この事案は、2025(令和7)年9月8日、佐賀県警察本部が公表したことにより発覚した[1]。同県警科学捜査研究所(科捜研)の法医科元主査(43歳)が2016年8月~2025年2月の8年4か月の長期にわたって鑑定不正を繰り返し、その件数は当初の県警の内部調査で130件に達した。その後に実施された警察庁の特別監察[2]では、さらに110件の不正が見つかり合計239件に達した。
特別監察は犯人検挙への影響について詳細に調査したが、えん罪への影響は不十分に感じられる。2000年代に米国ヒューストン市で発生した鑑定不祥事[3]のように、誤った鑑定や鑑定のねつ造はえん罪の原因になりうるもので、さらなる調査が求められる[4]。
1 鑑定不正の定義と分類
特別監察は、不正行為の詳細な調査を経て不適切な行為を分類した(表1、「特別監察報告書 補足資料4」[5]欄)。

なお、研究者の行動に関する分類と定義は、米国研究公正局(ORI: Office of Research Integrity)によって次のように示されている(表2)[6]。

さらにTurvey[7]は鑑定不正を「鑑定詐欺(forensic fraud)」と「鑑定不正行為(forensic misconduct)」に分類した(表3)。「鑑定詐欺」は表2の「意図的な不正行為」で犯罪性を孕む悪質な行為である。「鑑定不正行為」は表2の「疑わしい行為」に相当し、犯罪性を伴わなくても機関内の調査において申立ての対象となるようなケースといえる。

以上の検討に基づき、表1の鑑定不正を種別で集計したところ、「再分類(平岡)」欄の結果が得られた。図1に鑑定不正の種別件数を示した。

図1のように、鑑定不正で最も多いのは「標準法逸脱」で次いでDNA型分析のグラフの「流用」であった。
「標準法逸脱」で「別の鑑定資料のDNA抽出液等」および「別の鑑定資料の電気泳動データ」が使用された事例は、変死者などの身元確認を目的とする鑑定が多いが、中には準強制性交事件と傷害事件があり、前者については送致されており、その後どのような裁判の経緯を経たのか明らかにされていない。
特別監察では、犯人取逃がし(偽陰性)の可能性については詳細に検討されているが、えん罪(偽陽性)の可能性は十分に検討されていない。ヒューストン市で鑑定不正が発覚した場合は、テキサス州最高裁判所刑事司法健全化ユニットが通知制度に基づき、不正な科学的証拠によって服役している受刑者に対して、弁護士に相談できることを通知する[8]。
注/用語解説 [ + ]
(2026年10月16日公開)
