〈再審法改正〉7月17日、再審制度を見直す78年ぶりの刑訴法の政府改正案可決。冤罪被害者の救済が遅れるさらなる危険を孕む

粟野仁雄 ジャーナリスト


参議院本会議で再審法改正案が可決した直後に会見した周防正行氏(左端)、鴨志田祐美氏(中央)、村山浩昭氏(2026年7月17日、撮影/粟野仁雄)

 7月17日、刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(改正再審法)が参議院本会議で、与党と参政党、日本保守党などの賛成多数で可決・成立した。立憲民主や国民民主、公明各党は反対した。

 「法務省は私たちの方を向いていないように思います。私たちの訴えを聴いてくれたのかどうか。もう少しまともな改正をしてくれると思った。がっかりです」(袴田巖さんの姉・ひで子さん)。

 「納得していません。証拠の全面開示は基本。これが我々の思うようにはなっていない。運用をしっかり監視していく必要がある。諦めておりません、抗告の全面禁止、証拠の全面開示、開示証拠の目的外使用の禁止の撤廃を目標に頑張っていきます」(日野町事件の阪原弘さんの長男・弘次さん)。

 「残念。運用で使っていくしかないが、それで証拠開示の適正な運用がなされるのかどうか。問題があれば5年後の見直ししかない、国民の関心が高まったので関心を持ち続けてほしい」(参議院法務委員会の参考人として「証拠リストの開示」などを主張した田岡直博弁護士)。

 7月17日午後、3人は東京の司法記者会とのリモート会見で遠方から無念の思いを話した。

 この場で急遽会見したのは 鴨志田祐美、村山浩昭両弁護士、さらに映画監督の周防正行氏の三人。直前の参議院本会議で政府案が賛成多数で可決されたが、16日に参議院法務委員会で可決され事実上決まっていた。

 「落ち込んでたけど気力を振り絞ってきました」と打ち明けた鴨志田さんは多くの人の協力に感謝し「私が関わった12年前は日弁連でも再審制度問題は注目されていなかった。与野党を超えた熱い思いで山が動いた。1センチかも5ミリかも知れない。動いたものは慣性の法則で動き続けます」と評価した。

 しかし「待ち焦がれた景色は想像と違った。望んだ形にならなかった無力を痛感します。証拠開示は開示ではなく裁判所の命令になってしまった。不服申立て(抗告)に例外を残し、目的外使用の禁止などという余計なものが入った。すべて検察お任せの法案。関連性も検察が判断、抗告の例外も判断は検察。開示証拠の目的外使用の禁止も判断は検察。毎日のように検察官の不祥事が報じられているのに」と好機を生かせないことに歯嚙みし、「すべてを検察権限に委ねる法案にしてしまった立法府の責任は大きい」とした。

 それでも「見送ったらよかったとは思わない。450条から448条1項の再審開始決定で抗告できるという条文が削られたことは大きい。私が担当する大崎事件で再審開始決定があっても検察は抗告できないでしょう」とした。

福井女子中学生殺人事件の検証報告書に怒り

 村山氏は「一定の範囲で検察に証拠を出させるのは前進。しかし、本来求めていたものからは程遠い。証拠提出命令にとどまって一歩も動かなかった。私も法制審委員もしていたが法務検察主導で国会でもそのまま。法務省の壁は厚かった。自民の中で、法制審では触れなかった不服申立てで条文が入ったのは稀に見ること。しかし衆議院、参議院の議論は残念ながら、条文上の改正はなく、衆議院は付則についての改正が入っただけ。参議院では付則もなく付帯決議だけ、政治的に敗北した」と総括した。

 5年後の見直しについては「証拠開示が運用でこれまで以上に開示されるのか懸念。運用で確立できる範囲ならどこまで開示されるかを本気で探る先に次の法改正がある。法務省の答弁に検察官が反することをしていないか見るべきで、不服申立ての例外が本当に機能するのか。まずこれが問われる」とした。そして「法務検察の答申を国会が乗り越えられなかった」と残念がった。

 村山氏は名古屋高等検察庁が公表した福井女子中学生殺人事件の検証報告書について「夜のヒットスタジオのことを書いた捜査報告書を検察が出さないのは問題とはしているが、出すべきだったとも違法とも言ってない。不服申立ては『異議審が認めたから根拠があった』と言っている。騙しで裁判所(名古屋高裁金沢支部)にひっくり返させておいて、ひっくり返ったから十分な根拠があるとする。そういう報告書を許していいんですか」と怒った。

 「この先、裁判官にパワーを与えないでどうするんですか。証拠開示については裁判所の裁量による決定をどうしても入れてほしかった」などと話した村山氏。

 最後に「三つのK」と称して「関心を持ち続け、監視してください 私たちと共闘してください」と強く訴えた。

 2011年の「法制審議会―新時代の刑事司法制度特別部会」の有識者メンバーだった周防正行氏は「2014年に村山さんが袴田巖さんの再審を決定して釈放したのに法制審は一切触れなかった。法務省得意の『個別事件に踏み入らない』でスルーされ、市民運動で議員立法を目指した。超党派議員連盟の議員立法が成立かと思ったら法務検察がかすめ取るように、答申名目で法制審の法案を作成。自分らが危ういと思った瞬間であっという間でした」と経緯を振り返った。そして「今回、結局はすべてを検察に委ねるという法改正で終わった。強すぎる検察のあらゆる権限が立法にも及んでいることがわかった」とした。

 「5年後」についてはいかに信じられないかを例示した。「新刑訴法が制定された時、3年後に見直すとされた。法務省は取調べの録音・録画の範囲について3年後にデータを踏まえて対象を増やすとしていた。村木厚子さんと私はそれで妥協したので見守っていた。3年目に村木さんと要請書を出したがマスコミは無視し、いまだに進展していない」とし、ある元検察幹部が「これ以上の拡大はない。現場の検察官に負担をかけられない」と言い切ったことを怒りを込めて明かした。

衆議院法務委員会の参考人招致をキャンセルした前川彰司さん(青いシャツ)(2026年7月1日の国会デモで、撮影/粟野仁雄)

心に響いた福井女子中学生殺人事件被害者の姉の声

 3日前の7月14日。1986年に起きた福井市で起き女子中学生殺人事件の冤罪被害者・前川彰司さんが参考人として登場すると知り、筆者は神戸から始発で駆け付けた。ところが、国会に着くと前川さんが「17日に採決されてしまうなら自分が出ても意味はない」と周囲に漏らし、前川さんがキャンセルしたことを知る。法務委員会を傍聴したり、大阪などの集会に駆け付けたり積極的に動いていた前川さんは少し前も来る意欲を見せていた。しかし、支援者らが電話しても切られており、筆者もかけたが出なかった。

 だがこの日、殺された女子中学生(当時中3)の姉、大橋宏子さんが参考人として登場した。

 「当時、私は18歳でした。両親は離婚しており、私はお父さんと暮らしていた。妹はお母さんと暮らしていた。私もお母さんと暮らしていればあんなことは起きなかったのではと悩んでいた」と話した。そして「罪のない前川さんを恨んでいたとわかり、苦しく申し訳なかった。でも(無実の証拠を示す捜査報告書が)最初から出ていれば、真犯人が見つかったかもしれない」と話し、「前川さんと2回面会した。握手してくれて嬉しかった」などと打ち明けた。

 「開示証拠の目的外使用禁止」について議員に問われると「テレビの放映日のことなんか全然プライバシーに関係ないはず」として一律禁止に反対した。知的障害があると打ち明けていた彼女は、長い質問には「わからない」と正直に答えたが、朴訥な語りは前川さんの不在を補うインパクトを与えてくれた。

7月14日の参議院法務委員会で、参考人として答弁する大橋宏子さん(参議院インターネット審議中継より)

 この日、犯罪被害者の支援に尽力している宇田幸生弁護士も与党側参考人として「犯罪被害者は別の所に出されるなんて思っていない。性犯罪被害者のプライバシーがSNSなどで拡散されると取り返しがつかない。開示証拠の目的外使用は一律に禁止すべき」などの観点から政府案への賛成を表明した。

 衆議院の法務委員会も法務省はこれしかないのかと思うほど、犯罪被害者支援の弁護士を参考人招致していた。しかし、この日、大橋さんは「犯罪被害者と冤罪被害者が対立するのではないと思う」と話した。肉親を殺された人が冤罪被害者に対する共感を表した姿は感銘を与えていた。

意に反した採決で涙

 7月16日の衆議院法務委員会はトップバッターとして泉房穂氏(無所属)が「開示証拠を目的外使用しても弊害など起きなかった」などと、冤罪被害者救済が第一であることを強調した。しかし、いつもの賑やかな調子ではない。新潟選出の打越さく良議員(立憲民主)は「前川さんは司法に絶望したのだと思います」などと話した。参政党と日本保守党は再審制度に無関係な質問でお茶を濁した。

 午後からは高市早苗首相が登場。「誤判からの確実な救済と手続の円滑化・迅速化を図るもので、再審制度を大きく前進させる」と衆議院と同様、理解を求めた。採決を見届けて立ち去る時に筆者の前で傍聴していた石川早智子さん(狭山事件の石川一雄さんの妻)が近寄ると、腰を低くして頭を下げて退出した。首相も平口洋大臣も、議員に何を訊かれても官僚のメモの棒読み。衆議院で参政党が政府案に賛成し、参議院での逆転は難しく、衆議院委員会員会の熱は冷めていた。

 小林さやか議員(国民民主)は修正案を支持するかのような質疑をしながら採決では政府案、修正案の双方に反対した。訳がわからない。

 衆議院法務委員会では小竹凱衆議院議員ら国民民主は修正案に賛成していた。熱心に参議院法務委員会を傍聴に来ていた『稲田の乱』の稲田朋美衆議院議員(自民)が涙顔の小林議員を慰めていた。党議党則に縛られる辛さは政党を超えて共感できるのか。

7月16日の衆議院法務委員会に出席した高市早苗首相(参議院インターネット審議中継より)

捜査側の「目的外使用」

 開示証拠の目的外使用について共産党の仁比聡平議員(弁護士)が「警察だって記者にリークしている。袴田事件では血染めのシャツなどとしていたじゃないですか」と追及したのは愁眉だった。

 警察や検察担当の記者は特ダネを求めて競争する。そこを見透かした捜査当局が餌を撒く。袴田事件では当初、血痕など鑑定もできないパジャマを犯行着衣として記者にリークしていた。

 検察・警察は自らがしていることを棚に上げて、開示証拠の目的外使用の一律禁止で弁護士などの委縮を狙っている。

 日本新聞協会は17日、「報道機関への情報提供に委縮が生じ、再審請求審がさらに不透明なものになることを深く危惧する」などの声明文を発表した。

 最後になったが、刑事司法の場で使われる「証拠」という言葉は一般の人が考える証拠とは違う。

 四十数年前、新米記者だった筆者が岡山地裁で刑事法廷を初めて取材した時、裁判長が「それでは検察官、証拠を提出してください」と言うから凶器でも出てくるのかと思ったら、検事は供述書を提出した。「なんで取り調べた側が勝手に書いた文章が証拠なんや」と違和感を持った。

 今、大川原化工機事件、志布志事件などで不正だらけの調書を作る捜査当局を見るにつけ、違和感は正しかったと信じている。

◎著者プロフィール
粟野仁雄(あわの・まさお) 
 1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部卒。共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『瓦礫の中の群像 阪神大震災』(東京経済)、『アスベスト禍』(集英社新書)、『「この人、痴漢!」と言われたら』(中公新書ラクレ)、『検察に殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)など多数。近著に『袴田巖と世界一の姉——冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い』(花伝社)。神戸市在住。

(2026年07月21日公開)


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