連載 和歌山カレー事件

和歌山カレー事件
刑事裁判のヒ素鑑定の誤りを見抜いた民事裁判
第3回

林真須美頭髪48ミリに局在する ヒ素検出に対する不正な判決と その連鎖(上)

河合潤 京都大学名誉教授

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1 前回のまとめと補足

 複数の読者から,連載第1回(上・下)はわかりやすかったが,それに比べて連載第2回(上・下)は,内容が難しいというコメントをもらった.そこで,今回の連載第3回は,前回のまとめと補足から始めたい.

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 林真須美頭髪の切断端から48~52ミリメートルの区間に(以下「48ミリ」と呼ぶ)亜ヒ酸の外部付着を結論した聖マリアンナ医科大学山内博助教授(当時)の鑑定書(甲63)は,山内教授が「自ら測定を行ったものではない」「その正確性に疑問があるというべきである」「どの程度確立しているかについて不明確な点も残る」と民事裁判田口判決(2022)は判示した.

 この「48ミリ」の位置にヒ素を検出(1998.12.16)したのは,東京理科大学中井泉教授だった.しかし中井教授は「砒素の場所に元素のピークが鉛のピークと重なるんですね,砒素のKα線と鉛のL線がですね.」(p.38)と確定第1審43回公判(2000.10.4)で証言した.

 ヒ素と鉛のX線ピークは,スペクトルの10.5keVの場所で偶然に重なる.光やX線などの電磁波を成分に分解したグラフをスペクトルという.太陽光のスペクトルが虹の7色に分解するように,ヒ素と鉛が発するX線は偶然に10.5keVという同じ成分が最強だ.可視光なら違う物質が同じ色に見えることに相当する.X線では珍しいから,鉛とヒ素の組み合わせは,専門家は皆よく知っている.シンクロトロン放射光施設では,X線を遮蔽するために大量の鉛が使われている.鉛に囲まれた中に置いた1本の林頭髪に付着……

(2023年06月07日公開)


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