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弁護士から人権活動家へ

「人権もすごいよ」と誇れる日本に!

土井香苗(どい・かなえ)

弁護士から人権活動家へ

土井香苗さんへのインタビューの2回目となる今回は、なぜ弁護士をやめて、ヒューマン・ライツ・ウォッチの仕事に専念するようになったのか。東京オフィスの開設から、活動資金の集め方など今日に至るまでの運営についてお聞きする。


多くの人を巻き込み、世論を動かす

── 今回インタビューをするにあたり、土井さんの著書『巻き込む力』(小学館、2011年)を読ませていただきました。親の「女性が社会で生きていくには資格を持たなくてはならない。理系なら医者、文系なら弁護士になれ」という意向で大学受験の学部が決まったこと。またその後、親に耐えられなくなり家出をすることになり、結果、アルバイトに明け暮れながら司法試験の勉強をし、受験していたと書かれていました。

 最初のうちは親に対する反発で、とにかく「試験に合格して試験を終わらせよう」というエネルギーが強かったように見えるのですが、それから少しずつ経験を積み、年齢を重ねてきて、今の土井さんの中では、何がこういう問題を取り上げる活力になっているのですか。

土井 親への反発力がある程度力になっていたのは、司法試験に合格したときぐらいまでですね。

 弁護士になるまでは本当に普通の学生だったんで、日本の中の不条理を直接自分の目で見ることはありませんでした。むしろ、アフリカの難民の置かれている立場などをテレビで見て仰天し、アフリカに行くみたいなことやってた人だったんです。

 親は「アフリカなんか行くんじゃない!」とすごく心配するんですが、「行くんじゃない!」って言われると、むしろ行きたくなるのが若者。で、実際に行ってしまう……、そんな感じでした。

 でも、弁護士になってからはちゃんと地に足がつきました。家出をしてからは親からも自由でした。今も社会の不条理を目にして怒っていますが、そこは当時と変わっていませんね。

── 土井さんの修習生時代のことについて書かれた本『司法修習生が見た裁判のウラ側──修習生もびっくり! 司法の現場から』(現代人文社、2001年)では、検察官からのセクハラや検事職の女性枠撤廃運動について書かれています。当時は、メディアにも結構取り上げられたりしていましたよね。 

土井 そうなんです。人生でいろいろとロビイングをしたんですけど、一番短期間で成功したのが一番最初にやったものでした。

 私が司法修習生の時代には検察官の「女性枠」というものがあり、女性司法修習生が検察官になりにくい状況でした。そこで2000年にやめてくださいというロビイングをしたんです。基本的には、一回複数の司法修習生で法務省に行っただけですが、TBSが取り上げてくれたおかげで、法務省はすぐに女性枠を撤廃しました。最近の採用実績では女性検察官の割合は30%を超えているということなので、割合的にはおそらく、新たに法曹になる人のなかで、裁判官や弁護士よりも、検察官の女性割合が高いのではないでしょうか。昔から考えると逆転してます。「女性枠」撤廃以来、法務省はずっと女性をとっているようなので、大成功でした。ただし、そもそも司法試験に挑戦する女性が少ないという問題もありますが……。

 以後ロビイングをするようになりますが、私がロビイングをやる理由は二つあって、一つは現実の不条理です。被害者の話を聞くと、「本当に、そんなことあるんだ」「あまりにも酷くない?」っていう驚きと怒りがわき起こってきます。

 ただ、一人でやるには壁があまりにも高すぎて、いくら「ひどい」と思って何かをやろうとしても力尽きてしまうので、仲間の存在は大きいです。一緒に頑張ろうという人がいれば、お互いに支え合ってやっていけるのかなと思います。

 自分が若手の弁護士だった頃、いろんな弁護団に入れてもらいました。弁護団とは、一人で孤独になったらなかなか頑張れないところを、みんなでグループになって支えあい、互いに頑張っていけるところだと思っています。

 この人質司法問題のロビイングも、イノセンス・プロジェクト・ジャパンとの共同キャンペーンにしました。私が一人でロビイングをやるのではなく「一緒にやりましょう」と多くの人を巻き込んで、世論を動かしていく。一人よりは二人、二人よりは十人みたいな感じでしょうか。グループでやることによって、お互い助け合えるっていうところは大きいと思います。つまり、不条理と仲間が、ロビイングで前に進んでいく理由ではないでしょうか。

弁護士登録を外した理由(わけ)

── 土井さんは今、弁護士を辞められて、ヒューマン・ライツ・ウォッチに全力を傾けておられます。『巻き込む力』の中では、弁護士のやりがいについてもたくさん書かれていますが、ヒューマン・ライツ・ウォッチでのやりがいは、弁護士業とはまた違うものなのでしょうか。

(2023年11月01日公開)


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