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『オアシス・インタビュー』第6回 阿部恭子 氏に聞く

加害者家族の悩みを整理し支援する

遅れている支援の法制化


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8 相談や支援で必要なスキルとは

—— そういう犯罪の原因まで探っていって、相談し支援していくためにはどんなスキルが必要ですか。

阿部 スキルは、探求心と根気です。あとは、多分、勉強は好きなほうがいいと思います。難しい話が多いので、資料とかも読まないといけないし、鑑定人の先生と話したりもしなければいけないから、法律の知識だけではなくて心理学も少しは知らないといけないので、そういうのを調べるのが嫌じゃなければ、十分やっていけます。
 逆に、既存の職業でない人のほうが向いている気がします。加害者家族支援は法律では枠付けられないし、動いてはじめて感触を確かめるみたいなこともすごくあります。

 また、事件に介入するにあたって、加害者本人の同意が必要です。家族は、その人に立ち直ってもらいたいと私に頼んでくるけど、面会に行ったら、「実はもう離婚したいと思っている。だから申し訳ないけど」と言われることもあります。相談の初期の段階で確認しなければならないことがたくさんありますので、それなりにフットワークは要ります。

 「やりながら学ぶ」です。私は自分が始めているから余計思いますが、例えば、「福祉を学んできました」と言って、その福祉を生かそうとすると、絶対この仕事には向きません。学んできたことを生かすのではなくて、事例で学んでいくからです。

9 弁護士との連携

—— 2018年に、山形県弁護士会が犯罪加害者家族支援センター(http://www.yamaben.or.jp/html/soudan14.html)を立ち上げましたが、相談はきているのでしょうか。

阿部 昨年の時点では10件程度だったと思います。あまり相談が来ない理由は、相談者が問題を整理しきれていないからだと思います。最初から法的な問題だと分かっていたら、弁護士に相談に行きます。
 「加害者家族になりました」というときに、家族にこれから何が起こるのかを知りたいわけです。刑事手続の流れはホームページを見れば分ります。例えば、夫が性犯罪を犯して、とんでもない、別れたい、離婚する、でも、財産分与とかいろいろあって、どのタイミングで離婚を言い出したらいいのかともちろん悩むと思います。しかし、いきなり財産分与のことを考えたりしません。

 まずはそういうことを勝手にしていいのか、離婚したら道義的な責任を問われたりしないのかとか、そういうことを加害者家族は思います。また、共犯者と疑われたりしないかと家族は不安をもってしまうので、これから起こり得ることを、われわれのほうできちんと示していく必要があります。われわれは、「おいおいこういうこともあるかもしれません。そうなったらその段階で弁護士さんを紹介します」というまだ法的な問題が固まっていない段階から相談にのります。いきなり弁護士のところに行っても、弁護士も受け入れられません。その意味で、相談に行きづらいのではないかというのは分かります。
 ただ、弁護士会が看板を挙げることに意義があると思っています。これは人権問題だし、相談が少ないから意義がないとは思っていません。

—— 加害者家族は弁護士にどんなことをして欲しいのでしょうか。

阿部 「弁護士に何を求めるか」というアンケートをワールド・オープン・ハートでもしていますが、ほとんどの加害者家族が弁護士に支援を求めていません。加害者家族の大きな願いは、「刑事弁護をしっかりやってください」と言っています。「刑事弁護をちゃんとやれていない人が多くないですか」と言っています。

—— そういう声は大きいですか。

阿部 私選・国選は関係ないかもしれませんが、接見に来ないとか、家族に全く連絡がなく、突然呼び出されて情状証人になるとか、裁判の見通しについての説明がないという不満が挙がっています。だから、加害者家族の支援より刑事弁護をしっかりまずやることが先決です。加害者家族支援は別に弁護士でなくてもできるわけです。本来は、弁護士でないとできないことをやって欲しい。もちろん刑事弁護をしっかりやっている先生はやっていると思います。「弁護士」一般という言い方はしたくないのですが、やれていない人も結構多いような気がします。

—— 不十分だという話は聞きます。弁護の質をどう上げていくかはなかなか難しい問題です。弁護士会では、弁護士の独立ということもあって弁護の質について議論がなかなか進まないのが現状です。それを解消するには、被疑者・被告人に国選弁護人を自由に選べるようにすればいいのではないかという意見もあります。

阿部 弁護士会でも何かやるというと、まとまるまでに時間がかかって大変です。われわれはそういった柵がないので、ある種試験的なことも進んでやってきました。ある意味、誰にも何も言われません。批判も責任も自分で全部引き受けるという意味で、リスキーなところがありますが、一方でいろいろな試験的なことがやれる自由さがあります。

「日本の裁判所は家族信仰が強い」と阿部恭子さんは指摘する(写真はイメージ)。

10 家族信仰が強い裁判官

—— 昨年、阿部さんは、幻冬舎から『家族という呪いー加害者と暮らし続けるということ』を出版されていますが、そこで日本の裁判所は家族信仰が強いということを書いていますが、それはどんなところに現れていますか。

阿部 刑事弁護を単にお金をもらうだけと考えている弁護人もいる一方で、逆に、すごく熱心な先生方もいます。そういう先生方とよく対立することがあります。言葉は悪いですが、熱心な弁護人ほど家族を利用します。例えば、保釈するのに家族が絶対必要だといいます。しかし、家族としては、家族だからそれは断ってはいけないのかなという思いがあります。家族が引き受けなければいけない義務はどこにもないのですけど、世間の目を気にして、いやいや引き受けるところがあります。

 弁護人のゴールは被疑者・被告人の刑が軽くなったり、身体拘束を早めに解くのが究極の目的ですが、家族の生活はずっと続くので、保釈させても家族に負担が掛かるようなら、あまりいいことにはならないです。そう考えると、われわれは、「保釈なんかどうでもいいから、断りなさい」と言うわけです。弁護人は、「いや、何とかしてください」と言う、そうしたせめぎ合いがあります。

—— 裁判実務では、身元引受人は必ず家族じゃないと通用しないようですからね。

阿部 弁護士うんぬんというより、そもそも裁判官に家族信仰が強くあると思います。家族というものを絶対的な存在と思っているようです。裁判官は情状証人に対して、別に細かいことを聞きませんが、「奥さんが来た」ということだけで納得している面があります。裁判官も、一定の年になったら結婚して子どもがいてみたいな家族関係をスタンダードにしていることが多いと思います。

—— そうですね。

阿部 だから、裁判官は当然、「親が子どもを監督するべきだろう」とか、「妻が夫を監督するべき」とか、「監督」という言葉が好きです。検察も当然そうだし、弁護人も裁判官に気に入られるようにそういう主張を作ります。でも、「監督」という言葉は不適切ではないかと思います。人を対等として見ていない、人間をちゃんと人間として見ないということの現れです。

—— そのとおりです。

阿部 だからその辺が家族の実情と合わないことがあります。でも、裁判官がそうなら弁護人としてはそう主張することはしょうがないです。
 われわれは「世間」に対して家族の無罪もしくは情状酌量を乞う。そのためにメディアにも出て、いかにこの犯罪行為は致し方なかったか、家族も被害を受け致し方なかったかということを世間に対して、「これ以上責めないでください。追い詰めないでください」と言わないといけません。弁護人たちは裁判の中で被告人のためにそれを訴えるけど、私は家族のために世間に訴えていくつもりです。

(2020年10月27日公開) 

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