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『オアシス・インタビュー』第8回 奥田恭正さんと弁護団 に聞く

【前編】DNA型データ等抹消請求訴訟 逮捕される前の状態にもどりたい

捜査等違法国賠訴訟・DNA型データ等抹消請求訴訟


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拘束中、自分の薬局がどうなってしまうのかが一番不安だったと語る──奥田恭正さん(2022年3月30日、あすなろ法律事務所にて)

 2022年1月18日、名古屋地方裁判所(西村修裁判長)は、無罪判決を受けた男性が警察の保管する本人の顔写真、指掌紋、およびDNA型の各データの抹消などを求めた訴訟で、人格権に基づいてその抹消を認める判断をした。この種の訴訟では、これまで7件あったが、すべて国が勝訴している。その意味でも、今回の原告勝訴は画期的なものである。

 当事者の奥田恭正さんとその弁護団に、発端となった刑事事件(無罪)とこの抹消請求訴訟について聞いた。

1 DNA型データ等抹消請求訴訟までの経過

—— この抹消訴訟の「前史」は、奥田さんに対する刑事事件です。低層住宅が建ち並ぶ地域に15階建高層マンションの建設計画が持ち上がって、その反対運動を奥田さんら近隣住民が起こした。その住民運動の中で起こった奥田さんに対する刑事事件です。この事件は、2016年10月、そのマンションの工事現場で、奥田さんが工事の現場監督の胸を両手で突き飛ばしてその背中を徐行中のダンプカーの側面に接触させたとして、暴行罪の現行犯で逮捕されたというものです。その最初の事件について、詳しくお話をお聞きしたいと思います。

 連絡を受けて到着した警察官が「暴行」を防犯カメラの画像で確認して現行犯逮捕までに40分ぐらいです。何かすごく手際がいいなと感じます。

國田 逮捕される前から、奥田さんを中心とした住民たちはマンション建設反対の運動をやっていました。そのため工事の建設業者側が、それを業務妨害だということで警察にそれまでに相談に行っていたんですね。

 今回は、現場監督が「(奥田さんから)暴力を受けた。危険なダンプカーの動いている所に押し出された」ということで、警察が臨場して、奥田さんの言い分も十分聞かないまま暴行罪で現行犯逮捕した。事前に警察と業者側との間で、「何か事が起きたら臨場する」というような約束事があったと思われます。

塚田 警察が現場に到着したとき、奥田さんから暴行されたという現場監督が防犯カメラのほうを指さして、「そこに映ってる」と警察官に伝えて、すぐ警察がその画像を確認して逮捕という流れだったので、手際は非常に良かったと思います。

國田 奥田さんらにしてみれば、低層住宅の地域にいきなり15階建・高さ約45メートルの建物が目の前に建つわけですから、日当たりが悪くなったり、圧迫感、建築中の騒音など公害を受けることは明らかでした。私たちは建設会社との事前交渉や建築許可を出した市との交渉で、以前は5階建ての社員寮が建ててあったこの場所ですから、「せいぜいその程度にしてくれ」とお願いしていたのですが、業者は採算の関係もあってか15階建てということで強行したのです。

 そこで、住民は反対運動をして、そのリーダーの一人として奥田さんが頑張っていた。当日も、奥田さんが建築現場の状況を見ていた中で起きた事件で、突発的に起きたものです。

塚田 その現場監督は、防犯カメラに映る位置で奥田さんに押されたようにわざと振る舞って、自らダンプカーのほうにぶつかっていったんじゃないかというのがこちらの主張です。だから、言葉は悪いですけど、はめようとしていて、それがちょうどその機会にうまいことはまったというのがこちらの見立てです。

國田 奥田さんは身柄拘束のまま暴行罪で起訴されたので、私たちはすぐに保釈請求しました。保釈決定の中で、「建築関係者の人と会ってはいけない」という保釈条件が付きましたから、裁判で無罪判決が出るまで約1年半は、奥田さんは建築関係の現場に行って先頭に立って抗議活動ができなくなった。その面では向こうのもくろみは功を奏しているんです。また、奥田さんが逮捕されたことで、他の抗議していた人たちを萎縮させる効果は十分あったといえます。

塚田 現場監督がその場でわざと倒れたというのも、全然根拠のないことではありません。防犯カメラの画像を見ると、仮に現場監督の言うとおり本当にぶつかっているとしても、明らかに右肩がぶつかっているように見えます。左肩がぶつかっているということはあり得ない。それなのに、診断書は左背部打撲というのです。その点も不自然な事件です。

 刑事事件では、画像分析の専門家である橋本正次教授(東京歯科大学法歯学・法人類学講座)が、双方の体の動きについて画像分析をしてくださった。その分析においても、現場監督の動きは不自然であると指摘されています。

—— 奥田さんにお聞きします。逮捕されるのは初めてでしたが、そのとき、どのように思いましたか。

奥田 私自身は何もやっていないですから、「警察にちゃんと行って話します」というつもりでその場にいました。警察は私が逃亡の恐れがあるというんですけど、現場監督と接触したあと警察が来るまでは何分かありますし、逃げようと思えば逃げることはできます。しかし、そんな気も何もなかった。薬局を経営していたので、その日も仕事があるので、「経営している薬局に午前中は行かせてくれ」と言っただけです。警察は「駄目だ。逃げるつもりじゃないか」ということで現行犯逮捕した。そのときは、警察に行って話せば分かってくれるという気持ちでした。

—— 警察に実際に行ってみたらどうだったんですか。

奥田 「事態の重大さがあなたは分かってない」と刑事に言われまして、「そういうもんか」と思いました。

—— その逮捕段階で、顔写真、指掌紋、DNA型(口腔細胞)の各データを採られたんですか。

奥田 刑事から「この部屋に来い」と言われて、「ここに立って」ということで写真を撮られ、つぎに「手を出せ」と言われて指掌紋を取られ、さらに綿棒を渡されて「口開けなさい」と言われ、という流れで、何の説明もなくDNA型(口腔細胞)を取られました。

—— 刑事訴訟法では、逮捕されると顔写真と指掌紋については採取するという規定(218条3項)がありますが、DNA型データの採取に関する法律は一切ないのですね。つまり、拒否はできます。

奥田 当時は任意なのかどうかということ自体も分かんないです。「やらなあかんのか」と思うぐらいの認識しかなかった。

—— それについての説明は、全くなかったということですね。

奥田 何もないですね。

すでに完成した高層住宅の前で、事件当時のことを話す奥田さん(2022年3月30日)

—— 國田さんは、最初から弁護人として受任されたんですか。

國田 はい。逮捕されてすぐに接見に行って、勾留請求も「しないように」と検察に申し入れをしましたが、検察官が勾留請求(このときは傷害罪)したことで準抗告して争った。それも駄目だったことから、勾留理由開示請求をしました。

 「逃亡の恐れ」といいますが、家庭もあって、薬局も3店舗経営してるのに、どこに逃げるって言うんだと、勾留理由開示で私たちも主張したんだけど、裁判所は「逃亡の恐れあり。罪証隠滅の恐れあり。」として勾留を認めました。さらに裁判所に勾留取消しも求めたのですが、それも通らず、結局、10日間、勾留されて、さらに裁判所は4日間の延長を認めました(検察の延長請求は7日間)。

 奥田さんは、警察から「おまえ、そんなに否認するな。カメラに映ってるんだから」と盛んに言われた。警察は本人に認めさせて、罰金で終らせる事案という形で簡単に持っていきたかった。ところが、こっちが頑張ったということで、この歴史的な判決に結び付いたんだと思います。

(2022年11月10日公開) 

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