連載 再審法改正へGO!

連載 再審法改正へGO! 迅速・確実な冤罪救済のために
第11回

再審における「前審関与」問題

鴨志田祐美(日弁連再審法改正実現本部 本部長代行)


1 特別抗告審の判断が待たれる日野町事件と大崎事件

 袴田事件の再審公判は大詰めを迎え、5月22日に検察官の論告と弁護人の弁論が行われ、結審する見込みとなりました。この日に判決日が指定されることで、いよいよ袴田巖さんが再審無罪のゴールにたどり着く日の近いことを実感できそうです。

 その一方で、過去に再審開始方向の判断がされながら、いまだ再審公判にたどり着けず、最高裁で特別抗告審の審理が続けられている事件があります。

 一つは、2018年7月に大津地裁で再審開始決定が出され、検察官の即時抗告を受けた大阪高裁も2023年2月に再審開始を維持した日野町事件(第2次再審)です。検察官がさらに特別抗告を申し立てたため、最高裁第二小法廷に審理が係属し、高裁決定から1年以上が経過した現在もなお、判断がされていません。

 もう一つは、第3次再審で地裁・高裁の重ねた再審開始決定を2019年6月に最高裁第一小法廷が取り消し、再審請求を棄却した大崎事件です。第4次再審では、第3次の最高裁決定が「被害者の死亡時期が明らかになっていない」と難癖をつけた点を解明し、被害者は確定判決による殺害時刻にはすでに死亡していたことが確実であるとする救命救急医の鑑定を新証拠として提出しましたが、請求審の鹿児島地裁も、即時抗告審の福岡高裁宮崎支部も、第3次の最高裁決定に追従して再審請求を認めませんでした。現在最高裁第三小法廷に特別抗告審が係属しています。

 日野町事件と大崎事件は、いずれも同一事件でありながら、担当裁判体によって証拠開示に向けた訴訟指揮がされたりされなかったりしたという「再審格差」に翻弄され、また、検察官の不服申立てによりいたずらに審理が長期化し、救済を妨げられているという共通点があります。そして、二つの事件は、再審法の不備がもたらした更なる理不尽を、ともに経験しています。

 それは、再審における裁判官の「前審関与」の問題です。

2 再審請求審における「前審関与」に関する判例

 通常審では、「裁判官が事件について第266条第2号の決定、略式命令、前審の裁判、第398条乃至第400条、第412条若しくは第413条の規定により差し戻し、若しくは移送された場合における原判決又はこれらの裁判の基礎となった取調べに関与したとき」は職務の執行から除斥される、とされています(現行刑訴法20条7号)。いわゆる「前審関与」と呼ばれるものです。同一事件の取調べや判断に関与した裁判官が上訴審に関与すれば、すでに心証を形成していることによって、公平な判断ができず、裁判の公正を疑わせることから、一律に排除する規定が置かれているのです。

 ところが、確定審の審理に関与した裁判官や、数次にわたる再審請求で過去の再審請求に関与した裁判官が、同一事件で新たに申し立てられた再審請求に関与することについては、これを明文で除斥する規定がありません。この点について、確定第一審に関与した同じ裁判体がそのまま当該事件の再審請求を審理した事例で、最高裁は「刑訴法20条7号にいわゆる前審の裁判とは、上訴により不服を申し立てられた当該事件のすべての裁判を指称するものであつて、再審は上訴の一種に属しないのであるから、(中略)確定判決となった第一審の審理に関与した裁判長裁判官池田惟一、裁判官田上輝彦、裁判官藤原寛が、さらに本件再審請求事件の審理に関与しても、前審の裁判をした裁判官として再審請求事件の審理手続より除斥されるものではない」と判示して弁護人の特別抗告を棄却しました1)

3 再審における「前審関与」の実情2)

 最近でも、確定審や以前の再審請求に関与した裁判官が、同一事件について後に申し立てられた再審請求事件に関与したり、関与しそうになった事例は複数あります。

 冒頭で述べた二つの事件は、まさにそうしたケースなのです。

 大崎事件では第3次再審の地裁、高裁の審理がスピーディに行われた結果、検察官の特別抗告によって審理が係属した第一小法廷には、第二次再審のときに同じ第一小法廷で弁護側の特別抗告を棄却した池上政幸判事が留任していました。第3次再審がよもやの開始決定取消し、再審請求棄却で終わったことを考えると、第2次再審で再審請求を棄却した池上判事の関与は問題だったと言えるでしょう。このときは、弁護人も池上判事の留任に気づかず、回避の申立てをしていませんでした。痛恨のミスだったと思います3)

 そして日野町事件では、第2次再審の即時抗告審が係属していた大阪高裁第2刑事部に、2020年6月、第1次再審請求審で再審請求を棄却した大津地裁の裁判長だった長井秀典判事が着任し、本件の裁判長を務める意向であることが伝えられました。当然のことながら、これには再審請求人(元被告人である阪原弘さんの遺族たち)や弁護人が猛反発、日弁連も抗議声明を発出し4)、マスコミも一斉に批判したことから、同事件の審理は第3刑事部に配点替えになりました5)

 さらに死刑執行後の再審請求である飯塚事件の第1次再審でも、確定一審の主任裁判官だった柴田寿宏判事が即時抗告審の裁判体に関与していたことが判明しています6)

4 日弁連の改正案

 前述の判例は60年以上前の、白鳥決定よりも前の決定です。再審請求における新証拠の明白性の判断は「新旧全証拠の総合評価」によるべきとされた最高裁白鳥・財田川決定を前提とすれば、再審請求を審理する裁判所は、確定審の心証を引き継ぐのではなく、新旧全証拠の総合評価の中で有罪認定を支える旧証拠の再評価を行うことになります。かつて確定審で有罪心証を形成した裁判官が、予断を持たずに新証拠の明白性を判断できると言い切れるでしょうか。また、過去に同一事件の再審請求で棄却決定をした裁判官も同じです。いくら累次の再審ごとに新証拠は異なるといっても、やはり新旧全証拠の総合評価の場面でかつての判断に引きずられるリスクはあるでしょう。

 何より、同じ事件の判断に関わった裁判官が再度判断の場に加わることが、裁判の公正・公平に疑義を生じさせ、ひいては司法に対する国民の信頼を揺るがすという重大なリスクを回避するためにも、そのような場面を法で一律に排除すべきです。

 そこで、日弁連意見書では、現行刑訴法の除斥・忌避を定めた刑訴法第1編第2章の規定は、再審請求手続にも準用されることを明確にしました(438条の2)。

5 おわりに

 筆者はここのところ、再審法の不備について、国会議員と議論する機会が増えましたが、再審請求における証拠開示、再審開始決定に対する検察官抗告と並んで、この「前審関与」の問題は深刻だと感じている国会議員が多いことを実感します。

 法改正実現の際には、ぜひともこの問題に手当てがされることを期待したいです。


【関連記事:連載「再審法改正へGO!」】
第10回 名張事件にみる再審法の不備と日弁連の改正案 その2
第9回 名張事件にみる再審法の不備と日弁連の改正案 その1
第8回 再審に証拠開示のルールを! その4

注/用語解説   [ + ]

(2024年05月07日公開)


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