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執筆者:村岡美奈 監修者:藤田正隆

【第7回】押収されたお金、預金通帳を取り戻したい


●警察署の接見室にて

弁護人「初めまして! 本日逮捕ですか?」

被疑者 「はい、初めての逮捕なんで、いろいろ不安で」

弁護人「逮捕のときに、ガサってありましたか?」

被疑者「ガサ? 捜索令状もって、家捜しされたのはありました。会社と自宅に、警察がたくさん来ました」

弁護人「ガサというは、「捜す」の「サガ」の倒語で、業界用語1)ですけど、捜索差押手続のことです。捜索令状のことをフダとかガサ状といってます。なにか、押収、つまり持っていかれたものはありますか」

被疑者「結構あったと思いますけど、具体的には分からないです」

弁護人「押収品目録交付書(おうしゅうひんもくろくこうふしょ)はもらっていますよね」

被疑者「あー、品目が書いてある一覧表ですね。会社の捜索の後に、もらって、留置にあります」

弁護人「なるほど。それを見れば、何を証拠として捜査をしようとしてるのかわかりますので、いま、持ってきてくれませんか」

被疑者「はい、……(留置管理の人に、接見室まで持ってきてもらい、アクリル板越しに見せてもらう)……これです」

弁護人「なるほど。結構ありますね」

被疑者「会社の預金通帳など、すぐに必要なものもあるし、私の奥さんのパスポートもビザの更新で必要なんですけど、すぐに返してもらえますか」

弁護人「押収したものは、捜査に不必要と判断されない限りは返されません。不起訴になるか、起訴されて裁判が確定するまで返されないこともあります。ただ、個別に要求すれば、返してもらえることもあります。捜査機関にとって不必要であれば還付されるし、証拠として必要な場合は、仮還付といって一時的に返してもらう場合もあります。この場合、勝手に処分すると横領罪等になるので注意が必要です」

被疑者「少しでも可能性があるなら、ぜひ、その還付とかをお願いします」

●お金、預金通帳

弁護人「すぐに使うものを返してもらうには、あなたが刑事さんに直接事情を話して、すぐに必要だから返してください、という方法もありますけど、言ってみましたか」

被疑者「言いましたが、押収しているからダメだ、といわれました」

弁護人「そうですか、それでは、私から書面を出して検察官に仮還付の請求をしましょう」

被疑者「請求したら、必ず返されますか?」

弁護人「何を返してほしいのか、どうして必要なのかを書いて、本件の捜査事件には関係ないので、早く返してほしい、ということを求めます」

被疑者「すぐに戻されますか」

弁護人「物によります。たとえば、お金の場合は、会社にあったお金のうち、こういう封筒に入った33万円は、取引先に渡す予定のお金だったとか、50万円は、親戚から一時的に預かっていたお金であるとか、金額の特定と理由が明確で、本件と無関係であれば、割と早く返されます。預金通帳の場合は、会社とあなたの名義の通帳は返されにくいけど、お子さんの名義の預金通帳は学校で使う費用の振込みに必要だから返してとか、奥さんの名義の通帳は、海外送金の必要があるから返してといえば返されると思うけど、ちょっと時間がかかるかもしれません」

被疑者「会社の預金通帳は、返されませんか」

弁護人「銀行取引明細は銀行からも入手できますから、通帳本体は、捜査機関でコピーをとれば返してもらえることが多いと思います。すぐに必要なら、銀行に説明をして、別の預金通帳を作って、従業員に持たせて、取引に支障を生じないようにするという方法もあります。警察が必要な証拠は、過去の取引履歴だけですから」

●カギ

被疑者「私は自宅のほかに、会社の近くに借りている部屋があって、そこに最近の着替えとかあるんで、妻に取りに行ってほしいけど、その部屋のカギも鍵束ごと押収されています。これは返ってきますか」

弁護人「そこに、事件関係の物はないの?」

被疑者「ありません。仕事が遅くなった時に泊まるだけの部屋です」

弁護人「そうしたら、そのことも私から検察官に説明をして、カギを返してほしいと言ってみましょう。罪証隠滅を疑われるといやなので、警察官が一緒にその部屋に行くとか、一旦警察官が部屋を見に行ってから返すと言われるかもしれないけど、だいじょうぶ?」

被疑者「もちろん、大丈夫です。散らかっているだけで、やましいものはないです」

●パスポート

弁護人「奥さんは、外国出身ですか」

被疑者「はい、そうです。フィリピン出身で、明るくてかわいいですよ」

弁護人「ラブラブですね。奥さんは、ビザの更新が近づいているの?」

被疑者「そうなんです。今月末が期限です。いつも頼んでいる行政書士さんに、パスポートを預けて手続をしてもらわないといけないので、返してほしいです」

弁護人「奥さんは事件と関係ないの?」

被疑者「はい、会社の仕事関係の事件ですから」

弁護人「それじゃあ、奥さんのパスポートは、早めに返してほしいということも、検察官に書面で頼んでみますね」

被疑者「お願いします」

弁護人「押収品は、押収された人に返すものだから、お金も、通帳も、鍵も、パスポートも、おそらくはあなたに返してきますよ」

被疑者「パスポートは奥さんに返してほしいんですけどねえ」

弁護人「あなたが受け取ってから、私宛に宅下げをしてくれれば、私が受け取って奥さんに渡しますよ」

被疑者「お金や通帳、カギもですか?」

弁護人「そうです。接見禁止がついたら、弁護人以外の人への物の宅下げは制限されますので、あなたが受け取ったもので、外の誰かに渡したいものは、一旦私宛に宅下げをしてもらった方が、スムーズに行きますよ」

被疑者「わかりました!」

(やがて、勾留満期が近づいたころ)

●携帯電話の還付

弁護人「こんばんは。遅くなりました」

被疑者「こんばんは! そろそろ来るころかなあと思って、待っていたんですよ」

弁護人「勾留も、あと少しで満期です。今日の取調べはどうでしたか」

被疑者「今日は、事件の話はなくて、押収された荷物のことで、なんか書類を書かされました」

弁護人「どんな書類ですか」

被疑者「還付に関する書類でした。でも携帯電話はなかったです」

弁護人「あ、携帯はね、しばらく時間がかかる場合もあります。釈放されてあとから取りに来てと言われることも多いので」

被疑者「えー、そうすると、釈放されても、取引先など顧客への連絡が携帯からは出来ないんですか」

弁護人「とりあえず一時的には不便ですけど、戻されるのに、そんなに時間はかからないと思いますよ」

被疑者「わかりました!」

弁護人「初めての逮捕、勾留は、先が見えなくて、精神的にきついですね」

被疑者「最初で最後にしたいですよ。もう、こりごりです」

弁護人「勾留満期の日に、釈放でも、『処分保留』といって、即時に不起訴にならないこともありますけど、大体は後で不起訴になるから大丈夫です

被疑者「だいたいですか。必ず不起訴にはならないのですか?」

弁護人「100%じゃない。でも、90%以上ですね」

被疑者「今回勉強になったのは、逮捕されると、いろいろ、100%じゃないことが多いってことです」

弁護人「そういえばそうですね。事件の種類により、その人により、結果が変わるために、私たちも、100%と言い切れないことがたくさんあります」

被疑者「でも、弁護士さんの話は、よくわかりました」

弁護人「じゃあ、それは100%ってことね」

被疑者「はい、そうですね!」

注/用語解説   [ + ]

(2022年01月21日公開) 


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