困ったときの鑑定──裁判からトラブル解決まで<br>第21回

困ったときの鑑定──裁判からトラブル解決まで
第21回

実例ケーススタディ/石巻・強制わいせつ致傷事件(その1)

警察指紋鑑定のプロセスと作成書類

齋藤健吾 株式会社齋藤鑑識証明研究所代表


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1 はじめに

 今回から、本連載の第18回から第20回にかけて解説してきた「警察における指紋鑑定の流れと作成書類からわかること」をベースに、過去の実際の事件を追うケーススタディをお届けします。

 題材とするのは、2010(平成22)年11月に宮城県石巻市で発生した強制わいせつ致傷(当初は暴行)事件です。

 前編となる今回は、事件発生から2年の歳月を経て甲氏という被疑者が浮上し、現場の遺留掌紋と一致するまでの警察側の動きを紹介します。

 なお、第18回から第20回で使用した図「事件発生から指紋合致までの流れ」において付した番号を、該当する箇所に表示しました。以下に再掲しますので、この図とともにお読みいただけると、よりわかりやすいかと思います。

図1 事件発生から指紋合致までの流れ

2 事件の発生と初期の鑑識活動

 まずは、今回取り上げる事件の概要から振り返ってみましょう。

 事件が発生したのは、2010年11月10日の午後6時50分頃のことでした。

 宮城県石巻市内にあるA氏宅前の路上において、通行中の女性が男に襲われるという暴行事件が発生しました(図1:①事件発生)。

 被疑者の男は、右手で被害女性の左肩を摑み、仰向けに押し倒したうえ、左手で女性の口を塞ぎ、右手で大腿部の付け根付近を撫で回すという暴行を加えました。

 しかし、被害女性が大声で叫んで激しく抵抗したため、男はその場から逃走を図り、現場付近にある民家の敷地内を走り抜け、その民家のフェンスを乗り越えて、隣接する畑の方向へと走り去りました。

 被害届を受けた宮城県石巻警察署では、事態を重く見て、直ちに捜査員を現場に派遣し、徹底した鑑識活動を実施しました。

 犯人が逃走の際に触れた、あるいは立ち入ったと考えられる動線を丹念に調べた結果、犯人が乗り越えたとされるフェンスから現場指掌紋を4個、そして逃走経路となった畑から足跡痕3個を採取しました(図1:②臨場した警察官が、現場指掌紋を採取)。

3 「現場指掌紋」から「遺留掌紋」へ

 事件現場から採取された指掌紋は、事件から3日後の2010年11月13日に[書類]現場指掌紋採取報告書にまとめられ、現場に臨場した鑑識係員から石巻警察署長に報告されました(図1:③警察官から所属の警察署長に報告)。

 この[書類]現場指掌紋採取報告書には、指掌紋を採取した物件の名前、採取方法の種別(粉末法や液体法など)、採取者名、そして指掌紋がどこに付着していたかを示す採取物件の略図などが詳細に添付されています。

 なお、今回のケースでは、犯人が乗り越えたフェンスは住人が日常的に触るような場所ではなかったため、住人や関係者の指紋を除外するための協力者指掌紋の採取は行われませんでした。

 一般的に、当該事件において協力者(家主、関係者など)が接触するような箇所から現場指掌紋の検出・採取を行った場合には、現場に臨場した鑑識係員が協力者の指掌紋の押捺を行います。図1の④の段階で警察本部鑑識課に現場指掌紋を送付する際、協力者指掌紋も一緒に送付し、現場指掌紋との照合を行います。

 [書類]現場指掌紋採取報告書によって報告を受けた石巻警察署長は、現場指掌紋の選別および照合を行うため、同日付にて[書類]現場指掌紋送付書を作成し、同署長から宮城県警察本部鑑識課長へ送付しました(図1:④現場指掌紋等を警察署長から警察本部鑑識課長へ送付)。

 [書類]現場指掌紋送付書の送付を受けた本部鑑識課長は、これらの現場指掌紋が指掌紋鑑定に使えるか否かを判断するため、選別作業を行いました(図1:⑤現場指掌紋の照合可否を判断する)。

 現場で採取される指紋は、必ずしも綺麗なものばかりではありません。擦れていたり、重なっていたりして、鑑定に使えないことも多いのです。

 警察本部鑑識課において選別を行った結果、採取された4個の指掌紋のうち、3個は不鮮明で照合不能であると判断されましたが、残る1個の掌紋(手のひらの紋様)だけは、照合が可能であるとの判断がなされました(図1:⑥−1、⑥−2照合可能/不能な指掌紋の判断)。

 この段階において、協力者指掌紋が存在する場合には、前述の掌紋1個と協力者指掌紋との照合が行われますが、本事案においては協力者指掌紋がないため、照合可否の結果が、2010年11月17日付の[書類]現場指掌紋対照結果回答書により、本部鑑識課長から石巻警察署長へ回答されました(図1:⑧警察本部鑑識課長から選別・照合結果の通知を受ける)。

 なお、協力者指掌紋の押捺を行った事案については、警察本部鑑識課において⑥−1の段階で現場指掌紋との照合を行い、その結果が[書類]現場指掌紋対照結果回答書をもって回答されます。

 注目すべきは、前述の掌紋1個がこの段階で「現場指掌紋」から、「遺留指掌紋」という名称に変わることです。これにより、当該掌紋1個は犯人が現場に残したものとして取り扱われます(図1:⑨協力者指掌紋に合致しない指掌紋は、遺留指掌紋の扱いを受ける)。

 本事件において遺留指掌紋が確保されたため、指紋照合システムを利用して登録されている被疑者指掌紋との自動照合が行われましたが、この段階において遺留指掌紋に合致するものは見つかりませんでした(図1:⑩遺留指掌紋に該当する指掌紋の有無の照会を依頼~⑫−3警察本部鑑識課長から照合結果の通知を受ける)。

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(2026年07月01日公開)


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