事案の概要
本件は、依頼者AさんがBさんと共謀のうえ、いずれも令和7(2025)年8月、2つの小売店からそれぞれ複数の商品を窃取したという窃盗事件である。同時期の同種の余罪が複数存在していた。
受任の状況
先行する事件で逮捕勾留されていたが、先行事件の国選弁護人が示談後に勾留延長に対する準抗告を行い、認容されて釈放された。その後、私は同弁護人から連絡を受け、在宅事件としての対応および余罪対応が必要であるが、同弁護人が私選対応できないとのことで紹介を受け、受任することとなった。
再逮捕まで
初回相談の際にAさんから、先行事件では精神的に追い込まれて頭が回っていなかったという話があった。
その理由は、突然警察署に連れていかれたこと、長々と取調べが続いたこと、接見等禁止がついて外部と連絡がとれないストレスがあったことに加え、警察と弁護士のどちらを信用したらよいかわからない状況に追い込まれたことにあったという。
弁護人は余罪については黙秘するよう指示していたが、警察は「俺はお前の味方だ。どのみち刑務所に3年は入るのだから余罪も今のうちに供述するように」と説得し、Aさんは板挟み状態になっていた。
また、先行事件での釈放から初回相談までの間に、本人だけで出頭に応じたことがあった。
その取調べでは、警察官から「30分で終わる」と言われて、今後の生活のことを供述したところ、サインを求められた調書は10頁ほどあり、Aさんが思っている以上に自身が悪者にされていたという。先行事件の逮捕勾留時に供述したことがつぎはぎされて、Aさんが悪者に仕立てあげられていたようである。
Aさんが、白紙に戻してほしいと伝えたところ、では一から自分で話すようにと言われ、午後6時まで取調べが続いたという。
私は、Aさんと協議し、今後は一切供述をしない方針で進めることとした。Aさんには、先行事件の経験と警察への強い不信感があったため、捜査機関に供述をする危険性を十分に理解することができたようである。
その後、警察からの出頭要請はないまま、約1週間後に本件で再逮捕された。再逮捕されたのと同日、先行事件の公判請求がされた。
取調べ拒否
再逮捕後、Aさんに対しては取調べ拒否を指示した。具体的な取調べ拒否の方法の助言については、特に私独自の工夫はなく、黙秘の必要性、黙秘するためには房から出ないのが最善の策であること、房から無理やり連れだされそうになった場合には抵抗しないこと等を伝え、被疑者と連名の通告書を捜査機関に提出した。使用している通告書は、この事案でも他の事案でも、RAISのホームページからダウンロードした書式を微修正したものである。
勾留延長に対する準抗告
検察官は勾留延長を請求し、延長の決定がされた。勾留延長の理由は、①証拠物検討未了、②引当て捜査未了、③処分決定上必要な余罪取調べ未了、④処分決定上影響する示談交渉結果確認未了、⑤被疑者取調べ未了、の5点であった。
取調べ拒否との関係でとりわけ承服しがたいのは、②、⑤であった。勾留延長決定に対する準抗告申立書では、②と⑤については、
・勾留決定前から取調べは受けない旨の通告書を作成しており、取調べを受けない意思を明確にし、実際に通告書提出以降は取調べを受けていないこと
・このような状況で取調べ未了を勾留延長理由とすること自体不適切であること(高知地決令和6年10月7日LEX/DB25621077参照)
・今後も、引き当たり捜査も取調べも拒否するため、延長後さらに10日の間に、捜査機関が取調べで供述を得たり引き当たり捜査を実施したりすることは不可能である。したがって、証拠収集の可能性はなく、延長の理由になりえないこと
を記載した。
そうしたところ、準抗告審では、「上記②及び⑤は、いずれも被疑者の供述が得られる可能性を前提とするところ、勾留当初から一貫して取調べのための出房自体を拒絶している被疑者から上記延長の期間内に供述が得られる見込みは低く、本件においてこれが勾留期間を延長すべきやむを得ない事由に当たるとはいい難い」との判断がされた(準抗告審決定書)。
②と⑤が延長の理由にならないことは当然であるが、準抗告審が決定理由のなかでその旨を明確に述べたのは、やや驚きであった。
なお、準抗告審は、③、④についても延長理由該当性に消極的な判断をしたが、結局、被害品が比較的多量であることなどから①による延長の理由を認め、準抗告を棄却した。
(2026年10月19日公開)
