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第3回

大江千束さん・小川葉子さんカップルと同性婚訴訟のストーリー

25年を経た今踏み出す、同性カップルの大きな挑戦


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今でも大変なこと(小川さん)/2018年

 この25年で、LGBTQをめぐる社会の報道は大きく変わった。情報量も急激に増え、「今はネットを通じて仲間を探すのも簡単になりました。一方で、今も変わらず生きづらさを抱える人もたくさんいます」と語るのは小川さん。

 「LOUDにも、『死にたい』って泣きながら相談の電話をくれた子がいました。その子に私は、自分が言ってもらったのとそっくりそのまま、同じことを言ったの。『一人だと思ってつらいよね。でもあなたが出会えていないだけで、仲間はたくさんいるよ。死ななくてもいいんだよ』って。『ネットでいろいろなことを調べなさい。世界が広がるから』って」

 ふたりは2018年9月に始まった中野区のパートナーシップ証明に登録した第一号。今ではLOUDをはじめとするさまざまな活動を通じて、LGBTQの相談を受ける側でもある。しかし彼女たちは今もまだ、生活に困難を感じる当事者でもある。

 「少し前に、病気を患い入院して治療を勧められたとき」と小川さん。「病院から『ご家族と暮らしていますか』と聞かれた。病気をして一番しんどいときに、同性のパートナーがいることを、どう説明したら良いのかと考えがまとまらなかった」

 小川さんは、入院を断念することになった。

 「始まったばかりですが、区のパートナーシップ証明の制度は一定の状況では考慮されるという話です。気持ち的にも、とても嬉しい。でもそれだけでは十分ではないんです」

 市区町村のパートナーシップ証明では、結婚している異性のカップルと同じ法律上の保護はない。結婚しているカップルのように、パートナーの一方が死亡したときに相続もできないし、税金や社会保障の面での優遇もなく、別れるときにも財産分与の権利はない。

 保険や福利厚生といった民間の手当てについても、結婚している異性のカップルと同じようには受けられない場合も多い。冒頭にふたりが「当初は対等な関係を求めていた」と言っていたのも、こうした背景を考えると頷ける。

大江千束さん(左)と小川葉子さん(右)

結婚制度を議論するきっかけになる(大江さん)

 「私たちには何かあったときに、家族として何の保障もされていないのです」不安を口にするのは大江さんだ。「私たちは今のままだと『世帯』とみなされない。そうすると震災のときにどうなるか。避難は世帯ごとに行うので、一緒に避難もできないんです。もう長年、生活を共にしているのに」

 「何かあったときのことを考えると、既存の結婚制度を使うことができればと思うのです」

 「とはいえ、私たちは、結婚するもしないも自由だという立場で考えていて、もともと結婚制度自体に、もろ手を挙げて賛成というわけではないんです」と大江さんは続ける。

 今の時代、結婚制度が必要だというのは自明のことではない。異性間でも結婚という形を選ばないカップルもいる。

 「そもそも、現行の結婚制度にも問題はあります。古い家制度の影響にも問題がありますが、一番大きいのは、制度の中にジェンダーの平等がないということ。現在はまだ女性と男性で婚姻が可能な年齢が違うし、女性にのみ再婚禁止期間がある。夫婦を同姓にするという決まりによって姓を変える多くは女性です」

 「私たちが同性同士で結婚することが、『美しい日本の家族像』に反すると言われることがあります。家族像って何でしょうか? 10家族あれば10通りの家族像があるはずですよね」

 「私たちは、同性婚の議論を始めることで、ジェンダーの不平等にも揺さぶりをかけたい。同性同士が結婚するとなると、夫婦別姓の議論も起こるでしょう。同性婚が既存の結婚制度にぶつけられることで、制度の問題点が明らかになり、家族のあり方に対する議論が生じることになります」

 日本の社会の歴史は、家族のあり方の変遷の歴史でもある。いわゆる「家族像」が画一化してきたのも戦後になってからにすぎないし、本当は「典型的な家族像」というものは存在しない。実はこの訴訟は、LGBTQだけの問題ではないのだ。

(2021年04月09日) CALL4より転載

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