1 はじめに
指紋が合致した場合に、検察官が証拠として提出してくるのは、必ずしも「鑑定書」とは限りません。合致を告げる書面にも実は複数の種類があり、その中身と証拠価値は大きく異なります。今回は、法廷に現れるその書類の正体と、弁護人として必ず確認すべきことを整理します。

2 「合致あり」の通知は、どこから届くのか
図1の⑪において、遺留指掌紋がコンピューター照合にかけられ、被疑者指掌紋との間で「該当あり」と判断されると、その結果はシステムを通じて警察本部鑑識課長に通知されます(⑬―1)。そして、警察本部鑑識課長から所轄警察署長へと結果が伝えられ(⑬―2)、はじめて公に捜査記録として「合致」との結論が与えられます。
この場合、以下に示す3つの様式のいずれかにおいて書類を作成し、警察本部鑑識課長から所轄警察署長に対して報告が行われます。もっとも、どの様式での報告がなされるかは、各事件ごとに警察本部鑑識課で決定されますが、その基準は、各警察本部において設けられているものと思われます。
3 3つの様式——似て非なる「合致」のかたち
警察実務において用いられる合致関係の書類は、次の3種類です。
(甲)鑑定書
(乙)現場指掌紋確認(合致)報告書
(丙)現場指掌紋確認(合致)通知書
※『(甲)』『(乙)』『(丙)』は、それぞれ「◯+甲」「◯+乙」「◯+丙」が正しい表記となります(以下同)。
なお、この3種類の書類についても、各警察本部で定められる書類のため、全国的に書類の様式および呼称は画一的なものではありません。次に、各書類について、それぞれ解説をします。
これら(甲)、(乙)、(丙)の書類を作成する場合、鑑定資料[1]は遺留指掌紋、対照資料[2]は遺留指紋に合致した被疑者指掌紋となります。
(甲) は、表題に「鑑定書」と掲げられた書面です。この書類には、どのような過程で合致に至ったのかという鑑定経過が詳細に記載され、合致特徴点を図示した作図写真[3]が添付されます。また、(甲)は鑑定嘱託書[4]に基づいて作成される正式な鑑定文書という位置づけになります。
(乙)は、「現場指掌紋確認(合致)報告書」です。実務上の内容は、(甲)とほぼ同一とされています。一方、後述する(丙)に比べれば、格段に中身のある資料です。
(丙)は、「現場指掌紋確認(合致)通知書」です。これは、遺留指掌紋と被疑者指掌紋とが合致したという結論のみを簡潔に通知するための書類で、鑑定経過や比較の詳細は記載されません。事件数が多い場合や、自白事件などでは、事務負担を軽減する目的から、この様式が用いられることが少なくありません。
したがって、刑事裁判において、検察側から証拠資料として指紋資料が提出された場合、その詳細な内容を確認したり、正誤判断を別途執り行うには、鑑定経過の記載があり、加えて合致した指掌紋の作図写真が掲載されている資料が必要となります。そのため、(甲)または(乙)の入手が求められます。
以下に、(甲)、(乙)、(丙)の書式のサンプルを表示します。





注/用語解説 [ + ]
(2026年05月14日公開)
