⑵ 公務上秘密保護のための実体的真実発見の限界設定
110条と111条は、刑事司法の機能的効率性による実体的真実発見と、国家の公的な課題実現という憲法的価値が衝突する領域に関する規定である。当該規定の解釈・適用は、対立する二つの憲法的価値の衡量を通じて行われる。このような衡量を行うにあたっては、憲法の要求する法治国家原理が考慮されなければならない。すなわち、憲法は、行政立法と行政処分の合憲性・合法性を、独立的な地位を持つ法院(裁判所)が司法的に統制するように定めている(憲法107条2項[1])。行政行為の適法性を統制することは、独立的な法院の課題である。また、刑事司法機関は、違法な行政行為を訴追するという課題を遂行しなければならない。公務員または公務所が捜索・押収の対象となるのは、一定の行政行為や公務員の違法行為が捜査の対象となったときである。
このように考えると、刑事司法の機能的効率性と行政の効率性が同等の憲法的価値として衡量され得るのは、唯一、行政行為や公務員の職務遂行が適法であるときに限られると解すべきである。行政の適法性を統制することは、司法部の任務であると同時に、刑事訴追を担当する捜査機関の任務でもある。公務員の重大な違法行為が問題となる場合、法治国家原理に基づく行政部に対する統制機能は、より一層重要な意味を持つことになる。そのため、原則的に、刑事司法の機能的効率性が、行政の効率性よりも優越すると解すべきである。一定の犯罪の嫌疑が明らかになり、独立的・中立的な裁判官によって捜索・押収令状が適法に発付された以上、行政機関は原則として捜索・押収令状の執行を拒否することができないと解すべきである。法院によって発付された令状の執行に対して、行政機関や公務員がその承諾を拒否できるのは、例外的な場合のみである。110条と111条は、捜索・押収を制限する例外規定であり、例外規定は厳格に解釈されなければならない。110条と111条が「国家の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒否することができない。」と規定しているのも、例外的な場合に限って承諾を拒み得ることを明らかにするものである。
⑶ 110条および111条に関する解釈論と立法論
1)解釈論
韓国では、朴槿恵国政介入事件で、青瓦台(大統領府)に対する捜索・押収を断念する経験をした。その後、110条および111条の趣旨、解釈論および立法論が活発に展開された。特に、承諾拒否の主体、要件および方法に関する議論が展開された。承諾の主体を「秘密の管理者である行政庁等」としたのは、このような主体がその秘密の価値と重要度、公開時の利益侵害の程度などに関する判断を最も専門的かつ正確に行えることを考慮したためであろう。しかし、行政機関が秘密を保持する利益と、刑事司法の機能的効率性を通じた正義実現との関係を踏まえたとき、捜索・押収の対象となる行政機関が当該判断を行うことについて、問題意識が共有された。
刑事訴訟法は、100条および111条による承諾拒否の要件、手続・方法、111条の「職務上の秘密に関するものであること」の申告に必要な要件、手続・方法などを、具体的に規定していない。刑事訴訟規則も、これらに関する規定を設けていない。刑事手続では、権限が全面的に司法府に与えられている。しかし、承諾するかどうかの判断——「国家の重大な利益」に該当するかどうかの判断を原則的に行政機関が行うとすれば、最終的な決定を行政機関が下すことになる。その結果、このような国家権力が、刑事手続の過程に直接的な影響を及ぼすことになる。これは、権力分立の原則に真正面から反するだけでなく、独立した司法権を有する裁判官の発付した令状の執行を、行政機関の判断によって無効化させることも意味する。このような観点から、筆者は、承諾手続について、次のような解釈論を提示したことがある。
第一に、承諾拒否の意思表示が存在しない場合には、法院または捜査機関の実体的真実発見が優先される。公務員本人または当該公務所が職務上の秘密であることを申告したとしても、承諾拒否の権限のある主体が承諾拒否の意思表示をしないときは、公務員または行政機関は捜索・押収令状の執行を受忍しなければならない。
第二に、承諾拒否の権限を有する主体による承諾拒否の意思表示は、適法なものでなければならない。110条または111条に基づく承諾の拒否が恣意的(willkürlich)であったり、濫用(Mißbrauch)に該当したりする場合は、その承諾拒否は無効であり、拘束力を持たない。承諾拒否の主体となり得ない者が承諾を拒否した場合の他にも、承諾を拒否する事由を一切提示しない場合や、承諾拒否の事由として110条および111条の文言をほぼそのまま書き写している場合、拒否の事由を提示してはいるものの当該拒否が恣意的であったり権限濫用に該当し得る場合、あるいは承諾拒否の事由として主張された内容が明らかに国家の重大な利益を侵害しない場合には、このような承諾拒否は無効である。捜査機関や法院は、このような意思表示に拘束されずに捜索・押収令状を執行することができる。承諾の拒否が違法な状況で捜索・押収令状を執行して収集した証拠は、違法収集証拠には該当しない。また、承諾拒否の意思表示をしたことを理由に捜索・押収令状の執行を実力で阻止したときは、場合によっては公務執行妨害罪が成立し得る。
さらに、110条および111条は、個人の利益を保護するための規定ではなく、「国家の重大な利益」を保護するための規定であることが強調されるべきである。そのため、大統領個人の利益は、それが「国家の重大な利益」の構成要素でない以上、刑事訴訟法が保護する「国家の重大な利益」には該当しない。
このような意味で、朴槿恵国政介入事件に対する特別検察官の捜査過程で行われた大統領秘書室長および警護室長による承諾拒否は、110条および111条の規定する者による適法な承諾拒否とは言い難いものであった。当時、弾劾訴追によって大統領の職務権限が停止された状態で、承諾拒否の権限を有したのは、大統領権限代行を務めた黄教安(ファン・ギョアン)であった。その黄教安は、承諾拒否の意思を表示していなかった。また、「不承認事由書」に記載された承諾拒否事由は、110条および111条の文言をほぼそのまま書き写したものに過ぎなかった。朴槿恵前大統領は、現職であった頃に、特別検察官の捜査を受け容れる旨を国民に明らかにしていた。それにもかかわらず、承諾権限のない大統領秘書室長などが承諾を拒否したことは、恣意的であり、権限の濫用にも該当し得る。これらの理由により、朴槿恵国政介入事件における承諾拒否は、適法な承諾拒否とは言い難いのである。
2)110条および111条に関する立法論
朴槿恵国政介入事件において、特別検察官は、捜索・押収令状の執行に対する不承認処分について取消訴訟を提起した。しかし、ソウル行政法院は、特別検察官には原告適格が認められないという理由で、これを退けた。刑事訴訟に関する事項は、行政庁の違法な権限に対する国民の権利・利益を保護する行政訴訟とは保護領域が異なるというのである。
朴槿恵国政介入事件において、青瓦台(大統領府)に対する捜索・押収は、刑事訴訟法110条および111条によって頓挫した。この出来事を契機として、国会では、様々な改正案が提案された。改正案の一つは、①110条と111条に、それぞれ3項を新設し、国家の重大な利益を侵害しない理由が令状に記載されている場合には、その捜索・押収を拒否できないようにするものであった。他にも、②110条2項と111条2項の秘密を「国家安全保障・国防・統一・外交関係と関連」するものに限定しつつ、113条の2を新設して検事の申請によって法院が捜索・押収拒否の正当性を審理するようにする案や、③検事が捜索・押収令状を請求するにあたって、国家の重大な利益の侵害がないことや重大な公益上の必要があることを疎明した場合には、その捜索・押収を拒否することができないようにする案などが発議された。しかし、いずれも任期満了廃案となった。
尹錫悦による不法戒厳および内乱の嫌疑の捜査過程における捜索・押収拒否と関連しても、刑事訴訟法改正案が提出されたことがある。この改正案の骨子は、内乱・外患の罪のような重大犯罪の捜査について「ただし書」を設け、110条や111条の適用の例外を認めようとする内容であった。具体的には、内乱・外患の罪に対する例外条項を新設して、承諾を得なくても捜索・押収できるようにしつつも、異議申立があるときは法院がこれを検討する手続を設けるものであった。その他にも、軍事上・公務上秘密は、封印した上で法院の確認を経て押収の可否を決定するように手続に改めたり、職務上の秘密であることを法院に申告して許可を得るようにする内容を含んでいた。内乱・外患の罪の捜査および「国家の重大な利益を侵害しない事由が令状に記載されている場合」には、承諾を得ずに捜索・押収を行えるようにすることを内容とする改正案も、同様の趣旨で提案されたものである。
このような改正案は、内乱罪のような重大犯罪の捜査において、110条や111条が障壁となったことに対する国民の挫折や怒りを反映させたものである。110条や111条の改正に関する理論的・刑事政策的な議論が長期化することを防ぎ、秘密保護が必要であるかどうかの判断を行政機関ではなく法院に委ねることで、法治国家原則に反する部分を解消しようとする狙いも看取できる。
注/用語解説 [ + ]
(2026年08月21日公開)
