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連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第6回

オンライン法廷

指宿信 成城大学教授

1 はじめに

 読者の皆さんもメタバース(metaverse)という言葉を聞かれたことがあると思います。メタ(meta)とは「超越した」という意味ですが、それとユニバース(宇宙)のバース(verse)を掛け合わせた造語です。メタバースは三次元の仮想空間における様々なサービスが受けられるというのが売り文句です。既にコミュニティが作られたり、サービスが始まったりしているのはご存知の通りです。こうした技術が発展すれば、法廷における諸手続を仮想空間で実施する時代が到来するのも間近ではないかと感じられることでしょう。

 本稿では伝統的な物理的施設における裁判手続をヴァーチャル空間に移行した裁判形式を「オンライン法廷」と呼んでいます。前回取り上げた「遠隔証言」について刑事裁判の部分的なヴァーチャル化の出現と捉えるならば、証人のみならず、裁判の当事者が遠隔から参加するオンライン法廷がその先に想定されるのも当然です。

 今回の刑事手続のIT化をめぐる法制審議会での諮問事項にも、「捜査・公判等の手続を映像・音声の送受信によって行う」、すなわちオンライン法廷の導入が検討項目に挙げられています。IT化の先行する民事訴訟では、口頭弁論のオンライン化が2023年度中には始まる予定です。完全なヴァーチャル法廷ではないにしても部分的なオンライン法廷がこの国でも始まるのです。

 そこで今回は、世界各国で実施されているオンライン法廷に関する経験に学びながら、刑事裁判における可能性とその法的な課題を掘り下げていくことにしましょう。

2 パンデミック下でのオンライン法廷

 2020年春以降、COVID-19の感染を予防するため、法廷手続を部分的にオンラインに移行させる試みが各地で広がりました。法廷の審理をオンラインで実施する取組みはさほど多くありませんでしたが、米国テキサス州では2020年5月に民事陪審裁判がzoomで行なわれました。続いて8月には刑事陪審裁判でもzoom法廷が実現しています。こうした裁判を実施するにあたって接続環境を均一にするため、予め陪審員にネットへの接続機能を持ったiPadが貸し出されたといいます1)

テキサス州トラビス郡でのzoomによる民事陪審の模様。候補者の宣誓中の場面。上段は裁判長(左端)ほか裁判所関係者。

3 海外での実験調査研究

 こうしたパンデミック対応としての裁判のオンライン化は、世界各地で功罪や課題を洗い出す大掛かりなプロジェクトを生み出すことにも繋がりました。たとえば、イギリスで2020年に試験的に実施された調査研究によると2) 、オンライン法廷(陪審)の肯定的評価として以下の点が確認されています。

 ① 二つの模擬裁判で技術は非常に上手く作動した。
 ② 裁判官も弁護人もその仕事は大変効果的であった。
 ③ 陪審員も使われている技術が快適に見えた。部分的には物理的な法廷以上にストレスを和らげた。
 ④ 陪審員は物理的な法廷で生じてしまう視線の邪魔が起きず、常にクリアな視界が確保されていた。
 ⑤ 被告人も通常の法廷に備わっている「被告人の籠(法廷の横か後ろに設けられている)」に入れられるよりも尊厳が守られた。
 ⑥ 別に設けられた弁護人とのヴァーチャルな会議室も立合いのない相談を可能にし、通常の「被告人の籠」よりも弁護人とずっとコミュニケーションを取りやすかった。
 ⑦ これまで指摘されてきた技術的な課題が克服され、プラットフォームとして改善されている。

 他方、同調査は以下のような課題が残ることも指摘しています。

 ① 初回の法廷では、通常の物理的な裁判以上に陪審員や証人に対する丁寧な説明が必要不可欠であること。
 ② インターネットでアクセスする場合の信頼性の確保が必要であること。音声や動画が途切れてしまえば公正な裁判の保障ができなくなる。
 ③ 家庭からアクセスする場合にも、接続すれば法廷の一部となるが、参加者の背後の家庭内の映像が映り込むことで見る側の注意が散漫になったりしてしまう。
 ④ 全ての参加者が適切な振る舞いをしていたわけではなかった。特に初回の法廷の場合がそうだった。ガイダンスや説明文書の必要がある。
 ⑤ ヴァーチャルな法廷空間であっても公共空間であるという認識を全員が持つ必要がある。そのため、法律家の着衣や衣装が重要だし、陪審員が法廷に入る前の待機室も重要になる。また、コンピュータの前であっても言葉遣いや話し方を公共空間にふさわしいものにしておく必要がある。
 ⑥ 技術的な能力が多くの陪審員に備わっていた一方で、こうしたプラットフォームに馴染めない、あるいはストレスを感じる市民も少数ではあるが存在する。
 ⑦ 陪審員が法廷に参加する場合には家族や同居人がいない部屋を使い、法廷アクセス以外の目的でインターネットを使用すべきではない。
 ⑧ オンライン裁判は物理的な裁判と同様、ライブストリーム方式で一般市民も“傍聴”可能とすべきである。

 また、オンラインで陪審裁判を実施するにあたって重要な教訓として次の点が指摘されました。

 ① 十分な技術的なバックアップが裁判所に備わっていること。
 ② 公判手続に集中しなければならない裁判官や書記官にオペレーションを委ねることは回避すべきで、技術チームがスタンバイしておくこと。
 ③ 全ての参加者がアクセスするに当たって適切なハードウェアとインターネット環境が備わっていることを事前に確認、評価しておくこと。
 ④ 全ての参加者が、実際の裁判の開始前に研修を受けることが望まれる。
 ⑤ 法律家の弁論やプレゼンテーションは、オンライン法廷に特化したカタチで準備されるべきである。通常の物理的な法廷と大きな違いがあることを理解しなければならない。
 ⑥ 全ての参加者に対して、カメラに映る背景がプレーンになるよう指示すべきである。
 ⑦ ヴァーチャルな法廷に入廷するプロセスを重視し、法廷が公共空間で厳粛なものであることを体感できるように工夫すべきである。
 ⑧ 従前の物理的な構造物によって実現、確保されていた様々な価値や利益が損なわれないよう最善の努力がなされるべきである。
 ⑨ オンライン法廷では、物理的な法廷の場合以上に、陪審員には頻繁に休憩時間を提供すべきである。
 ⑩ 障害者が陪審員としてオンライン法廷に参加しやすいよう、様々な社会内のグループから意見を聴取したり専門家を招いたりして改善を図るべきである。

 心理学的な実験ではないものの、実際の模擬裁判を実施して得られたこれらの経験知は、オンライン法廷を部分的にではあれ導入していく場合に必要な手当が何であるかを明らかにしてくれています。

4 ススキンドの予言

 こうしたオンライン法廷の出現によって伝統的な裁判が守ってきた様々な価値が失われることへの懸念が示されるのは当然でしょう。提供可能な技術と実際に法廷をオンラインに移行する際に必要と想定される技術との乖離が大きい場合は、疑念が大きくなります。

 こうした懸念や疑念に対して、もっと未来に目を向けるべきだと説くのはリチャード・ススキンドです3) 。ススキンドはイングランド・ウェールズの高等法院主席裁判官ITアドバイザーを務め、長く司法のIT化や法律家のIT利用を説いてきました。司法IT化の“グル(教祖)”などとも呼ばれています。パンデミック直前に出版された著作が『オンライン法廷と司法の未来』というのですから、教授の近未来を見通す洞察力の鋭さに改めて感心せざるを得ません。

 ススキンドはその近著の中で、オンライン(ヴァーチャル)法廷に躊躇を示す法律家に対して次のように説いて長期的なスパンで考えるよう促しています。

 「実態感覚を備えたテレプレゼンスの技術を用いれば、参加者は実際、彼らが一つの場所に集まっているかのように感じることができる。将来的には、3Dで提供される仮想法廷が登場することも容易に想像できるだろう。やがて裁判所はある種のヴァーチャルリアリティで開かれるかもしれない。
 ビデオ技術を使い、それに失望してきた法律家や裁判官たちは、そうしたことを可能にするような急速に発展する技術を心に留めておくべきだ。将来のこうしたシステムの可能性について現状の技術に基づいて拒否するような、技術的に近視眼になることは危険である。」

 そして、近い将来「法廷サービスは物理的な法廷とヴァーチャルヒアリング、そしてオンライン法廷との融合物になる」と説きます。そうすれば、法廷手続をおこなう場所が物理的空間かオンライン上かの二択で検討することも不要になると予言しています。すなわち、「法廷サービスがオンラインと従来型の法廷活動のシームレスな混合物となったとき、法廷の利用者はそのサービスに“オンライン”というかたちに特段こだわる感覚はなくなるだろう」というのです。

Richard Susskind, Online Courts and the Future of Justice, 2019 (Oxford University Press).

5 効果的な弁護を受ける権利の保障

 このように、オンライン法廷の未来について積極的で展望的な姿勢が示されている一方で、刑事弁護との関わりでは、物理的に被告人と弁護人が同席しないような遠隔(オンライン)環境で果たして効果的な弁護を保障できるか、という懸念があります。

 既に日米両国ではビデオリンク方式による証人尋問(つまり証人の遠隔参加)について反対尋問権の侵害は起きていないという見解が最高裁判所(平成17年4月14日判決)から示されています。しかしながら、効果的な弁護の保障という観点から、オンラインで行われる弁護人の弁護活動について検討されたケースは米国の最高裁でも見当たりません。

 この問題を扱った最近の米国のローレビュー論文では、オンラインでの参加形態を次のように区分し、被告人弁護人がオンラインで参加する場合の特徴を分析した上で、効果的な弁護の保障について疑問があると指摘されています4)

Valchevによる被告人・弁護人のオンライン参加形態区分

 この分類に従いますと、タイプIやタイプⅡでは証人と被告人が在廷しているため証人対質権は保障されていることになります。けれども、タイプⅡでは弁護人が遠隔参加となっているので効果的な弁護を受ける権利が問題となります。さらに、タイプⅢでは被告人と弁護人が別の場所からリモートで参加することになるので、証人対質権の保障が問われることに加えて効果的な弁護を受ける権利が損なわれてしまうおそれが大きいといえるでしょう。とりわけ被告人と弁護人の間の秘密交通をどのように確保できるかは重要な課題といえます。タイプⅣでは被告人と弁護人が同一場所からリモートで参加しているため、効果的な弁護を受ける権利については担保されているように見えますが、やはり証人対質権の保障が問題となります。

 2012年、米国最高裁は、弁護人が電話での遠隔参加をおこなったウィスコンシン州の裁判について弁護人依頼権の保障が争われたケースで、電話参加によって弁護が貧しくなる可能性は認めたものの、本件では「弁護人が完全に物理的に法廷に存在しなかったとか被告人を援助できなかったわけではない」として被告人の主張を退けました5)。これはタイプⅡの事案です。米国最高裁はまだタイプⅢ、タイプⅣについて判断を示したことはありませんが、タイプⅡですら手放しで憲法上認められたわけではありません。この分類をした研究者もタイプⅢが最も危険なオンライン法廷の方法であると指摘しています。こうなるとススキンドの楽観的な見通しとは離れて、米国でオンライン法廷をそのまま全面的に展開することには法的に大きな壁があるように思われます。

6 おわりに

 以上、オンライン法廷の導入に関わって諸外国の経験や研究を紹介しながら検討してきました。容易な導入には課題が多いことが理解できるでしょう。

 最後に付け加えたいのは「裁判の公開」とオンライン法廷との関係です。つまり、参加者をオンライン上で裁判手続に参加させるという「閉じた」関係者向けの議論だけでなく、裁判手続をウェブ上で公開するという「開かれた」法廷のあり方について検討すべきだということです。

 既に技術的には裁判のライブ配信やオンデマンド配信を実施ことは容易です。多くの国で動画や音声による法廷の「中継」が実施されているのはご承知のとおりです。合衆国最高裁法廷弁論のオンデマンド音声配信サービスであるOyezプロジェクト(https://www.oyez.org/)は有名ですし、英国最高裁判所も従前からYouTubeで法廷手続を配信しており、パンデミック下ではzoomに移行した手続が配信されています(https://www.youtube.com/user/uksupremecourt)。ニュース映像で見られるように、米国各州では以前から一審の裁判手続がテレビ中継されてきており、こんにちではYouTubeでライブ中継されることも多くなっています6)

 お隣の韓国では、制度上中継が可能となっています7)。まだ日常的に運用されていないようですが、筆者の入手した情報によれば、2023年には試験的にライブ配信の実験を実施するようです。中国でも裁判公開網(http://tingshen.court.gov.cn/)というサイトにアクセスすると全国の裁判の中継ないし録画を閲覧できるようになっています8)。日本が東アジアの中でも“後進国”であることがわかるでしょう。

中国最高人民法院の裁判オンデマンド配信

 こうした先行例から見ても、オンライン法廷を傍聴人に開かれた形とするオンライン中継・配信の方がずっと導入可能性が高いことがわかります。最近は日本でも、裁判のオンライン(ウェブ)配信を取り上げる記事がメディアに出ています9)。手始めとしては、プライバシー等の問題が生じにくい法律審である最高裁判所の法廷の「中継」「配信」を導入することが早道でしょう。日本では最高裁判所の裁判官を国民が審査するというのですから、制度的にも合理性は高いと言えます10)

 裁判や司法のIT化の議論を進める際には、第一に司法関係機関の業務の効率性が、第二に裁判手続参加者の利便性が、そして第三に国民全般にとっての利益や便益が、目標とされなければなりません。わが国での議論を見ていると、この三番目の視点が抜け落ちていることが多いように思われます。法廷のウェブ中継や動画配信はこの三番目の目標を大いに前進させることとなるはずです。今回の法制審議会でも「公判審理の傍聴」をオンラインで実施することが検討項目とされています。「身近な司法」というキャッチフレーズがよく聞かれますが、裁判の中継・配信こそ、そうした目標を実現する最適の方法ではないでしょうか。

【次回予告】 「裁判情報の公開」について取り上げます。

注/用語解説   [ + ]

(2022年11月17日公開) 


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