として、법원행정처『국민의 형사재판 참여에 관한 법률 해설』(2007년)がある。))。同時に、盧武鉉政権は、上記の司法改革三法と並行して、検察改革——いわゆる捜査構造改革、検・警捜査権限調整を推進した。そして、当時の検・警捜査権限調整協議体の議論を経て策定された与党の立法案が、国会に提出された。しかし、この立法案は、極めて激しい論争の末、第17代国会任期満了に伴って廃案となった((この改革に関する議論の経過、調整協議体の活動内容、立法案の成立経緯などに関する詳細な内容は、경찰청『형사사법선진화를 위한 정책방향: 수사구조개혁 백서』 (2010년)を参照。))。
政権交代によって発足した李明博政権(2008〜2013年)では、与野党の合意の下、国会内に非常設特別委員会として司法改革特別委員会(2010年)が設置された。ここでは、法院(裁判所)、検察、弁護士会を対象として、司法改革の議論が展開された。その議論の成果として、いわゆる「前官礼遇」防止法案が立法されたり(弁護士法31条)、法官(裁判官)を弁護士経験者の中から選抜する法曹一元化の立法も行われた(法院組織法42条)。
その後、朴槿惠大統領の弾劾によって発足した文在寅政権(2017〜2022年)では、大統領の選挙公約として、国家情報院、検察、警察などの国家権力機関の改革方向が提示された。また、捜査権限と起訴権限の分離を掲げて推進された検察改革案によって、2020年刑事訴訟法改正が行われた。この改正では、警察が第一次的・原則的捜査機関として、検察が第二次的・例外的捜査機関として位置づけられ、両者は相互協力する関係として再構成された(刑事訴訟法195〜197条)。同時に、警察権限を牽制するための警察改革関連法案も推進された。これに伴い、司法警察と行政警察を分離する方法として国家捜査本部を設立し、合わせて全国広域自治体単位の自治警察制度を導入することにより、警察は三次元的組織体系へと変化した。
図1 司法改革の流れ

⑵ 2007年司法改革の成果と内容——盧武鉉政権の司法改革三法
前述した盧武鉉政権期の司法改革三法の主要内容は、大別して以下の三つに要約することができる。
第一に、国民参与裁判法の制定である。これは、国民が刑事裁判に参加することにより、司法の民主的正統性と信頼を高める目的を掲げて導入されたものである(国民参与裁判法1条)。国民参与裁判は、英米式の陪審制を基本的なモデルとしているものの、陪審員の評決に対して勧告的な効力のみを認める形態を採っている。2008年1月から試験実施した後、韓国の司法環境に適合した最終モデルを導入する前提で制度が設計された(同法54・55条の司法参与企画団・国民参与裁判委員会の設置および役割を参照)((韓国の国民参与裁判の導入経緯、制度の概要、運用状況、施行の成果、最終モデルに関する議論状況などを日本に紹介した筆者の論稿として、李東熹「世界の刑事司法——韓国・国民参与裁判の現状と課題(上)(下)」季刊刑事弁護67号(2011年)182〜193頁、季刊刑事弁護68号(2011年)197〜204頁、李東熹「国民参与裁判の試行成果と課題」指宿信=李東熹=安部祥太編『日韓刑事法研究Ⅰ——日韓刑事法研究会記録集』(信山社、2025年)196〜235頁などがある。))。
第二に、刑事訴訟法の全面的改正である。①まず、裁判手続においては、いわゆる公判中心主義的法廷手続の確立が改正の要諦である。これを実現するために、公訴提起以後は両当事者が互いに証拠を閲覧・謄写することができるように証拠開示(Discovery)制度を全面的に導入した(刑事訴訟法266条の3・266条の4・266条の11)。
また、公判手続における効率的かつ集中的な審理のために、公判準備手続を大幅に拡充した(266条の5以下)。②起訴手続においては、検察の公訴権独占を規制する立法が断行された。従前は、検事の不起訴処分に対して法院に不服を申し立てる「裁定申請」手続の対象が、刑法上の職権濫用罪などに限定されていた。改正法は、裁定申請の対象をすべての犯罪に拡大した。ただし、申請権者は告訴人に限定され(260条)、同時に指定弁護士制度——公訴維持弁護士制度が廃止され、公訴維持は検事が引き受ける方法に変更された(262条)。そのため、裁定申請が認容された場合、従前の準起訴手続からドイツ式の起訴強制手続へと性格が変化したと評価されている。
③捜査手続における改正は、人権保障が要諦である。特に、被疑者取調べ手続に対する規制が大幅に強化された((韓国における被疑者取調べの適正化について日本に紹介した筆者の論稿として、李東熹「韓国における被疑者取調べの可視化」自由と正義56巻10号(2005年)120〜137頁、李東熹「韓国における被疑者取調べ可視化の現状と課題」『三井誠先生古稀祝賀論文集』(有斐閣、2012年)815〜835頁、李東熹「韓国における被疑者取調べの適正化——録音・録画及び弁護人立会の法制・実務運用を中心に」比較法雑誌58巻1号(2024年)79〜107頁などがある。日本における取調べ可視化の改革立法を韓国に紹介した論稿として、이동희, 수사과정 영상녹화제도에 대한 비교법제 연구——동아시아권 일본, 대만의 최근 동향 및 비교·시사점을 중심으로, 경찰법연구 제14권 제2호 (2016년) 3-35쪽がある。))。2003年大法院判例によって認められた弁護人立会権が明文化され(243条の2)、被疑者取調べに対する録音・録画制度(映像録画制度)が捜査機関の裁量によって実施される形で導入された(244条の2)。また、陳述拒否権の告知内容および告知手続が、より一層具体化・実質化された(244条の3)。加えて、緊急逮捕に対する統制が強化されたり(200条の4)、不拘束捜査原則が明文化されたり(198条1項)、保証金納入以外の多様な条件によって保釈が拡大された(98条)((これと関連して、李東熹「韓国における保釈及び勾留制度の改革について」自由と正義59巻2号(2008年)30〜38頁、李東熹「韓国における保釈制度の沿革と現状」自由と正義62巻1号(2011年)63〜77頁を参照。))。被疑者弁護と関連しては、すでに2006年刑事訴訟法改正を通じて、拘束令状発付のための法官(裁判官)による対面審査(いわゆる令状実質審査)段階で被疑者に弁護人がいない場合に、必要的に国選弁護人を選任するように改正された(201条の2第8項)。
第三に、法学専門大学院(Law School)設置法の制定である。制度導入の背景としては、法曹養成制度・法学教育の改革、司法サービスの拡充などが挙げられる。アメリカ式のロースクール制度をモデルとしており、3年制の法学専門大学院課程の修士学位を取得した者に限り、弁護士資格試験の受験資格が得られるようにしている(弁護士試験法5条)。
図2 司法改革主要立法→司法改革三法

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(2026年03月19日公開)
