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活動は資金集めから

── 日本のNGOやNPOって活動するための資金を集めるのに苦労していて、ボランティアでやっている人(本業は別にあって、生活するためのお金はそちらで稼いでいる人)が中心というイメージがあります。

 会社の中である程度地位があり、裁量のある人だったら日中に時間を割くこともできますが、普通に働いていたら、就業時間後にどうにかこうにかやる。そして、カンパみたいな形で資金を集めて活動しているNGOやNPOが、日本にはたくさんあるように思います。

 そんななか、ヒューマン・ライツ・ウォッチのオフィスを東京で立ち上げるときには、日本の経済界の人たちに声をかけ、スタッフを常駐させるだけの資金を集めてオフィスを開設したと聞きましたが、今も資金集めはうまくいっているのですか。

土井 毎年ファンドレイズして、使うというビジネスモデルですが、運営はできていますね。日本のスタッフは十人弱ですが、半分ぐらいはファンドレイザーです。

── そこに人をかけないと資金集めができないんですね。土井さんがうまく資金集めをされて、継続した活動ができているところに、日本の他のNGOやNPOが活路を生み出すヒントがあると思いますが、いかがですか。

土井 2006年にヒューマン・ライツ・ウォッチのニューヨーク本部にフェローという形で一年置いてもらいました。

 ニューヨークの大学院で勉強していたときは、人権団体としてのヒューマン・ライツ・ウォッチの存在が大きくて、自動的に目標になり、入りたいと真剣に考えるようなったのですが、幸運にも1年間フェローとしておいてもらうことになりました。

 フェローとなってヒューマン・ライツ・ウォッチのニューヨーク本部に一年いられることになったとき、私が主たる課題としてあげていたのは実は「どうやってお金を集めるのかを調べる」ことでした。当時の日本のNGOにもっとも足りないのはお金だという問題意識がありました。実際にどうやっているのかなと見てみたら、富裕層から出資してもらうというビジネスモデルの団体でした。そこで日本でもそのモデルでトライしてみようとなりました。いい仕事を続けるために、本当に資金集めは大事ですから。

 少なくともプロのスタッフにきちんと給料を払えるようなNGOやNPOが、ヒューマン・ライツ・ウォッチを含めてアメリカにもたくさんあったように私には見えたのですが、当時の日本にはほとんどありませんでした。

 たしかにアメリカにも手弁当の団体はあるんですけど、プロのスタッフの団体もあった。一方、日本にはプロの団体はなかった。私はヒューマン・ライツ・ウォッチのやり方を日本で試してみたんですが、上手くいきました。

 あれから10年経って、クラウドファンディングなども資金集めの方法として立ち上がりましたが、今はCall4も監事として手伝っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチのやり方をお伝えし、この前初めて寄付を集めるためのガラディナーを開いていましたが、かなり成功したと思います。

 日本でもいろんな資金集めのやり方が試されるようになり、ヒューマン・ライツ・ウォッチも含め、大成功とまでは言えないと思いますが、資金集めが随分とできるようになってきました。ちょっとやってみようっていう空気は確実に出てきていると思います。

── Call4の話が出ましたけど、NGO・NPOを含め、資金集めのやり方を伝えるセミナーをやってたりしてるんですか。日本で成功している事例があまりにも少ないので、教えられる人も少なく、土井さんにお願いするというケースも多いのではないですか。

土井 人から教えてと言われたときには伝えていますが、ファンドレイジングの協会などもできてきて、最近はいろんなセミナーも開かれてきています。ただ、まだ成功例がたくさんあるわけではないので難しいところだとは思うんですけど、小さな成功例だとか、海外の成功例を学べる機会は、本当に増えてきてると思います。

── どこから資金を集めているのですか。

土井 アムネスティやグリーンピースもそうだと聞いてるんですけれど、ヒューマン・ライツ・ウォッチはどんな政府からもお金をもらわないんですよね。政府からお金をもらってしまうと、政府の意向に沿ってお金を使うことになってしまいますので。政府を批判するのがミッションのような団体ですから。そういうわけで、個人のお金が主ですね。会社からの寄付もとても少ないです。

 個人にもいろんな意向があるとはいえ、政府や会社と比べたら力は小さいし、個人のお金が一番自由で、クリーンに使える。最大限インディペンデントに人権だけを物差しにして行動を決めていくためです。

 日本も個人寄付はわりとされている国だと聞いています(多くが日赤やユニセフに行っているようですが……)。この10年での変わり方が激しいので、今後は、個人の方々のお金も、より能動的に宛先を選んで社会を変えるために使う、自分は実際に時間は使えないけど、お金を託すことによってできる人にやってもらう、というふうに変わっていくのではと思っています。自己実現でしょうか、適切な言葉はわからないですが、そうした手段としてお金を出すという人も増えてくるんじゃないかと思います。

── 税制優遇とかあればいいですよね。寄付であれば、免税とか税率が下がるとか。

土井 そうですね。20年前から比べれば、税制度も随分変わったと思います。今後もさらに改善していけばいいですね。私は税法や税制についてはよく知らないですけど。アメリカには個人やファミリーの財団がたくさんあることに驚かされます。ヒューマン・ライツ・ウォッチの米国本部だと、個人からのお金と同じぐらい、個人財団からもお金をもらっているのではないでしょうか。日本には個人財団はほとんどありませんよね。

── 日本でも企業で成功し、財産を築いた人たちが個人財団を作る動きができないものでしょうか。

土井 財団を作ることによって、さまざまな税金の優遇があれば、作りたい人が出てくるのではと思うんですけど……。このあたりの制度もより使いやすくなって、人々もそれを知るようになれば、お金も回っていくかもしれません。

 この10年、20年でかなり変わってきたので、さらに変わっていけば、社会でやりたいことのある人が活動しやすい、少なくとも金銭的にやりやすい環境ができるのかなと思っています。

日本で活動する理由(わけ)

── 最後に、実際に多くの国々を見てきて、土井さんの中で日本っていう国はどういうふうに映っていますか。今後も、日本で活動したいですか。それとも、他の国に行こうと思いますか。

土井 人権面だけで見たら、北欧に行った方がいいのかもしれません。北欧人として生まれていれば、多分北欧にいたいと思うんですけど。日本は、いろいろ問題はありますが、素晴らしいところもありますし、日本で生まれ育った限り、出ていきたいと思うような国ではないですね。

── 治安の面で言えば、夜に女性が一人で外出できる国って、なかなかないですし。

土井 アメリカに住んでいたこともありますが、一人で夜に外を歩くのは怖いですね。日本はご飯も美味しいし、総合点の高い国だとは思うけど、だからこそ、人権を守る制度をなんとかしてほしい。すごくお金のかかることだったらまた別なんですけど、人権をよくするのにほとんどお金はかからないし、日本の魅力が増やすばかり。そういう日本の欠点はすごくもったいないと思います。

 日本は今でも、私も住みたいと思うような誇れる国なんですけど、人権活動家としても誇れる国であってほしい。私が料理人だったら「すごいでしょ、日本料理」と胸を張って言えるんですけど、人権活動家としては「う〜ん、まあまあかな? 独裁国ではないし」みたいな感じになってしまいます。「人権もすごい、料理もすごい、治安もすごい」とか、「もう全部誇れる国にしようよ」と法務省に言いたいです。

 本日は、ありがとうございました。


【特集「STOP人質司法!」】
第1回 土井香苗さんに聞く(1)「人権先進国といわれる日本に「人質司法」って、本当にあるの?」

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(2023年11月01日公開)


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