連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告<br>第15回——事例報告⑭ 住居侵入、窃盗被疑事件

連載 取調べ拒否! RAIS弁護実践報告
第15回——事例報告⑭ 住居侵入、窃盗被疑事件

ただ「行かないだけ」

八木康介(京都弁護士会)


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事案の概要

 本件の被疑事実は、依頼者が京都市内の某所に侵入し、財布等を窃取したというものであり、その後、同種事件で2回再逮捕・勾留された。

 依頼者は、同種前科での服役回数が片手を超えるいわゆる「ベテラン」であり、前回の服役以前から面識がある人物である。本件逮捕に至る前にも受任したことがあり、当時から、「デコ(警察)が嫌い」「話すのも嫌だ」と言っていた。それでも以前は取調べに応じていたらしいが、私が彼の事件を担当することになり、「取調べに行きたくなければ、行かなくてよい」と説明をしてからは、(弁解録取を除いて)彼はただの一度も取調べに応じたことはない。

 なお、彼は、勾留質問にさえ行かないときもあったため、勾留質問がなされていないことを理由に準抗告および特別抗告を行うことになる。被疑者が出房を拒否し、検察官弁解録取だけではなく、裁判による勾留質問にさえも「行かない」ことはよくある。その場合でも裁判所は被疑者に対する勾留を許可するが、勾留許可決定に対しては、勾留質問を経ていないことを理由として準抗告申立てを行うことにしている。刑事訴訟法61条(同法207条1項による準用)は、「被疑者の勾留は、被疑者に対し被疑事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない」としているから、被疑者が裁判官から被疑事件を告げられておらず、被疑者も陳述をしていないことから、刑事訴訟法61条に反するという主張である。

 吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022年)53頁によれば「することができない」は、「法律上、能力や権限がないことを示す言葉です」とされている。なお、この準抗告申立ての結論は、新関雅夫ほか『令状基本問題(上)〔増補〕』(かんぽう、2020年)304頁および田中康郎監修=安東章ほか編『令状実務詳解〔補訂版〕』(立花書房、2023年)334頁に記載のとおり棄却されることになるが、もともと勾留決定に対しては全件準抗告申立てをすることにしているため、格別の手間もかからず、依頼者の不利益もない。

 本件の求刑は懲役4年6月、判決は懲役2年6月であった。判決は相場どおりであるものの、求刑は相場よりも高く、いわゆるビックリ求刑であった。もっとも、その原因が取調べ拒否をしたことにあるのか、依頼者の常習性が影響しているのかは明らかでない。

勾留中の状況等

 本件についても、彼は警察官に呼ばれても取調室に一切行くことはなく、ひたすら筋トレをして過ごしていた。彼自身が取調べに行かないと決めているので、弁護人が特に何かを指示する必要もなかった。

勾留決定および勾留延長について

 本件に限らず、私は、ほぼ全ての事件において勾留決定および勾留延長決定に対して準抗告をすることにしている。本件でも勾留決定に対する準抗告を行ったが、勾留理由および勾留の必要性があり、勾留質問を経ていない点も違法ではないとの判断により、3件とも棄却された。他方で、1件目の勾留延長については準抗告認容(延長期間10日→5日)、2件目の勾留延長については、元々延長期間が8日であったこともあり準抗告棄却、3件目については勾留延長請求されず公判請求された。勾留延長についてだけみれば、取調べを拒否したことにより勾留期間が長くなったわけではない。

保釈について

 結局、3件とも起訴された。本人が保釈を希望していたので、3件目の起訴後(第1回公判期日前)に勾留理由開示を請求し、勾留理由開示公判において、起訴状記載の各公訴事実を認めた(被告人意見は質問方式)。そのうえで、3件全てについて保釈請求をしたところ、裁判所はいずれも保釈を許可した(検察官準抗告は棄却)。

取調べを拒否することは特別か?

 取調べ拒否・出房拒否というと大それたことのようだが、実情は、ただ取調べに「行かない」だけである。逮捕・勾留されている被疑者であっても、取調べに応じなければならない義務はないというのは、日本弁護士連合会の公式見解[1]であり、法学部でも広くそのように教えられている。取調べを受けるか受けないかは、被疑者が自由に決めるべき問題であり、行きたくなければ行かなくてよい、ということになる。

 取調べを拒否することは、誰でもできることである。本件被疑者のような「ベテラン」に限らず、20歳前後の青年や17歳の女性でも取調べを拒否することができたし、それによる依頼者の不利益を感じたこともない。

 京都では警察官・検察官が被疑者の意思に反して強制的に取調室まで連行していく例は極めて稀である。私の経験でも、依頼者が房の中から、「行きません」という意思を表明すれば、警察官(留置担当官)から多少の説得はなされるものの、それで終わり、裁判員裁判対象事件であれ単純な万引き事件であれ、実際に取調室に連行されたことはない。さらに、京都府警では、「取調べ出場を拒否する被留置者に対する対応について」と題する内部通知を各留置施設に発している。その中にも「取調べ出場を拒否する被留置者を出場させる事案は、極めて特異な事例」であると記載されている。また、拒否はしたいが取調べの要請を断るのが精神的に辛いという方には、自分の房の片隅で好きな雑誌を読んでいることを推奨している。これは、留置担当官は房にまで入って被留置者の身体を引っ張っていくことを嫌うからである。

 このような警察の認識も踏まえた弁護活動として、私は次のようなものを実践している。取調べに応じないという対応をするために特別に何かをする必要はない。依頼者に、「取調べに応じなくてもよい」ということを理解してもらうだけであり、それで足りる。取調べに応じないメリットと(ほぼないが)デメリットを説明し、取調べに「行かない」が最善であることを理解してもらえれば、おのずと「行かない」という選択に至るのである。

 当番弁護等の初回接見において、黙秘権や供述調書への署名押印の拒否権の説明とともに、取調べに行くかどうかも自由であること、今回の取調べには行かないが、次の取調べには行くというのも自由であるし、検察官の取調べだけに行くというのも自由であると説明している。「取調べに行かなくていいんですか?」と驚く依頼者もいるが、「逮捕されたことと、取調べを受けなければならないことは別である。あなたが行きたくないのに行く必要はない。警察官が無理矢理あなたを取調室まで連行することはないし、万一そのようなことがあった場合には、私が警察の措置に対して国家賠償請求をすることになる」と説明している。そして、取調べを拒否することで、強制的に取調室に連行されないのであれば、「取調べ拒否」は、現在の司法研修所の刑事弁護教官室が教えているような被疑者段階における原則黙秘と同様のことであるといえる[2]。結局は取調べに応じた方が有利である場合には、取調べに応じるという選択をするというだけのことであって、取調べに応じることに特にメリットがなければ、取調べに応じないということになる。

注/用語解説 [ + ]

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(2026年07月19日公開)


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