韓国刑事法の動き 第2回

韓国刑事法の動き 第2回

韓国刑法の特徴と最近の傾向

金台明(全北大学校法学専門大学院教授)
安部祥太(日本語訳)

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 韓国では、家族倫理にも相当な変化があり、このような変化も刑法に反映された。1953年制定当時の刑法は、尊属殺人罪、尊属傷害罪、尊属暴行罪、尊属遺棄罪、尊属虐待罪、尊属逮捕・監禁罪、尊属脅迫罪など、直系尊属に対する犯罪を一般の犯罪よりも加重処罰する多様な規定を置いた。その中でも、尊属殺人罪は、法定刑を「死刑又は無期懲役」と規定していたため、特に多くの論議を呼んだ。

 そのような中で、1995年刑法改正では、尊属殺人罪の法定刑が「死刑、無期又は7年以上の懲役」へと変更された。しかし、卑属に対する犯罪は加重処罰せずに、直系尊属に対する犯罪のみを加重処罰することは、憲法上の平等原則に反するという批判が引き続き寄せられた。また、出生率が極めて低く、超高齢社会に突入した韓国において、通常の殺人罪や遺棄罪と比べて嬰児殺人罪と遺棄罪の法定刑を軽く規定していることに対しても、多くの批判が寄せられていた。そして、2023年になって、嬰児殺人罪と嬰児遺棄罪が廃止されるに至った。最近では、直系尊属が直系卑属を殺害する等の行為を加重処罰することを内容とする刑法改正が推進されたりもした。

 韓国社会では、尊属や嬰児に対してだけでなく、家族関係全般に対する認識に大きな変化があった。1987年に改正された大韓民国憲法は、「婚姻と家族生活は、個人の尊厳と両性の平等を基礎として成立し、維持されなければならず、国家はこれを保障する。」という規定を置いている(36条1項)。そして、家庭内で発生する暴力行為を処罰して被害者を保護するために、「家庭暴力犯罪の処罰等に関する特例法」や「家庭暴力防止及び被害者保護等に関する法律」を制定・施行している。これらの法律は、これまで家族間の問題として放置されてきた家庭内暴力行為を犯罪として明示した点で、大きな進展をもたらした。また、家庭内暴力行為者に対して刑罰や保安処分を科し、家庭内暴力被害者を保護する措置を規定したことは、これまでの家族関係に対する社会的な認識の変化を反映したものであった。

 2025年には、家族間で行われる窃盗、詐欺、恐喝、横領、背任、盗品等の財産犯罪の処罰に関する特例規定(親族相盗例)を大幅に修正した。2025年改正前の刑法は、「直系血族、配偶者、同居親族、同居家族又はその配偶者間」の財産犯については被害者の意思にかかわらず刑を免除し、その他の親族間の財産犯については親告罪と規定していた。韓国では、数年前、ある有名芸能人が苦労して稼いだ多額の金銭を自身の兄弟に奪われる事件が世間を騒がせた。この事件を機に、金銭を奪った家族を処罰できないようにする親族相盗例の規定に対して、社会的な批判が向けられた。2025年改正は、このような世論を踏まえたものである。この改正によって、親族間の財産犯を親告罪に変更するとともに、自己または配偶者の直系尊属について告訴できない旨を定めた刑事訴訟法の規定の適用を除外した。

 その他にも、韓国は、社会的弱者を犯罪から保護するための各種処罰規定を置いている。その代表例は、児童虐待犯罪の処罰等に関する特例法、ストーカー犯罪の処罰等に関する法律、ストーカー防止及び被害者保護等に関する法律などである[1]。また、老人福祉法、障害者福祉法、児童福祉法、発達障害者法などの各種法律も、社会的に脆弱な立場に置かれた者に対する犯罪を処罰する特別の規定を設けている。

3 社会の変化に対処するための各種特別刑法の量産

 すでに述べたように、1990年代初頭から、各種の性犯罪の実情がマスメディアによって報じられた。それにより、性暴力犯罪に対して厳罰を求める世論が形成された。これを受けて、韓国は、刑法だけでは日増しに凶悪化する性暴力犯罪に効果的に対処することが困難であると判断し、1994年に性暴力犯罪の処罰及び被害者保護等に関する法律を制定するに至った。この法律は、刑法に規定された強姦とわいせつの罪に対する処罰を強化するものである。その他にも、業務上の偽計・威力を用いたわいせつ(職場内セクハラ)、通信媒体を利用した性搾取(わいせつ)行為、公衆密集場所におけるわいせつ、性的目的に基づく公衆場所への侵入、カメラ利用撮影に対する処罰規定を設けている。

 また、直系尊属に対する告訴制限の廃止、飲酒・薬物による心神喪失状態で行った性暴力犯罪に対する刑の減免の排除、未成年者が成年に達するまで未成年者に対する性暴力犯罪の公訴時効の停止、DNA型鑑定結果のような確実な証拠が存在する場合の公訴時効の延長、性暴力犯罪被疑者の顔写真などの身上情報公開、性犯罪者身上情報の登録・管理など、刑法や刑事訴訟法の特例規定を置いている。

 2000年代に入ると、児童・青少年を対象とした凄惨な事件がマスメディアによって報じられた。そして、性犯罪に対する国民の不安感が増幅し、性暴力犯罪に対する厳罰を求める声がさらに高まった。これを受けて、韓国は、児童・青少年の性保護に関する法律、位置追跡電子装置装着等に関する法律、性暴力犯罪者の性衝動薬物治療に関する法律などの特別法を制定した。これらの法制によって、性犯罪者の身上情報公開・告知、就業禁止・制限、位置追跡電子装置(電子足輪)装着、性衝動薬物治療(化学的去勢)などの性暴力犯罪に対する強力な制裁手段を次々と導入した。また、治療監護法の改正によって、性心理障害・心理的性障害(psychosexual disorders)を持つ性暴力犯罪者も治療監護に処することができるようにした。

 韓国において、犯罪と刑事制裁に関する大部分の規定は、刑法ではなく個別法令——すなわち、特別刑法に規定されている。韓国は、1953年刑法制定に先立つ1948年に、国家保安法を制定した。1953年刑法制定の後も、軍刑法、暴力行為等の処罰に関する法律、特定犯罪加重処罰等に関する法律などの特別刑法を制定した。この他にも、社会的必要性が提起されるたびに、特定経済犯罪加重処罰等に関する法律、租税犯処罰法、性売買斡旋等行為の処罰に関する法律、児童虐待犯罪の処罰等に関する特例法、ストーカー犯罪の処罰等に関する法律、重大災害処罰等に関する法律、火炎瓶の使用等の処罰に関する法律など、多数の特別刑法を制定した。

 韓国は、社会問題が発生するたびに、基本法である刑法ではなく、特別刑法を制定・改正することによって対処してきた。そのため、時間の経過とともに、各種の特別刑法の法令数や内容が膨大なものになっている。このような特別刑法の大部分は、刑法上の法定刑を加重したり、個別の類型の犯罪を新設したりすることを内容としており、刑法体系の混乱や二重処罰・過剰処罰などの問題を引き起こしている[2]

注/用語解説 [ + ]

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(2026年06月12日公開)


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