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連載 裁判所書記官が見た刑事弁護

裁判所書記官が見た刑事法廷 第4回

法廷通訳

中村圭一 元裁判所書記官

 近年は、外国人の刑事事件が急増しており、法廷通訳人を必要とする刑事事件がかなり多くなってきています。しかし、それにも関わらず、必要とされる通訳人が足りていない状況にあります(特に中国語やベトナム語などは足りていない状況です)。そのため、信頼できる通訳人への依頼が集中しているのが現状で、特定の通訳人に過度の負担がかかっていると言えます。

 一方で、通訳人は事件ごとに選任されるため、収入が安定するとは言えず、通訳人への報酬もその仕事内容に比べれば決して十分とは言えないでしょう。中には、プロの通訳人としてのプライドからか、「他での通訳と比べ、裁判所での通訳は軽んじられており、待遇がよくない。もっと待遇を改善するべきだ」などと率直に主張してくるような通訳人もいました。

 このような状況ですから、通訳人のレベルにも相当な違いがあると思います。一度、自分が理解できる英語の場合に、「正確に訳せていないのではないか?」と感じたことがありました。また、全く理解できない他の言語については、通訳が適切になされているかを検証する方法がないのですから、なおさら怪しいと思ってしまうような場面もありました。

 このように、通訳人の確保は外国人の被告人の人権にも直結する大切な問題ですから、もっと法廷通訳人の存在を幅広く知ってもらい、通訳人をたくさん確保すべきなのですが、今ある外国人事件を処理するのに手一杯で、通訳人確保に十分な力が入れられていないのが現状なのです。

 ちなみに、法廷通訳人の希望者がいた場合には、通訳人の試験(研修)を各部持ち回りなどで実施する必要があり、かなり準備が大変でした。私も主任書記官として担当したことがありますが、通訳するための模擬裁判を実施する必要があり、その際の講師側の通訳人に、シナリオの英訳や配役をお願いしたところ、「そんなことを講師に頼むなんて失礼だ」などと断られたため、私がシナリオを英訳し、私自身が英語で配役をせざるを得ないこともありました。

 法廷通訳はこのような現状なのですから、弁護人としては、通訳人がついているから安心と思うのではなく、被告人の人権に関わる重要な問題だという認識を持って、本当に被告人と通訳人のコミュニケーションが適切に図られているかどうか等を含め注視しておく必要があると思います。

(2022年07月20日公開) 


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