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執筆者:村岡美奈 監修者:藤田正隆

【第3回】 ゴーンさん再逮捕で保釈金10億円はどうなるの?


今回は、弁護士が行きつけの居酒屋にて

おかみ「いらっしゃーい、桜が咲いてきましたね~」

弁護士「まだ夜は冷えるから、熱燗にしようかな」

おかみ「はーい、今日はねえ、聞きたいことがあって待っていたの」

弁護士「なに?」

おかみ「ゴーンさんのこと」

弁護士「好きだねえ、事件ニュース。何でも聞いて」

10億円はどうするの

おかみ「保釈金10億円も払ったのに、再逮捕されたら、10億円は返ってくるんですか?」

弁護士「みんな、それ気にしてますね。結論から言えば、再逮捕されても返ってきません。保釈金が返ってくるのは、一審の判決言い渡しの後です」

おかみ「じゃあ、今度また保釈されるときには、また保釈金を払うの?」

弁護士「そのとおり。ただ、先に保釈金として支払っているお金があることは考慮されるので、いわゆる増し金として、いくらか払うって感じですね」

保釈は何のためにするの

おかみ「保釈って、なんのためにするんですか」

弁護士「家庭に帰ったり、仕事に戻ったりということもあるけど、裁判を闘うためにも保釈されていることが大切なんですよ」

おかみ「どういうこと?」

弁護士「逮捕されて、自由がきかない状態で起訴されますよね。起訴されても、それだけでは、まだ有罪と決ったわけではなくて、裁判をやって、有罪か無罪を決めるんだよね。そのときに、事件について一番分かっているのは本人、被告人になるけど、その人が自由のきかない状態だと、十分に裁判の防御活動や、被告人の積極的な立証がしにくいんだよね」

おかみ「それじゃあ、ゴーンさんは再逮捕されたら、裁判で闘いづらくなっちゃうのね」

弁護士「そういう面はあるでしょうね」

そもそも保釈金って

おかみ「保釈金って、どうやって額を決めているの」

弁護士「保釈金とは、どこかに逃げないでちゃんと裁判に出ることを確保するためのものだから、まずは、その人の資力を基準にして、その逃亡防止に意味のある金額ということかな。たとえば100万円なんていつも財布に入っているというくらい資力を持っている人なら、保釈金が100万円だと逃亡するかもしれないと裁判所が判断して、保釈金の額を上げますよね。保釈金は、正確には保釈保証金というので、逃げないのを保証するという意味があります」

おかみ「逃亡したら、保釈金はどうなるの」

弁護士「国に、取り上げられます」

おかみ「えー、じゃあ、わたしなら保証金が10万円でも逃げません」

弁護士「実際には、そうだよね。逃げる人は3億円でも逃げるし、仮に保釈金10万円でも、普通は逃げません。でも、保釈金相場として、このごろの実務としては、150万円以上となっているので、みんな工面するのが大変ですね」

おかみ「資力以外に考慮する要素ってあるの?」

弁護士「事件の内容かな。詐欺や横領といった利得犯罪事案だと、お金が絡んだ犯罪として、保釈金額が高くなる傾向があります」

おかみ「ほかには?」

弁護士「裁判をやっているのが東京で、保釈後の住所地が沖縄など遠隔地の場合も、高くなるね」

おかみ「じゃあ、ゴーンさんがフランスの自宅に帰ったら、保釈金はもっと高くなるの」

弁護士「その可能性はありますね。いままでの保釈金の最高額は、20億円ってのがあって、15億円の人もいるから、ゴーンさんは歴代3位かな。けど、ゴーンさんがフランスに住むなら、これまでの最高額を超える保釈金になってたかもね」

おかみ「保釈金を自分で用意できない時に、貸してくれるところはあるの?」

弁護士「あります。けど、『手数料』という名目のお金が結構かかるので、できれば親族や友人から借りて用意したほうがいいと思うけどね」

おかみ「10億円でも貸してくれるところがあるのかな」

弁護士「いや、貸してくれるところの上限は500万円です。大概の事件は、その範囲に入るからね。その範囲から出た分は、やっぱり自分で準備しないといけない。民間の会社と全国弁護士協同組合連合会が保釈金を貸していますが、それぞれシステムの違いやメリット・デメリットがあるので、弁護士と相談の上で、どこを使うか、検討した方がよいですね。詳しくは、ネットで『保釈金』『借りる』なんかで検索したら出てきます」

保釈中の生活の制限

おかみ「保釈中は、GPSとかつけられるの」

弁護士「普通は、そんなことされませんが、場合によったら個別の保釈条件で付くのかな。日本では聞いたことがないし、私も経験ないけど」

おかみ「旅行とかできるの」

弁護士「これも普通は、2泊3日以上の旅行や海外旅行は事前に申し出して、裁判所の許可が必要。1泊2日の国内旅行なら、事前の許可はいらないよ」

おかみ「2泊3日以上の時は、どんなことを裁判所に申し出るの」

弁護士「旅行の目的、同伴者、宿泊先などかな」

おかみ「へえー、家族旅行とかでも許可される?」

弁護士「私の経験ではそれも大丈夫。温泉に、妻、子どもや孫と旅行に行った人がいますよ」

おかみ「今回、ゴーンさんは、ツイッターでつぶやいたから逮捕されたのかな」

弁護士「それはどうかなあ。逮捕状の請求は、前々から準備していたんじゃないかと思うけどね」

逮捕状の請求

おかみ「逮捕状は誰が請求して、誰が出すの」

弁護士「一般の事件は、請求するのは警察官で、警部とか偉い人だけど、特捜事件だと、検事が請求します。逮捕状を出すのは、裁判所ね」

おかみ「じゃあ、裁判所がだめって言えば、逮捕状は出ないの」

弁護士「そのとおり。今回のゴーンさんの再逮捕は、マスコミでは検察が責められているけど、裁判所が判断した結果の再逮捕だからね。もっとそのことに着目してほしいと思うな」

保釈請求って、いつできるの

おかみ「逮捕されたら、すぐに保釈請求できるの?」

弁護士「いやいや、逮捕、勾留の後に、起訴されて初めて保釈請求ができます」

おかみ「逮捕されて何日くらいで保釈請求ができるの?」

弁護士「法律上、検察は、逮捕後最大23日以内に起訴するかどうか決めなければならないので、だいたい20〜23日くらいかな」

おかみ「ピエール瀧さんは、もっと早く出てきた気がする」

弁護士「感覚としてはそうかもしれないけど、彼も起訴後ですよ。逮捕事実を認めていると、起訴されてすぐに保釈請求が許可されることもあるし、事実を認めていないと、第1回公判まで出さないとか、いつまでも出さないとか、そういうことになってしまっていますね」

おかみ「それじゃあ、人質みたい」

弁護士「そのとおり。それを人質司法と言います」

おかみ「保釈金は、身代金みたい」

弁護士「誘拐事件で、身代金を出せば、帰してやる、というのと比べると、あまり変わらないような気もするね」

保釈は弁護人次第なのか

おかみ「保釈に話を戻して、もっと話をさかのぼると、ゴーンさんって、弁護士を替えたから、保釈が許可されたんでしょ。弁護士によって保釈が許可されたりされなかったりするの?」

弁護士「うーん、ちょっと違うんだけど、まあ、許可の理由が、新しい弁護人が敏腕弁護士だから許可された、ということでもないんですよ。新しい弁護人の保釈請求の内容、条件設定が良かったからということと、前の弁護人の時と比べて、時間が経過して、裁判の日程のめどがたってきたりしたからかな。ちょうど保釈させてもいい時期になった、ということもあると思うよ」

おかみ「へえー、いろいろ難しいのね」

弁護士「よく、あの弁護士に頼むと保釈を出してくれる、とか、あの弁護士は保釈に強い、という言い方をする人がいるけど、裁判所が保釈許可するかどうかの判断で見ているのは、誰が弁護人かということではないんです。保釈を許可してもいいタイミングかどうか、保釈の身元引受人が誰か、制限住所はどこか、保釈のための条件として、どのようなことがあるか、といったことなんです。それをどれだけ保釈請求書に盛り込めるかによって、裁判所の保釈の判断が変わるんだよね。ただゴーンさんの新弁護団の中の一人は、以前、被告人を弁護士が用意したアパートに住ませ、昼間は弁護士事務所で事務員として働くなどの条件で保釈を認めさせたことがあったんですよ。弁護士のやる気や工夫も必要ですが、こんなことまでしないと保釈がとおらない裁判実務に問題があるんだけどね」

おかみ「そうすると、誰が弁護人かで保釈の結果は変わらないってこと?」

弁護士「すくなくとも、私は、そう思います」

保釈請求の手順は

おかみ「でも、保釈請求をしてくれる弁護人と、してくれない弁護人がいるって話は聞いたことがあるけど」

弁護士「そお? 保釈請求なんて、形式が決まっているから、形式にのっとって、その人の個別事情を加えて出せばいいんですよ。私の場合、事情が複雑でなければ最短で15分程度で準備できるよ」

おかみ「そんなに早く出せるの? 添付書類とか必要ないの?」

弁護士「身元引受書と身元引受人の身分証があれば保釈請求自体は出せるよ。身元引受書は、あとで出してもいいから、先に保釈請求書だけ出して、裁判所に検討を始めてもらうのもいいですね」

おかみ「保釈するかどうかは裁判所が考えて決めるの?」

弁護士「まず、弁護人が裁判所に請求書を出す。裁判所が受け取る。その後、裁判所が検察庁に意見を聞く。検察庁から意見が裁判所に返ってくる。裁判所から弁護人に追加で補充したいことあるかどうかを聞く。弁護人はできるだけ裁判所に出向いて、裁判官と面談し、忙しくても電話で裁判官に追加で保釈の必要性を訴える。その後、裁判官が保釈するかどうか決める、という流れだね」

おかみ「結構、時間がかかりそうね」

弁護士「場合によるなあ。午前中に保釈請求して、その日のうちに許可の判断が出るときもあるけど、検察官が忙しかったり、裁判所が裁判員裁判の最中だったりすると、翌日とか、翌々日になってしまうこともあるよ」

おかみ「待っている方は、ハラハラするわ」

弁護士「ほんと、ほんと。でも、保釈許可された時は、弁護人としての仕事の中で、一番うれしい瞬間かも。思わず、やったー!ってなる」

保釈許可のあとは

おかみ「保釈が裁判所で許可されたら、捕まっている人は、すぐに外に出られるの?」

弁護士「裁判所に保釈許可決定を取りに行って、裁判所の会計で保釈金を納付します。それから1~2時間で、警察署、若しくは拘置所から出てくるね」

おかみ「それで、だいたい出てくる時間が分かるから、ゴーンさんも、拘置所前で、マスコミに待ちかまえられていたのね」

弁護士「残念ながらマスコミをまくのに失敗したけど、弁護士も苦労したんだろうね」

おかみ「うちみたいな店は『いつもニコニコ現金払い』がいいけど、保釈金って、このキャッシュレス時代に、裁判所まで現金を持参するの? 何百万円も? 10億円も?」

弁護士「現金のこともあるし、最近は電子納付という方法を取ることもあるね。保釈金額が300万円を超えると、裁判所ではなくて、日銀に納付することになります」

おかみ「日銀って、お金を作っているとこね。そんな仕事もしているんだ」

弁護士「そういえば、さっき頼んだ熱燗は? ちんちんになってない?」

おかみ「あー、ぐつぐつ煮立ってる! すみません!!」


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