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2,000億企業の創業者が体験した「人質司法」

【前編】

山岸 忍(やまぎし・しのぶ)、中村和洋(なかむら・かずひろ)、西 愛礼(にし・よしゆき)、秋田真志(あきた・まさし)、亀石倫子(かめいし・みちこ)

2,000億企業の創業者が体験した「人質司法」

プレサンスコーポレーションという2,000億企業を創業し、育て上げた山岸忍さんが「人質司法」に巻き込まれた。この対談(「刑事司法に関する共同キャンペーン 第1回シンポジウム 人質司法を考える」)では、248日勾留され「人質司法」の当事者となった山岸さん(向かって左)から、その苦しさや理不尽さが語られる(写真=2023年6月30日、龍谷大学大阪梅田キャンパス)


本動画は、ヒューマン・ライツ・ウォッチとイノセンス・プロジェクト・ジャパンの共催「刑事司法に関する共同キャンペーン/第1回シンポジウム 人質司法を考える」(2023年6月30日)を編集したものである(収録時間約9分)。

*著作権者・頒布権者の許諾なく、本作品の一部または全部の複製、改変、上映および送・配信することは、法律で固く禁じられています。但し、教育教材として非営利目的で使用する場合はこの限りではありません。

プレサンス事件の概要

亀石 はじめに、主任弁護人の中村和洋先生から、プレサンスコーポレーション事件(以下、プレサンス事件)の概要を簡単に話してもらえませんか。

中村 プレサンス事件は、21億円の業務上横領が問題となった事件です。

 事件をかいつまんで言うと、大阪市の天王寺の近くに、明浄学院高等学校があり、それを経営している学校法人明浄学院がありました(この事件の経緯や、山岸さん自身がどんな目に遭ったかについては、『負けへんで!──東証一部上場企業社長vs地検特捜部』〔文藝春秋、2023年〕に詳しい)。

 Oさんという女性が明浄学院を経営したいと思い、当時の理事長と交渉しました。その際、「15億円を準備すれば、あなたが理事長になれます」と提案されました。そこで、彼女は何とか学院を支配したかったので、仲介者への謝礼としての3億円を合わせて、18億円を用意しようと思ったわけです。

 Oさんは、プレサンスコーポレーションの山岸さんの部下であったKさんと知り合いになります。そして、Oさんは「そのお金を用意してもらったら、私が何とか理事長になります。そうなったらこの学校を移転するので、天王寺のすごくいい場所にマンションを建てられますよ」と言います。Kさんは「これはいい話で、自分の手柄になる」ということで、山岸さんに報告します。

 ここが問題で、Kさんは山岸さんに「この学校に再建資金としてお金を貸してほしい。そうしたら理事長が交代するので、プレサンスコーポレーションはマンション用地を買えます。山岸さんが出したお金も、売買代金で返ってきます」と言って、学校にお金を貸しても、返ってくるという説明をしました。

 山岸さんは、そういうことならと18億円をOさんに貸し付けました。その後、18億円は、実際に学校には入金されず、当時の理事の手元にいくなどして消えてしまいした。

 当初、Oさんは自分が理事長になるので、学校が債務を負担した形で返せるだろうと思ってました。しかし、学校の反対などもあってうまくいかず、最終的には学校のお金21億円を横領して、そのお金で山岸さんに18億円を返しました。

 実態として横領はあったわけです。検察は最初から、プレサンスコーポレーションの社長なのだから、お金を出した山岸さんもこの横領のことをわかって加担したのではないかと狙いをつけて捜査し、のちに逮捕、起訴した事件になります。

亀石 結局、山岸さんはだまされて、利用されたということになりますか。

山岸 いいえ。先ほど中村先生から名前が出たOという女性は、のちに理事長になりますが、私の部下のK、そして、取引先会社の社長のYさんを、結果としてはだましたことになります。ただ、Yさんも部下のKも、最初は学校に18億円を貸すという私の認識と同じことを考えていたと思います。私に話しているわけですから、彼らは、その段階で私をだまそうなんて思っていないわけです。

 私は、そのお金が学校に入るということで取引先のYさんの会社に貸しているわけですが、実際はそのお金が学校に入らず、Oさんにいったという話です。あとで調書を見てわかったことでした。

 当然、「それはあかんやろう」という話になりますね。Yさんにしても、一個人にいったら返ってこないだろうと思っています。だけど、Oさんの「学校が借り入れる。理事長になったらできるねん」みたいな話を信じたということでしょうね。

亀石 なるほど。では、山岸さんから18億円を出させるためにその人たちが引っ張り込んだのではないということなんですね。

山岸 実際には、お金はOさんに流れてしまい、学校を債務者にすることができなかった。それを私に報告したら、すごく怒られますよね。だから、ずっと隠していたという話です。

山岸さんの逮捕・勾留と検察官の取調べ

亀石 それでは、なぜ山岸さんが共犯者にされていったのでしょうか。

中村 YさんにしてもKさんにしても、検事から取調べを受けた当初は本当の話をしています。でも、検事はだんだん「山岸さんにどんな話をしたんだ」と、山岸さんのことばかり聞くわけです。そして、この二人を逮捕したあとに、ひどい取調べが始まって、ウソの供述を強要し、山岸さんが共犯だという話を作り上げていったわけです。

亀石 山岸さんを共犯者にしたのは、検察がストーリーを描いて、作っていったことになりますね。

中村 そのとおりです。

亀石 山岸さんは、実際に逮捕される前から任意の取調べを受けていましたが、どれぐらいの期間でしたか。

(2023年12月25日公開)


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