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執筆者:村岡美奈 監修者:藤田正隆

【第6回】コロナと刑事弁護


●拘置所の待合室にて

後輩弁護士「あ!先輩!お久しぶりです。お忙しそうですね!」

先輩弁護士「コロナ感染拡大でも、警察は時短も休業もしてくれないから。逮捕される人は、いなくならないね」

後輩弁護士「でも、警察署留置でのクラスター発生って、ありましたね」

先輩弁護士「クラスターは、渋谷署の留置が有名だけど、大阪でもN警察署で警察官21人クラスターが発生して、100人以上の警察官が自宅待機したり、K警察署の留置管理課の警察官が感染したという話も聞いたよ 1)

後輩弁護士「私の依頼者が、その直前にK警察署から拘置所に移されて、セーフって感じでした。でも、そんなに大勢の警察官が自宅待機すると、その地域の警察の業務、回らないでしょうね」

●勾留関係・公判期日への影響

後輩弁護士「でも、コロナの影響って、刑事弁護にもありますよね」

先輩弁護士「たとえば?」

後輩弁護士「私の友人がコロナの感染の危険を理由に、勾留に対する準抗告をしたら通ったって聞きました」

先輩弁護士「あーそういうのあるねえ。保釈請求でも、公判が進んでいないのに、拘置所でのコロナ感染拡大を理由に、なぜか許可されたりしたって聞くね」

後輩弁護士「未決算入も増えているようですねえ」

先輩弁護士「去年の4月、5月は、公判の進行が一度ストップした事件もあったから、普通より未決算入は多くもらえないと、かわいそう。コロナで判決期日が延びたとしても、それは被告人のせいじゃないからね」

後輩弁護士「きのう、公判期日に行ったら、刑事裁判官の家族が感染したことで、その裁判官が濃厚接触者になってしまい、期日取消しと言われましたよ」

先輩弁護士「それで期日が延びると、早く公判が進んで保釈されたい被告人にとっては不利益だね。すぐに、それを理由に保釈請求や勾留取消請求をしないといけないね」

後輩弁護士「やってみます。ただ、無理して公判開いて、裁判所でクラスター発生なんて、一番避けたいですよね」

先輩弁護士「F地裁の事案で、公判期日にわざわざ東京から情状証人にきた被告人の友人と公判前日に、その人の宿泊先のホテルで打ち合わせしたら、公判期日後に友人がコロナ陽性と判り、大変だったという話もあるよ」

後輩弁護士「弁護人は、感染しなかったんですか」

先輩弁護士「しなかったらしい。マスクなしで至近距離で1時間近く打ち合わせしたらしいけど、まあ幸運だったんでしょう」

後輩弁護士「こわいです!」

先輩弁護士「裁判員が集まりにくいという話も聞くね」

後輩弁護士「裁判員候補者になって呼び出された市民の方も不安でしょうから。裁判員しているうちに感染したら、裁判所としてはどうするんだろう」

先輩弁護士「昨日が選任手続だった裁判員裁判事件では、40人呼び出して、30人しか来なかった。辞退を認めた結果、19人しか残らなくて。そんだけ人数が少ないと、理由なし不選任が言いにくい感じになるね。ただ、必要なときは遠慮しないで言わないと被告人の利益にならないね。忖度していたら、刑事弁護人はつとまらないよ」

後輩弁護士「そういう影響もあるんですね」

●接見への影響

先輩弁護士「接見への影響もあるなあ」

後輩弁護士「警察署で微熱がある弁護士の接見を断るケースが問題になっていると、ほかの弁護士から聞きました」

先輩弁護士「それって、『接見妨害?』って言いにくいねえ。でも、あとから同じ接見室を使うほかの弁護士にとっては、感染したおそれがある人は、接見しないでほしい気もするけど」

後輩弁護士「接見室って、前の弁護士のにおいがこもっていることが多いし、換気が悪いですよね。私は、ある警察署で、抗ウイルススプレーを持参して、マスクの上にもフェイスガードもして、接見室にスプレー吹きかけまくって、びしょびしょにしている弁護士を見ました。気合入ってますよね!」

先輩弁護士「抗ウイルススプレーでべたべたの接見室ってのも、メモやファイルが広げられなくて、いやだな」

後輩弁護士「そういえば、拘置所で、一度お医者さんが着ているような防護服を着て接見室から出てきた弁護士を見たけどあれは何だったのかな」

先輩弁護士「あー、あれは、拘置所の未決の人のお世話をしている受刑者(雑役さん)がコロナに感染して、その雑役さんが配膳とかしていた未決の人が濃厚接触者になって、その未決担当の弁護人が接見するときに、防護服を着せられていたみたいだよ」

後輩弁護士「えー、それは弁護士も気の毒。しかし、こんなに感染拡大しても、感染した弁護士って、聞かないですね」

先輩弁護士「そうでもないよ。知っている弁護士が感染して、事務所全員PCR検査を受けたというケースを知っているよ」

後輩弁護士「この弁護士会で、ですか」

先輩弁護士「そうそう。これだけ感染者が増えてくると、市中感染が広がっているようで、どこで感染してもおかしくないからね」

後輩弁護士「弁護士は依頼者と直接会って打ち合わせする必要があるので、感染のリスクは大きいと思うのですが、この点、弁護士会は何か手を打っているのかな?」

先輩弁護士「警視庁は、任意だけど、逮捕者全員のPCR検査を実施するということが報道2)されていましたね。弁護士の方は、会議室や面会室にアクリル板を設置している事務所も増えているし、入り口で体温検査やアルコール消毒をお願いしているところもありますね」

後輩弁護士「逮捕直後の被疑者が、たまたま微熱があったりした場合には、即時の接見は、やはり制限されるのかな」

先輩弁護士「このまえ逮捕された依頼者は、微熱があって、PCR検査を受けて、結果待ちの間は、大阪府警本部の留置に居させられたみたい。居場所を探して電話して、即時に接見したいと言ったら、PCRの結果が出るまで、3~4時間だから、その間は、接見は控えた方がいいのではないかと思います、と留置管理の人から言われました」

後輩弁護士「それもまた、接見妨害と言いにくいですね。しかし3~4時間で結果が出るなんて、早いですね」

先輩弁護士「そうだね。なんか特別な方法で結果を出しているのかな。結果的には、陰性だったので、本部から他の警察署の留置に移送することになって、遠くの警察署に行く前に、府警本部で、すべりこんで接見できたよ」

後輩弁護士「なんかコロナの疑いがあると、検察庁の勾留請求のための弁録も、別室でビデオリンクみたいにしてやっているらしいですね」

先輩弁護士「去年の4月に逮捕された人の公判準備で、検事調べのときの録音・録画ビデオをみたら、そんなのがあった。けど、直接会って話を聞かなくても、勾留の必要性とか検事は判断できるのかなって疑問だな。表情とか音声とか、やっぱりわかりにくいしね」

●裁判員裁判のマスク

先輩弁護士「裁判員裁判の公判でのマスク着用で、東京地裁で、目だけが出る状態になるマスクの装着によって、被告人や証人などの口元の動きが見えなくなるのみならず、表情全体の把握が極めて困難になると、証人尋問・被告人質問によって、裁判官・裁判員が適切な信用性判断をし、事実認定を行うことは不可能だと、申し入れた弁護人がいましたね3)

後輩弁護士「弁護人としては、弁論している弁護人の熱意や、被告人の真剣な表情をマスクなしで見てほしいけど、最近フェイスシールドじゃダメって言われますね」

先輩弁護士「そうそう、2020年の夏くらいまではフェイスシールドでもよかったのに、昨年の秋以降は、裁判所はもうマスク絶対主義みたいになったなあ」

後輩弁護士「尋問の時は何とか乗り切れるけど、弁論のとき、マスクだと酸欠になって苦しいですよ。マスクの下を開けて、はーはー息継ぎしてます」

先輩弁護士「マスクじゃないと、裁判員が嫌がるって話も聞くけど」

後輩弁護士「裁判員裁判では1時間に1度は換気のために休憩がはいるし、裁判員と証言台は距離もあるから、フェイスシールドでも大丈夫と思いますけどね」

先輩弁護士「コロナの影響って言えば、医師の証人尋問が決まっていたけど、その医師の勤務先がコロナ拠点病院になってしまって、証人として呼ぶことができなくなったので、裁判所に期日の延期を申し出たのですが、証人採用を取り消されてしまったことがありました。これは訴訟手続の法令違反で上訴審で争うことにしています」

後輩弁護士「それはタイミング悪くて気の毒ですね。やむを得ない事由に当たるか微妙だけど、高裁で呼ぶしかないでしょうね」

●外国人事件

後輩弁護士「コロナで、入国制限がかかって、来日する人が減って、外国人の事件は減っているんですかね」

先輩弁護士「どうだろう。留学生がバイトできなくなって食べるのに困って窃盗とか、そんな気の毒なケースは、コロナ前と比べて増えているかもね」

後輩弁護士「強制送還とか、どうなっているんだろう」

先輩弁護士「ビザが切れていれば、執行猶予になっても、日本に適法に滞在できないから、そのまま裁判所から入国管理局に直行だね。しかし、入管に行っても、母国への入国が制限されていると、帰国できないままになるね」

後輩弁護士「まず、飛行機が飛んでいない、ということですもんね。入管の収容人数にも限りがあるし、母国の入国制限の状況を見て、帰ってもらうしかないんでしょうね」

先輩弁護士「そういえば、この前、起訴されないだろうと思っていた外国人事件で起訴されて、ビザの更新期限が近接しているケースがあった」

後輩弁護士「どうしたんですか」

先輩弁護士「起訴後の接見禁止がついていたので、いつもその依頼者がビザの更新を頼んでいるという行政書士と会ってもらうために、行政書士との接見等禁止決定一部解除申請したよ」

後輩弁護士「とおりましたか?」

先輩弁護士「いけた、いけた。だって、事件に関係がなくて、特別の仕事上の用務で面会する行政書士がダメなんてありえないでしょう。罪証隠滅に関係ないし」

後輩弁護士「刑事被告人でも、ビザ更新は認められたんですか」

先輩弁護士「もともとの就労ビザは、いろいろ手続のための書類がそろわなくて、更新申請できなかったけど、その行政書士が工夫してくれて、3か月の短期ビザで更新してくれた。裁判中は、この短期ビザの更新を繰り返すことでいけるらしい」

後輩弁護士「元日産社長のゴーンさんみたいに、外国人だからって大金掛けて逃亡する人なんて稀有な例なんだから、もっと外国人には、保釈を増やしてほしいですよね。通訳さんを連れていかないと接見で話ができない人が多いという負担が弁護人にはあるし、特に外国人は、外国である日本での勾留で、制度もわからなくて、かなり心細い思いをしていると思います」

先輩弁護士「言葉の壁は大きいよね。ただ、最近は、ポケトークという簡易な翻訳ツールがあるので、これの普及で、日常会話には不自由しないという話を聞くね。ま、しかし勾留は、外国人でも、日本人でも、経験者でも初心者でも、つらいよね。特に接見禁止がつけば、なお一層つらい」

●その他接見等禁止決定一部解除の例

後輩弁護士「コロナならではの一部解除の事例とか、ありますか」

先輩弁護士「この前やったのが、社会福祉協議会に、個人事業主としてコロナの緊急融資の申し込みをしている途中で逮捕された依頼者の接見等禁止決定の一部解除、やったよ」

後輩弁護士「社会福祉協議会の人ですか? 担当者の名前がわからなくてもできますか」

先輩弁護士「できたよ。被告人の名前と住所、生年月日を特定して、いつ頃の融資申し込みで、こんな業種で、やり取りをしていた担当者、こんな特定で解除が認められた」

後輩弁護士「やってみるもんですね」

●事件発生から逮捕まで時間がかかる問題

先輩弁護士「最近逮捕されたケースでは、去年の1月とか3月とかの事件が続いたなあ。大した重大事件でもないケースだけど」

後輩弁護士「私もありました。本当なら、去年の4月くらいに逮捕されるはずのものが、コロナで、緊急事案でもないってことで、先延ばしにされて、ようやく10か月後に逮捕、みたいなパターンですね」

先輩弁護士「正直言って、事件発生から時間がたてばたつほど、記憶も薄れるし、こちらに有利な証拠の収集も困難になるから困るんだよね」

後輩弁護士「そうですよね。防犯カメラだってドライブレコーダーだって、記録の保存期間ありますからね」

先輩弁護士「あと、コロナの影響もあって、事件発生当時とは、被疑者が勤務している会社やバイト先が変わったりして、生活状況、勤務状況についての立証材料も集められなくなったりして」

後輩弁護士「コロナだけが原因でもないですけど、時間がたってから立件される事件は刑事弁護人としても、やりにくいですね」

先輩弁護士「ところで、こんだけしゃべっているのに、まだ接見の順番が来ないなんて、今日は混んでいるんだなあ。君はどれくらい待っているの?」

後輩弁護士「そういえば、おしゃべりに夢中で気づきませんでしたけど、あ、申込するの忘れてた!」

先輩弁護士「あ、私もまだ、出してなかった! こりゃ、いつまでたっても、接見の順番来ないわけだわ」

注/用語解説   [ + ]

(2021年06月16日公開) 


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