保釈
Aさんは、再逮捕の初回接見後は、検察庁にも勾留質問にも行かず、警察の取調べを受けないまま公判請求された。そして、公判請求後に保釈請求を行い、保釈保証金の額150万円で許可決定を得た。検察官からは準抗告の申立てがされたが、準抗告は棄却されて釈放となった。
Aさんによると、保釈の際、留置場の警察官から「断り続けたのはすごかったね。取調べに行かなかった人は初めて。先生の策か? すげーな」などと声をかけられたとのことである。私としては、他の署での取調べ拒否をしたことはあったが、当該警察署での実践は初めてであった。
余罪の対応と公判
保釈による釈放後は、別々の4つの警察署から、弁護人を通して任意の出頭要請があり、逮捕リスクを下げるため出頭にだけは応じる方針をとった。Aさんには、包括的に黙秘権を行使することを予め助言し、私も各署に同行したうえで、Aさんが取調室で黙秘の意思だけ示したあとは警察署から連れて帰るということを1件1件繰り返した。
警察から、「何のために出頭したんですか」と小言を言われることもあったが、気にせず警察署をあとにした。
その後の処分としては、在宅で出頭要請された4件のうち2件は追起訴がされ、1件は不送致(黙秘が奏功したのか、Bさんが単独犯として送致された)、1件は不起訴であった。
結局のところ、先行事件、本件、余罪2件の計4件の公判請求がされ、被害額は少額ではなかったが、全件で示談成立または示談成立見込みであったことなどから、執行猶予付きの判決(求刑は拘禁刑2年)となった。
雑感
取調べ拒否については、令和6年9月および令和7年10月の刑事弁護フォーラム特別ゼミなどでノウハウを学び、徐々に実践してきた。
取調べ拒否の実践を始める前は、供述すべきではない事案では黙秘を指示するにとどまっていた。しかし、依頼者は長時間のストレスフルな「説得」や人格否定にさらされ続ける。
また弁護人の負担という意味では、初回接見の際、取調室で黙秘をした場合にどういう「黙秘崩し」が行われるかという実演を行い、依頼者と一緒に接見室で黙秘の練習をするなどの先回りの助言に長時間を費やしていた。2回目以降の接見でも、依頼者が警察から言われたことの不安を払拭するために、取調べで言われたことに逐一反論して心の平穏を取り戻すという時間が必要であった。それでも最悪の場合は、黙秘に失敗するということもあった。
取調べ拒否は、実践を始める前はハードルが高い弁護活動のように思えたが、数件実践するうちに、メリットばかりを感じるようになった。
依頼者にとっては、「説得」という名の人権侵害にさらされる危険がなくなる。調書が作成されるリスクも格段に下がる。弁護人にとっても、接見の際に、被疑者が取調べで言われたことについての不安の払拭以外に時間を割けるようになる。
過去の本実践報告者が口をそろえるとおり、取調べ拒否は、取調室で黙秘するよりも被疑者の負担は小さく、弁護人の負担も軽いというのが実感である。
強制的な連れ出しの可能性があるのは依然として懸念点ではある。福岡県に限っていうと、私は、令和7年11月、福岡県警に対して情報公開請求を行い、「留置場の被留置者が取調べ等で房から出ることを拒否した場合に、警察官がとるべき対応等について記載のある留置管理業務に関するマニュアル、手引き等」の開示を求めたところ、令和7年1月31日付け「留置管理業務マニュアル」の開示を受けた。
同マニュアルの「留置施設における被留置者の処遇」の中に、「取調べのための出場を拒否する被留置者への対応」という項目があり、そこには、「被留置者が説得に応じない場合には、留置主任官から捜査主任官に状況を説明するとともに、留置業務管理者に報告し、捜査と留置の双方の立場から十分な組織的検討を加えた上で、捜査主任官から取調べのための出場をさせるとの判断が下されれば、留置主任官の指揮の下、留置担当官により、出場のために必要な最低限度の強制力を用いて出場させる」との記載がある。このように強制力を用いた出場も想定したマニュアルとなっているが、私の今のところの経験では、強制的に連れ出された被疑者はいない。
私としては、メリットが多く、特段のデメリットもないことがわかった今では、取調べ対応の助言の指針は、「原則黙秘」、そして、黙秘方針の事案では、「原則取調べ拒否」である。
(『季刊刑事弁護』128号〔2026年〕を転載)
(2026年10月19日公開)
