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村木厚子氏(元厚生労働事務次官)

『オアシスインタビュー』第1回

【後編】罪を犯した人と私たちはどのように共生できるのか

自分の体験から考えたこと

インタビュアー:菅原直美(弁護士) 2018年8月9日 現代人文社会議室


——具体的にはどんな活動をしていらっしゃるんでしょうか。

村木 主なテーマが幾つかありますが、まず、この人たちのことをもうちょっと支援する制度を作れないかの研究、それから、そういう支援をきっちりやっている団体への経済的な助成です。少年院から出た人や、薬物犯罪を犯した人たちを支援する団体の支援です。年間で1千万円いかないぐらいの予算規模だから大したことはできないんですが、毎年それぐらい使った活動がもう6年ぐらい続いております。

「若草プロジェクト」の創設とその活動

——私も弁護士として、そのような方に会う機会がすごく多いので、実は、その基金の支援を受けている団体のお世話になることもあるんです。今までは共生社会を創る愛の基金の話ですが、もう一つの若草プロジェクトでは、どのような活動をされているんでしょうか。

 

村木 若草プロジェクトは、役所を辞めてから、旧知の大谷恭子弁護士たちと、「やり残していること、自分たちがやれていない分野って何だろう。これから自分たちが何か社会に向けてやらなきゃいけない一番緊急のことって何かね」と話したときに、若年女性の問題が大きいという話になって、瀬戸内寂聴さんにも相談して、若年女性の問題をやろうということになりました。

世の中の人にはあまり見えていない部分ですが、家庭の状況が非常に劣悪とか、家庭内暴力があるとか、あるいは性暴力の被害者とか、そういう家庭に安全な居場所がない子たちは、夜の町に出てきてしまいます。家出とか徘徊とかいうかたちで出てきて、そういうところへ行くと、悪いお兄さんがいっぱいいて捕まっているというか、性産業へ引っ張り込まれたり、レイプの被害に遭ったり、あるいはそこまで行かなくても、結局自分の体を売って今日食べるものとか、今日泊まるとこを探すということをやっている子もいるんです。

しかもあの子たちは自分たちは悪いことをしていると思っていて、自分が悪いと思っているから、どこにも助けを求めようとしません。それを、「そうじゃないよ。あんたたち悪くないよ。あんたたち一所懸命頑張って生きようと思っていた結果としてたまたまこういうこと起きいているだけだよ。助けてくれるとこがあるからね」、「大人ってみんな悪い人ばっかりじゃないからね」ということを伝えようと思って、そこへの支援をしようと、ちょうど2年前に若草プロジェクトを立ち上げまして、今年度で3年目に入ったところです。いま、少女たちが一時避難できる「若草ハウス(仮称)」を作ろうと準備中です。

若草プロジェクトをはじめるきっかけは、もう一つあります。拘置所の中で、ご飯配りに来る受刑者の若い子がいて、灰色の上下の作業服を着てカートで食事を持ってくるのですが、独房のちっちゃい窓から見ると、みんな、何かえらいかわいくて、しかもすっぴんだから幼く見えるし、職員さんから叱られたり、指導を受けたりしている会話も素直です。「何でこんなかわいい子がここにいるのかな」って思っていました。先ほど言ったように、取調べでいいほうの検事さんに、「あの子たち何をしたんですか」と聞いたら、薬物犯罪が一番多くて、その次が売春という答えが返ってきました。拘置所を出てから、教えられたのが、薬物依存は性暴力の被害者が多くまた、悪い男性からそういう薬物を教えられたりとか多くて、非常に厳しい状況にあるから何かに頼りたい、その頼りたいという気持ちもあって薬物に頼る。彼女たちは実は被害者であるといいます。そして、再犯も多いそういう人たちも含めて支援しようと思いました。

支援の一番大きな柱は「つなぐ」です。支援団体はいっぱいあるんだけど、それぞれに小さい団体だし、みんな苦労しているので、若草プロジェクトは、瀬戸内寂聴さんにも協力いただいて、支援団体同士がつながるお手伝いもしたいと思っています。そして、若い子たちに、支援があるよって言って、支援とつなぐ。

もう一つの活動の柱は「ひろめる」ということです。実は悪い子たちではなくて、ほんとに必死で頑張っている子たちだよっていうことを世の中に広め、それから、その女の子たちにも支援があるという情報を広める。最後に、「まなぶ」。この問題は結構根が深いので、いろんな立場の人がどういうことができるかをみんなで学んでいく必要があります。したがって、「つなぐ」、「広める」、「学ぶ」という活動をやっています。

——活動を一緒にしている仲間たちはどんな方々ですか。

村木 若草プロジェクトのほうは、弁護士、それからDVの被害者支援、女性支援をやっている人たち、あとは行政の人も結構多くて、最近は企業も支援者に加わってくれています。例えば、女性向けとか子ども向けのシェルターみたいな所がありますが、そこに新品の肌着をいつも置いておけるようにする、ファーストリテイリングが夏と冬2シーズンに分けて定期的に寄付してくれています。今年で120カ所ぐらい提供できることになったんです。また、妊娠検査薬とか、モーニングアフターピルとか医療的なケアが要りますから、性感染症とかもあるし、暴力被害だったら、カウンセリングとかも必要で、そういう医療的なニーズを支援しようと小さな基金をつくりました。医療関係のサポートを支援してくださる企業をこれから探していく予定です。

——いろんな人たちをつなげて、ないものは誘い込んでいく、その中心が若草プロジェクトということなんですね。 

村木 そうですね。例えば、こういう状況を経験した人たちが、大変素晴らしい支援活動をやっているんで、そういうところも応援できたらいいと思います。支援を一所懸命やっている人の応援団になれるのが理想かなと思っています。それと、共生社会を創る基金の場合も同じですが、法務省と厚生労働省をつなぐというか、司法と福祉をつなぐという役割があったり、官と民をつなぐということがあります。私自身厚生労働省にいたんですが、たまたま司法に縁ができたから、違う分野の人をあちこちから仲間に引っ張り込んでいくことは、多分、基金でも若草でも大事な役割かもしれないですね。

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用語解説

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