警察官の反応
通告書を受け取った警察官は、驚いた様子であった。
「先生、本当にいいんですか。本当に本人の意思ですか。さっきまで普通に捜査に協力してくれていたのに。こちらは余罪も握っていますよ。一応、明日本人には声をかけます。ただ、本人が拒んだら、それはしょうがない」
私は、特に反論することなく、これまでの取調べにおいてAさんは十分に捜査へ協力していること、取調べに応じ続ける義務はないことを伝えた。そして、本人が自分の意思で取調べに行くのであれば別だが、今回の通告書も本人の意思に基づくものであるため、無理やり連れて行くことはしないでほしいと述べた。
重要なのは、Aさんが自らの意思で取調べを拒否していることを明確にした点である。弁護人が一方的に捜査を妨害しているのではない。被疑者本人が、弁護人から説明を受けたうえで、黙秘権を行使しているのである。
その後の取調べと効果
後日、接見でAさんに取調べの状況を確認した。Aさんによれば、通告書を提出してから、警察や検察に呼ばれてもすべて断っていたとのことであった。警察も、一度断ると、それ以上しつこく出房を求めてくることはなかったという。
その後、Aさんの供述以外の証拠が集まり、追起訴は重なっていった。最終的に追起訴は4回となり、被害総額も500万円を超えた。
ただし、Aさんが取調べに応じ続けていれば、さらに多くの事件について供述していた可能性がある。事件ごとの記憶を整理できないまま、取捨選択せずに話してしまえば、実際には犯行をしていない事件まで認めてしまう危険もあった。
また、曖昧な供述に基づいて捜査範囲が広がれば、捜査機関による確認作業が増え、結果として勾留期間が長引く可能性もある。そう考えると、取調べ拒否には、Aさんの供述による余計な追起訴や、誤った供述の形成を防ぐという一定の効果があったと考えている。
勾留延長との関係
本件では、勾留延長に対する準抗告も行ったが、棄却された。棄却理由は、客観的証拠の解析や精査などの捜査が終了していないというものであった。ただ、そこには、Aさんが取調べを拒否していることへの言及はなかった。
この点からすると、取調べ拒否自体は勾留延長の理由として重視されなかったとも考えられる。一方で、取調べに応じていれば捜査が早く終わり、勾留延長が避けられたのではないかという考えもあり得る。
しかし、それはあくまで仮定の話である。取調べに応じることで捜査が早く終わる可能性があるとしても、余罪を供述してしまう危険や、不正確な供述が証拠として残る危険は現実に存在する。
取調べ拒否は、必ず勾留期間を短くする手段ではない。しかし、少なくとも、被疑者が不用意な供述によって自ら不利益を拡大することを防ぐ手段となると感じた。
おわりに
取調べ拒否は、認めようとしている被疑者にとって不安の大きい選択である。しかし、すでに十分な自白をしており、それ以上話す必要がない場合には、取調べに応じ続けることが必ずしも本人の利益になるとは限らない。
特に、記憶が曖昧で、取調べにおいて事件を混同する可能性があり、感情的になって不正確な供述をしてしまうおそれがある場合、取調べ拒否は有効な弁護活動となり得る。
大切なのは、取調べ拒否を単なる「捜査への非協力」と捉えないことである。被疑者の黙秘権を尊重し、余計な供述による不利益を防ぎ、適正な刑事手続を確保するための積極的な弁護戦略なのである。
もっとも、取調べ拒否は、すべての認め事件において機械的に選択すべきものではない。被疑者が事件ごとの事実関係を正確に説明でき、被害弁償や再犯防止策などについて積極的に事情を説明する必要がある場合には、取調べに応じることが有利に働く可能性もある。
弁護人としては、取調べ拒否によって守れる利益だけでなく、取調べに応じることによって得られる利益も説明し、事件の証拠関係、被疑者の記憶や性格、余罪の有無、今後の量刑見通しを踏まえて判断すべきである。
認め事件であっても、取調べに応じることが常に正解とは限らない。取調べ拒否という選択肢を適切に検討し、被疑者本人が十分に理解して納得したうえで弁護方針を決定することが、刑事弁護人の重要な役割である。
(『季刊刑事弁護』128号〔2026年〕を転載)
(2026年10月19日公開)
