〈再審法改正〉「国民の知る権利を損なう」と開示証拠の目的外使用禁止に反対相次ぐ/日弁連がシンポ

小石勝朗 ライター


パネリストから目的外使用の禁止規定を危惧する声が相次いだ(2026年5月8日、東京・霞が関の弁護士会館、撮影/小石勝朗)

 再審(裁判のやり直し)法制の見直しをめぐり、検察が開示する証拠の目的外使用禁止をテーマにしたシンポジウムが5月8日、東京都内で開かれた。目的外使用の禁止規定は法制審議会が答申した再審法改正の要綱に入っており、制度化に反対の立場を取る日本弁護士連合会(日弁連)が主催した。再審事件の弁護士や支援者、ジャーナリスト、研究者、犯罪被害者が、それぞれの立場から禁止規定の導入に反対の声を上げた。

弁護活動を萎縮させ冤罪被害者の救済が困難に

 法制審が答申した要綱では、再審請求人と弁護人に対し、検察が開示した証拠を再審請求審・再審公判やその準備に使う以外の目的で他人に交付・提示したりインターネット上に公開したりすることを禁止し、違反した場合、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金を科す。法務省はこの規定を今国会に提出予定の刑事訴訟法改正案に盛り込む方針だ。

 同様の規定はすでに通常審には設けられているが、日弁連は再審法制への導入に対し「禁止される行為の外延(筆者注:具体的な範囲)が明確ではないため、再審請求人や弁護人の活動を萎縮させるおそれがあり、冤罪被害者の救済を困難にさせる」として反対している。シンポで挨拶した日弁連の松田純一会長は「再審請求審が市民の目の届かない、全くの密室で行われることになりかねない。支援活動も困難になり、再審の門はますます狭くなる」と危惧した。

 最初に、日弁連再審法改正実現本部の高平奇恵弁護士(一橋大教授)が禁止規定の問題点を解説。①再審請求審は非公開なので国民の知る権利に応える重要性が一層高まる、②報道や誤判原因の調査・研究のために当事者以外が証拠を見る必要がある——として「目的外使用の一律禁止は正当なのか。捜査機関が収集した証拠は誰のもので、どのように、何のために使われるべきなのか、そこから議論を始める必要がある」と提起した。

「再審の扉はメディアと支援者の力が集まって開ける」

 再審事件にかかわってきた弁護士や支援者は、体験をもとに証拠をジャーナリストや支援者と共有する意義を語った。

 袴田事件(1966年)で死刑が確定していた元プロボクサー袴田巖さんの支援に長年携わった山崎俊樹さんは、再審請求審で証拠開示された「5点の衣類」の緑色ブリーフのカラー写真を確定審の写真と並べて示し、「支援者も報道関係者も『違う色のものが出てきた』と感じた。確定記録と開示証拠の比較ができたから大きく事件が進んだ」と分析。「証拠は確定記録のものから見ていかないと分からない。通常審の目的外使用の禁止規定からなくしていくべきだ」と訴えた。

 袴田事件では「弁護団と支援者が同じ証拠を見ながら検討を重ねたことで、さまざまな意見が出た」と振り返り、「いろんな人が証拠を見て(開示の)必要性を感じることで、いい加減な捜査が許されなくなる」との考えも明かした。

 湖東記念病院事件(2003年)の再審で元看護助手・西山美香さんの主任弁護人を務めた井戸謙一弁護士(元裁判官)は、取材していた新聞記者から「確信を持って記事を書くために証拠の現物を見たい」と頼まれ、悩みながらも見てもらう機会をつくった経緯を打ち明けた。事件がほとんど知られていない段階で、冤罪だとの方向での大型連載につながったといい、「メディアと支援者と弁護士の力が集まって、ようやく再審の扉を開いていける」と力を込めた。

 再審で無罪を獲得した後に起こした国家賠償請求訴訟で、弁護人が刑事裁判で開示された証拠を提出するのは目的外使用に当たるとされたことを問題視した。湖東記念病院事件の国賠訴訟では1審にかかった期間の半分近い約2年間が証拠提出に関わるやりとりに費やされたとして「滑稽で非条理だ」と怒りを露わにした。

再審請求審を公開するよう求める

 ジャーナリストからは、目的外使用の禁止規定が国民の知る権利を侵害するとの懸念が表明された。

 読売新聞の足立大・論説委員は、罰則のある禁止規定が導入されれば「取材源を守るために取材活動が萎縮し、結果的に社会に必要な情報が奪われ、国民の知る権利が損なわれる」と指摘した。通常審とのバランスを取るのが目的ならば「むしろ通常審の禁止規定をなくすべきだ」と主張し、非公開で行われている再審請求審を通常審と同様に公開するよう求めた。

 禁止規定が導入されても、再審請求人や弁護人が報道機関に「証拠の概要」を伝えることは可能とされることに対しては「証拠の概要は2次情報のようなもので、説明する人の解釈が入る余地がある。再審の報道をする意義は確定判決の検証であり、1次情報である証拠の意味を分析して発信することが不可欠」として不十分だとした。

 「再審のプロセスがますますブラックボックス化し国民から見えなくなる」と禁止規定に疑問を投げかけたのはジャーナリストの江川紹子さん。「証拠は国民の共有財産」と位置づけたうえで「国民の見えるところで、真相を明らかにするために使うべきだ」と強調し、「原則は証拠の公開・共有であり、目的外使用を全部ダメにするのはおかしい」と非難した。

 禁止規定は事件関係者のプライバシーを守るのが目的とされることに対しても「これまで証拠をメディアと共有したことで、どのようなプライバシー侵害や名誉毀損が起きたのか」と反論した。

 犯罪被害者としての自らの経験を踏まえて司法制度改革への提言などをしている「被害者と司法を考える会」の片山徒有代表は「犯罪被害者は本当のことを知りたい」と繰り返し、被害者のプライバシーに配慮したうえで事実解明のために証拠の使用を認めるよう要請した。

規制は具体的な弊害がある場合のみ限定的に

 冤罪事件の救済や検証にかかわっている笹倉香奈・甲南大教授(刑事訴訟法)は「誤判の理由は事件の手続や証拠から分析する必要がある。科学や法医学などの専門家と一緒に生の証拠に当たってみることが重要」との認識を示した。目的外使用を一律・全面的に禁止する今回の規定に対し「具体的な立法事実がなく過剰な規制だ」と批判した。

 アメリカの連邦法では開示証拠の利用は原則自由で、裁判所が「開示制限命令」を出せるものの「明確かつ具体的な弊害がある場合のみ必要な範囲」に限られ、しかも個別の証拠ごとに封印の措置が取られることを紹介した。日本で規定をつくるとしても「証拠は社会全体のものという前提に立ち、具体的な弊害がある場合に裁判所が個別・具体的・限定的な規制の可否を検討する建て付けにするべきだ」と提唱した。

 ◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう) 
 朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。


【編集部からのお知らせ】

 本サイトで連載している小石勝朗さんが、2024年10月20日に、『袴田事件 死刑から無罪へ——58年の苦闘に決着をつけた再審』(現代人文社)を出版した。9月26日の再審無罪判決まで審理を丁寧に追って、袴田再審の争点と結論が完全収録されている。

(2026年05月13日公開)


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