連載 刑事司法における IT 利用の光と陰

刑事司法におけるIT利用の光と陰
第18回

連載終了にあたって──馬の旅から月旅行へ

指宿信 成城大学教授


(政府は)携帯電話に保存されているすべてのデータの捜査は、この種の物理的な物品(タバコの箱、財布、住所録など)の捜査と『実質的に区別できない』と主張する。…… それは、馬による旅と月飛行が物質的に区別できないと言っているようなものだ。どちらもA地点からB地点への移動手段ではあるが、それ以外に両者をひとくくりにする正当性はほとんどない。

ロバーツ合衆国最高裁長官の個別意見(ライリー判決〔2014年〕より)
1 はじめに

 冒頭に掲げている合衆国最高裁のロバーツ長官の言葉は、第15回「スマホへのアクセス」で“スマホ例外論”を検討した際に紹介したライリー判決において、政府側(検察側)が唱えた、被逮捕者の所持品に対する無令状捜索を合憲とした先例に依拠して、被逮捕者のスマートフォンも同様に無令状で捜索実施可能であるという主張を退けた際の意見の一節です((Riley v. California, 573 U.S. 373 (2014). 同判決に関する邦語文献として例えば、緑大輔「逮捕に伴う電子機器の内容確認と法的規律―Riley判決を契機として」一橋法学15巻2号(2016年)163頁、小早川義則「アメリカ刑事判例研究(48) Riley v. California, 573 U.S., 134 S. Ct. 2473(2014年6月25日):警察官は一般に、令状なしに、適法に逮捕された個人から押収された(セル式)携帯電話に記憶されているデジタル情報を押収できない」名城ロースクール・レビュー37号(……

(2023年12月09日公開)


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