冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第26回

冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第26回

再審法改正に消極的な論者の論法(その2)

関連性のレトリック

中川孝博 國學院大學教授


1 はじめに

 法制審議会―刑事法(再審関係)部会(以下「再審部会」)が開始された頃に「再審法改正に消極的な論者の論法」という論稿を本サイト上で発表したことがある。そこでは、再審法改正に消極的な論者がよく用いる「四審化論」などのキーワードが、必ずしも十分な理論的意味を持つものではなく、一定の方向性を示すスローガンとして用いられている側面があることを指摘した。この論稿を真剣に受け止めていただけたためかどうかは定かではないが、再審部会において「四審化論」が声高に唱えられる場面はあまりみられなかった。

 それから約1年の時が過ぎた。法制審議会が答申を出し、その内容を踏襲した法案が作成されたが、内閣が閣議決定し法案を国会に提出するよりも前の段階で紛糾し、修正が重ねられている。しかしながら、本稿執筆時点(2026年4月末)においては、再審開始決定に対する検察官抗告に関する議論、証拠の目的外使用禁止規定に関する議論、証拠の提出命令の要件である「再審の請求の理由に関連する」の意義に関する議論など、えん罪被害者を迅速かつ確実に救済するという観点からは極めて重要な諸論点について、いずれも収束に至っていないようである。

 政治家の中には、法制審の答申は専門家たちが熟議の末に出されたものなのだから、それに従っておけばよいと考えている者もいると聞く。しかし、私が再審部会の議論をみるかぎり、専門家として知的に誠実に議論しているというよりも、結論をめぐる対立の中で、各立場が自らの主張を通すための戦術を駆使しているようにみえる場面も少なくない。本稿では、証拠の提出命令の要件である「再審の請求の理由に関連する」の意義に関する議論に焦点をあて、多数派の議論のあり方を具体的に検討したい。

 法制審の答申が出た後もなお政治過程において議論が紛糾している背景として、再審部会における多数派の議論は戦術的側面が強く、一定の結論を導くことに主眼が置かれていたため、十分に議論が尽くされていない重要な論点が残されたという事情があるのではないか。したがって、法制審の答申であるという理由のみからその内容をそのまま尊重するのではなく、再審部会における議論の過程で十分に検討されなかった点を政治過程において改めて拾い上げ、熟議に付す必要がある。

2 シミュレーションを行うに至った経緯

 法制審答申によると、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるとき」に提出命令を発する。

 これらの要件は、第13回会議において配布された「今後の議論のための検討資料」の内容を踏襲するものである。第13回会議では、「再審の請求の理由に関連すると認められる」証拠の範囲が、現在実務で行われている証拠開示における範囲よりも狭くなるのではないかとの懸念が示された。そこで、関連性の範囲について具体的な仮想事例を基にした議論をしようということになり、村山浩昭委員が作成した5つの仮想事例をもとに第15回会議においてシミュレーションが行われた。そこで、次節では、再審部会の多数派に属する江口和伸委員、成瀬剛幹事、池田公博委員、川出敏裕委員が行ったシミュレーションの特徴を抽出してみよう。紙幅の制約があるため、本稿では抽出した結果しか紹介できないが、詳しい分析については別稿((中川孝博「明白性判断に関する議論の援用方法」葛野尋之編『再審法改正——制度改革の焦点』〔法律文化社、2026年5月刊行予定〕参照。))を参照していただきたい。

(2026年05月02日公開)


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