連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第6回

オンライン法廷

指宿信 成城大学教授


1 はじめに

 読者の皆さんもメタバース(metaverse)という言葉を聞かれたことがあると思います。メタ(meta)とは「超越した」という意味ですが、それとユニバース(宇宙)のバース(verse)を掛け合わせた造語です。メタバースは三次元の仮想空間における様々なサービスが受けられるというのが売り文句です。既にコミュニティが作られたり、サービスが始まったりしているのはご存知の通りです。こうした技術が発展すれば、法廷における諸手続を仮想空間で実施する時代が到来するのも間近ではないかと感じられることでしょう。

 本稿では伝統的な物理的施設における裁判手続をヴァーチャル空間に移行した裁判形式を「オンライン法廷」と呼んでいます。前回取り上げた「遠隔証言」について刑事裁判の部分的なヴァーチャル化の出現と捉えるならば、証人のみならず、裁判の当事者が遠隔から参加するオンライン法廷がその先に想定されるのも当然です。

 今回の刑事手続のIT化をめぐる法制審議会での諮問事項にも、「捜査・公判等の手続を映像・音声の送受信によって行う」、すなわちオンライン法廷の導入が検討項目に挙げられています。IT化の先行する民事訴訟では、口頭弁論のオンライン化が2023年度中には始まる予定です。完全なヴァーチャル法廷ではないにしても部分的なオンライン法廷がこの国でも始まるのです。

 そこで今回は、世界各国で実施されているオンライン法廷に関する経験に学びながら、刑事裁判における可能性とその法的な課題を掘り下げていくことにしましょう。

2 パンデミック下でのオンライン法廷

 2020年春以降、COVID-19の感染……

(2022年11月17日公開)


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