3 刑事裁判手続における司法からの援助
刑事裁判手続において、精神障害者は被告人、証人、被害者、またはその他の訴訟関係者として手続に関与する可能性がある。刑事手続の強制性と高い権力性という特性から、司法支援の提供は一層必要となる。本指針の第4章では、刑事裁判手続に対する具体的な提言を述べている。
まず、精神障害者が被告人の場合、起訴してから審判開始までの段階で、裁判所は被告人に障害があるかどうかを確認し、「バリアフリーサービス調査票」を通じてそのニーズを把握する。なぜなら、送達の段階で適切な支援が提供されない場合、被告人は起訴された事実の内容や開廷通知を理解できず、弁護権の行使に影響を及ぼし、さらには手続の適法性に関する疑義が生じる可能性があるからである。
次に、刑事裁判手続が他の訴訟手続と異なる点は、人身の自由を制限する「勾留手続」と「暫時安置手続[1]」があることである。したがって、勾留および暫時安置の審査手続において、被告人に精神上または知的な機能に障害がある場合、裁判所はその理解能力と訴訟能力をより慎重に評価し、必要に応じて弁護人を提供することによって、理解不足による自由の保障が損なわれるのを避けることができよう。
勾留および暫時安置手続は、人身の自由を拘束する最も重大な強制処分であり、高度の手続保障が与えられなければならない。そのため、裁判所が必要と認める場合、被告人またはその家族の申立てに基づき、障害者が他の者と平等に、効果的な司法保護を受けられるようにする。具体的に、勾留審査の進行を妨げない範囲で、障害者権利保障法第84条第1項および第2項[2]の趣旨を参考に、補佐人となり得る者の同席の許否を検討し、被告人が実質的な防御権を行使できるようにすることが考えられる。
また、公判期日においては、裁判官は被告人が審判内容および手続の進行を理解できるか否かを自ら確認し、必要に応じて陳述時間を延長したり、法律用語の説明を簡素化したり、デジタル証拠資料の拡大表示や音声読み上げ機能を活用したりする。理解能力が制限されている者に対しては、裁判官は法律扶助基金会(法テラス)に通知して弁護人を提供して、防御権の実質的な行使を確保する。
さらに、被告人が精神障害またはその他の精神的欠陥により完全な陳述ができない場合、刑事訴訟法第35条第3項の規定に基づき、補佐人となり得る者、またはその委任を受けた者、または所轄官庁、関連する社会福祉機関が指名したソーシャルワーカーその他の専門家が補佐人として同席すべきである。障害者権利保障法第84条第2項にある補佐人の資格はソーシャルワーカーに限定されず、保育士、セラピスト(言語、心理、理学、作業など)、特別支援教育教員などの専門職も含まれる。また、手話通訳や設備不足により必要な措置を直ちに提供できない場合、裁判所は手続上の権利侵害を避けるため、審理を強行するのではなく、期日を変更すべきである。
一方、精神障害者が証人または被害者である場合、裁判所は刑事訴訟法および関連規定に基づき、心理的負担を軽減し二次被害を避けるため、遮蔽設備またはビデオリンク方式による尋問を行うことができる。さらに、精神障害者が尋問過程で受ける可能性のあるストレスを考慮し、まずその心身の状態を評価し、適切な開廷時間を設定し、十分な尋問時間を確保すべきである。例えば、薬物療法の効果時間に合わせて開廷時間を調整するなどである。
認知機能障害者に対しては、簡潔な言葉で手続を説明し、補佐人を含む同伴者がコミュニケーションを支援する。注意力不足や長期的な薬品使用により認知・言語能力に影響を受けている者に対しては、休憩や更なる支援を提供すべきである。
精神障害を伴う認知機能障害者が証人として尋問を受ける際、宣誓の意味を理解しているか確認する必要がある。それに対して、知的障害者やその他の障害により宣誓の意味および効果を理解できない者には、宣誓をさせるべきではない。
4 精神障害者の「能動的」な司法参加の権利(国民裁判官法)
台湾では2023年1月1日より国民裁判官制度が正式に施行された。この制度は日本の裁判員裁判の精神を参考に、一般国民が職業裁判官とともに重大な刑事事件の審理と評議に参加できるようにするものである。この制度は、心身の状態を理由に精神障害者が国民裁判官となることを排除するものではなく、資格要件[3]を満たせば、審判に参加する権利がある。司法への平等なアクセスと合理的配慮の原則に基づき、精神障害者が国民裁判官候補者として選任された場合、または実際に国民裁判官を務める場合、裁判所は必要な手続上の調整と支援措置を提供する義務を負う。
本指針では、国民裁判官選任期日前に、裁判所は精神障害のある候補者の支援ニーズを自ら確認し、支援不足によってその参加権が損なわれないよう、可能な範囲で事前に手配すべきである旨が定められている。調査票や制度説明、デジタル方式による情報提供を行い、事前に自身の補助具と裁判所設備の互換性を確認できるようにする。選任手続において、精神障害のみを理由として不選任または解任の根拠とすることはできない。検察官および弁護人が理由を付さずに忌避権を行使する際も、裁判所はそれが不当な差別とならないよう注意を呼びかける。候補者が心理的または健康上の理由で困難を表明した場合は、裁判所はその原因を理解し、懸念を軽減するために必要な支援と説明を提供する。
公判期日において、裁判長はそのニーズに応じて手続と時間配分を調整し、適切な支援措置と付き添い人を提供し、その者が審理内容を実質的に理解し、議論に参加することを確保すべきである。休憩や更なる支援が必要な者に対しては、適切に手配をしなければならない(例えば、サポーターの提供等)。サポーターの役割はコミュニケーションの補助に限定され、評議に干渉したり判断に影響を与えたりしてはならない。不適切な状況があった場合、裁判長は直ちに制止またはサポーターを交代させることができる。
最終評議段階において、サポーターには守秘義務と行動の限界を明確に伝え、評議内容が忠実に伝達され、干渉されないことを確保し、精神障害のある国民裁判官には証拠を検討し意見を表明する十分な時間を与え、その平等な審理参加の権利を保障すべきである。
5 制度の成果と将来の課題
全体として、本指針は制度面でCRPDの国内法化を通じて、裁判所に具体的な実践方法を与える。しかし、制度の実践にはいくつかの課題が残っている。例えば、各地の地方裁判所における資源配分と設備の充実度には依然として差があり、調整措置の即時性や質に影響を与える可能性がある。さらに、裁判官や弁護士、検察官を含む司法関係者の間に、異なる障害タイプへの専門的な知識や適切な研修が不足している場合、手続の調整が形式的なものにとどまる可能性は皆無ではない。
また、刑事手続において、障害者の法的能力を尊重しつつ、過度な保護や代替決定を避ける方法には、依然として実務上の重要な課題がある。過度な保護は当事者の自律性を奪う可能性があり、逆に自律性を過度に強調すれば、その実際のニーズが見過ごされる可能性もある。この両者の間で適切なバランスが取れていない場合、精神障害者の権利を保障できないだけでなく、刑事訴訟における真実発見の目的も達成できない可能性がある。
したがって、今後の発展のためには、司法専門職及び司法関係者などの研修を継続的に強化し、分野横断的な協力(医療やソーシャルワーカーの専門的意見の導入など)を促進し、関連法律を定期的に検討する必要があると考えられる。
また、司法へのアクセス権の保障は、手続そのものに限定されず、物理的環境や情報取得のアクセシビリティも含まれると考えられる。将来、どのように科学技術(AIなども含め)を利用して法廷のデジタル化を推進し、それによって様々な障害のある当事者が審判活動に参加できるよう支援していくかは、今後取り組むべき重要な課題であろう。
*本稿は、「日本及び台湾における精神障害者等に対する自由の制限の司法関与——弁護士の立場から」研究の一部であり、同研究は日本住友財団「アジア諸国における日本関連研究助成」の助成を受けている。ここに感謝の意を表す。
【参考文献】
・司法院「障害者の司法アクセスに関する指針」(中国語)(最終閲覧日:2026年2月22日)
注/用語解説 [ + ]
(2026年08月06日公開)
