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連載 裁判所書記官が見た刑事弁護

裁判所書記官が見た刑事法廷 第5回

公判調書

中村圭一 元裁判所書記官

 刑事の公判に立ち会った書記官は、「公判調書」を作成することになります。この公判調書については、刑事訴訟法52条で、「公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによってこれを証明することができる。」と規定されており、公判調書にはある意味絶大な効力が認められています。これを覆すには、当事者が、公判調書の記載に対する異議申立てをするしかありません(刑事訴訟法51条)。

 このような背景もあるため、裁判所職員総合研修所での書記官になるための研修では、調書の記載方法について、かなり力を入れて教えられています。主に、同研修所が監修している『公判手続と調書講義案』(司法協会)と『刑事事件における証拠等関係カードの記載に関する実証的研究』(司法協会)で調書の記載内容について学び、書記官はこれらの本を参照しながら公判調書を作成しています。弁護人であれば、できれば所持して時折参照したい本でしょう。

 しかし、事件進行中に、弁護人や検察官が、作成した調書を閲覧ないし謄写することがほとんどなかったこともあったので、書記官がかなりの労力を割いて作成しているにも関わらず、どの程度調書が活用されているのかについて、若干疑問を感じるようなところもありました。実際のところ、公判調書は、当事者のためというよりは、裁判所自らの備忘や上訴審で振り返るための意味合いが強いのが現状なのではないでしょうか。

 刑事裁判も、民事裁判と同様にIT化されると、場合によっては、調書の記載方法も大きく変わってくることと思います。電子化され、さらにポイントをかなり絞ったような記載方法になることも考えられますが、あまりに簡略化されると、書記官の存在意義にも関わってくることにもなりかねません(時代の流れとともに速記官が必要とされなくなってきたのと同じような流れにもなりかねません)。

 このように、大型事件や長期間続く事件以外では、それほど公判調書は重要視されてはいません。しかし、裁判が特に問題なく進んでいる場合はいいですが、何か手続等に違和感を覚えた際などには、従前の公判調書を閲覧するなり謄写するなりして確認してみると、事件の進行等について、今後の突破口に何か気付くこともあるかもしれません。

(2022年08月24日公開) 


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